第6話「コンビニの白い息と、心のノイズ」
……
レース会場からほど近い国道沿いのコンビニ。
夜の冷気はさらに深まり、外灯が白いアスファルトに薄く影を落としている。
バイクを停めた三人は、まだ余ったアドレナリンを抱えたまま自動ドアをくぐった。
「寒っ……」
翔也が肩をすくめ、黒のMA-1の襟のリブをそんなないけど立てる素ぶりをする(緊張気味)
「レースってのは、どれだけ走り終わっても体のどっかが燃えてんだよ」
勝ってテンション上がってか、かっこいいんだが、ダサいのか、2人に聞こえるように、革ジャン少年の『自称、ショウ』は、缶コーヒーの棚の前で立ち止まり、くっと笑った。
彼のバイク――あの白いDIOの甲高いツースト音が、まだマサオの耳に残っている。
“速さ”そのものを欲してきた走りだった。
能力ではなく、純粋な技術と執念の速さ。(ファッションセンスはちょい何となくダサ、、いや気になるが…)
6位に終わった翔也は、その背中を見ながら胸の奥で少し悔しさを噛みしめていた。
(息……もたなかったな……。あそこで止めたら……あれ以上は落ちてた)
レースの終盤、肺がきしむほど息を止め続けたツケがまだ残っている。
胸を抑えたまま、翔也は温かく甘い、缶ミルクティーを手に取った。
マサオはというと、こめかみを押さえながら店内の明るさに目を細めていた。
能力を使いすぎた後の、あのノイズ。
耳鳴りと、遠くで誰かがささやくような“心の欠片”がまだまとわりついている。
──それでも、二人の思考の“線”だけは聞こえない。
奇妙なことに、翔也と革ジャン男(自称ショウ)だけは心声が読めなかった。
(オモロ……。こんなこと、初めてだ)
頭痛の奥に、少しだけ好奇心が混じる。
革ジャン少年(ショウ。)は缶コーヒーを三つ買い、店を出た。
外の冷気の中、白い息が三つ、ふっと浮かぶ。
「さっき二人とも……速かったよ」
革ジャン少年は缶を指先で軽く振り、二人へ一本ずつ投げよこした。(ポポ〜イっと)
翔也は慌てて受け取り、マサオは軽く片手でキャッチする。
その一瞬、革ジャンはマサオの指の動きをじっと見ていた。
(……あいつ、なんで気づかねぇ? 今、地面から3センチ浮いてたのに……)
翔也の胸の奥がざわつく。
“浮く”能力をコントロールし始めた今、反射的に重心を軽く浮かせたことに気づかれたかと思ったが――
革ジャン少年の視線はマサオの指に向けられていただけだった。(まぁ俺はタダの6位だしな。。)
「にしても……」
革ジャンのショウは缶を開け、夜空を見上げた。
「お前ら、ただの学生の走りじゃねえよな?」
言葉の裏に、含みがあった。
その、かすかな濁りにマサオの心がざわつく。
(こいつ……知ってるな。いや……勘か?、その前に『お前ら?』初対面だろ、せめてアンタらか、君たちだろが…)
少しだけ、心声が“かすれたノイズ”としてマサオの耳をかすめた。
――金。
――もっと“上”に行きてぇ。
――あのスーツの連中……。
マサオの頭痛がジリ、ジワ、チクっと強くなる。
「おい、大丈夫か?」
翔也が隣で声をかける。
「ああ……。いつものだ」
マサオはポケットから頭痛薬を取り出し、ため息をついた。
革ジャン少年はその動作を興味ぶかそうに見ている。
「へぇ……無理してたんだな。あの走りで。
でも、俺は負けるつもりねぇからよ」
彼は缶を飲み干し、バイクへ歩き出す。
ちょうどそのとき――
コンビニの駐車場の奥から、黒いワンボックスがゆっくりと姿を現した。
中から、黒スーツの男たちが数名降りてくる。
腕時計の金色の縁。
紺のタートルの隙間から覗くタトゥー。
薬が切れたような落ち着きのない細身の男。
その気配だけで、翔也の背筋がわずかに震えた。
「あ……こいつら……」
翔也は、けして口には出さず心の中でつぶやく。
(レースの前……vespaのマサオ?、あいつらと話してたよな……)
黒スーツたちは近づいてきたが、マサオたちには目もくれず、革ジャン少年の、自称『ショウ』の方へ声を掛けた。
「おい、お疲れさん。次の“案件”の話、聞いてねぇだろ?」
革ジャンの『自称ショウ』は一瞬だけ三人の方を振り返る。
まるで “巻き込むなよ?” と言いたげに。
そして、少しウザったくかに、答えた。
「……今、コーヒー飲んでたとこだ。あとで行く」
黒スーツたちはにやりと笑い、ワンボックスへ戻っていった。
去っていくテールランプを見送りながら、翔也は息を呑む。
「なぁ……お前ら、本当に何者なんだ?」
革ジャン男の視線がマサオへ刺さった。
マサオはしばらく沈黙し、空を見上げる。
夜のコンビニの白い光が、彼の瞳に映る。
「さあな……。俺も知りたいよ。
ただ――」
言葉を切り、頭痛の余韻の中でひとつだけ確信する。
「“繋がってる”のは、確かだ」
革ジャン男はなんともいえない顔で笑い、白いDIOに跨った。
「次またレースにお前らが出たら……もっと面白くしてやるからよ」
ヘルメットを被り、乾いた2スト音を夜に響かせながら走り去っていく。「パン!、ペッペパンペッペ、ペーンぺぺぺ〜…」
残された魔竿と翔也は、しばらく無言だった。
(なんか名前もだが、ショウはかっこいいんだか、ダサいんだか、かっこよくありたいのは確かかな…)と、2人とも内心同じ気持ちだ。
翔也は缶コーヒーを握りしめ、小さく息を吐く。
「……マサオくん、ぁ、マサオでいい?、あいつらと何かあるんすか?」
マサオ『魔竿』は答えず、遠ざかるテールランプの残光だけを見つめていた。
心の奥で――
あの黒いワンボックスの影と、自分の幼い記憶の断片がかすかに重なる。
(……思い出したくないんだなぁ、あの頃のことは)
次に向き合うのは、避け続けてきた“幼少期”の真実だった。
⸻
→ 第7話『魔竿:幼き日のノイズ』へ続く




