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“魔竿(まさお)“  作者: リキュウ


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10/11

第10話「錆びたブルーと、進路未満」


 放課後の校舎裏は、いつも中途半端な時間が流れていた。

 帰るやつ、部活に行くやつ、何となく残ってダベるやつ。


 マサオは、そのどれでもなかった。


 校舎の隅に停めたボロいベスパ ――


 自分で塗ったブルーメタリックは所々剥げ、下から赤茶色の錆が浮いている。


(ボロい。 サビ。 ちゃんと下地やれよ、って思われてんだろうな)


 そう思った瞬間、ノイズが走る。


(ダセぇな)

(でも、あれ一人でやったんだろ)

(金ないのに、ようやるわ)


 褒めでもケナシでもない、半端な感情。

 マサオはヘルメットを被り、ノイズごとエンジン音で潰した。


***


 バイト先は、個人経営のホットドッグ屋だった。

 鉄板と油の匂い、刻まれる玉ねぎの音。


「マサオ、ソーセージ焦げるぞ」


「……すみません」


 言葉は少ない。

 けれど、この店ではそれでよかった。


(真面目だな)

(不器用だけど、嘘はつかねぇ)


 店主のノイズは、静かで温度が低い。

 マサオは、この空間が嫌いじゃなかった。


 ファーストフード店の面接で浴びたノイズ――

(片親か)

(なんか面倒そうだな)


 あのときより、ずっと。


***


 閉店後、ベスパで夜の街を流す。

 信号待ちの隣に、原チャリが二台並んだ。


 視線が、来る。


(錆びすぎだろ)

(でも音、悪くねぇな)


 マサオは何も返さない。

 青信号と同時に、ただ前に出る。


 速さじゃない。

 勝ち負けでもない。


 ノイズが、少し遠のく。


(……走ってるときだけ、静かだ)


 それが、自分の答えだった。


***


 夜、部屋で工具を広げながら、雑誌をめくる。

今のベスパも、気に入ってるし、102ccにはボアップしたが、やはり排気量を上げて、たまにはかわいい子乗せてドライブしたいし、加速感に余裕も欲しいし。。


 ランブレッタ。

 ベスパ200ラリー。

 イタルジェット・ドラッグスター。


(どれも、全然資金足りね〜し。)


 卒業後の進路欄は、まだ白紙だ。


 就職?(面接のノイズがいたいし)

 大学?(金も頭も足りない)


 そんな余裕は、どこにもない。


(とりあえず、バイト増やすか)


 現実的で、夢のない答え。

 だが、ノイズは鳴らなかった。


 静かだった。


***


 その夜、帰り道のコンビニ前。

 黒い車が一瞬だけ視界に入る。


 スーツの男たち。

 どこかで見たような、見ていないような。


(……面白そうなの、いるな)


 一瞬だけ届いた、はっきりした悪意のノイズ。


 マサオは立ち止まらなかった。

 まだ、関わる気はない。


 ただ――

 世界が、少しずつ近づいてきているのは、分かった。


 錆びたブルーのベスパで走りながら、

 マサオは思う。


(逃げ道は、走ることしかないな)


 その選択が、

 いずれ「魔竿」と呼ばれる理由になるとも知らずに。

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