ー 9 ー 月の名を持つ者たち
ヒトにとっての可視光は380nm〜780nmだが、その外側には紫外線や赤外線といったヒトの目が色と認識できない波長が存在する。生物の中にはヒトには見えないこれらを感知して狩りなどに利用しているものもいるが、それでも限度がある。地球上のあらゆる生物、未だ見つかっておらず学名のない生物も含めて、どんな生物も知覚できない波長というものが存在する。それが、神色。存在しているが見ることは出来ない。ヒトで例えると、その光は眼の水晶体は通過するが網膜に辿り着いてもその光を受容できる視細胞が存在しない。そのため脳が色として認識することが出来ない。これは、他の生物にも当てはまる。神色を受容できる細胞を、地球上の生物は持っていないのだ。
しかし、唯一の例外が神。正確には神の血を引く者。あらゆるものを認識できる神のみが、これらの光を色として見ることが出来る。そして、彼らのみがこれらの色を彩色体と呼ばれる細胞小器官で受容し、そこで合成される色力によって扱うことが出来る。神が原生のヒト、ましてや現生生物と同じような生体構造をしていたのかは今となっては知る術はなく、神が彩色体を持っていたのかは分からない。しかし、少なくとも現在を生きる彼らの細胞内には例外なくそれが存在している。これは、碧がルナアイ製薬で自身の細胞を分析したことで判明したことだ。
神の血を引く者は、いつの時代も十二人存在する。彼らの体内には僅かに神の力が宿っているため、神色を知覚し、その波長を扱うことが出来るのだ。
彼らは皆月の名を持っており、現在の世にも存在している。名字に太陰暦を与えられた彼らは謂わば神の末裔だ。
睦月真白。如月紫礼。弥生黄揮。卯月桃。皐月翠。水無月碧。文月緑哉。葉月茜。長月紺菜。神無月灯和。霜月紅葉。師走瑠璃。
月暦十二士と呼ばれるこの十二人が、現在神色を知覚できる神の子である。
そして、彼らの親として登録されているのが黒御統という男。彼らの血縁関係は家族間のそれよりも薄いため実子という訳ではないが、つまり、碧や紫礼を含む十二人は戸籍上の義きょうだいということになる。彼から逃れるために、多くは名を変えている。黒御は彼らの力を利用してとあることを計画していた。それは────。
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碧と紫礼が破壊したプラスチックは黒い靄のエネルギー供給源だった。神色によって構成されたそれらは極限られた者しか見ることは出来ず、黒御が色力を込めたことにより色具化していたそのプラスチック片からエネルギーを得ることで、神色が靄という形で碧たちの目に映ったのである。二人はその核となる部分に色具である日本刀や矢を介して自身の色力を込め波長を塗り替えることで、元々プログラムされていた情報を上書きしたのだ。
色具とは色力の移動を媒介する物体であり、電気と同じ様に金属を伝導する。しかし、“金属”という条件はエネルギーの伝導性の有無による分類であり金属そのものに価値がある訳ではない。人体は化学エネルギーから電気エネルギーへの変換を行う。色力もその例に漏れず、電気エネルギーとして体外に放出される。そのため、今回黒御は価格面から金属よりも優れている伝導性プラスチックを使い、碧たちに襲撃を行なったのだ。
本来なら黒御が扱える筈のない色力と神色。しかし、何故か彼はそれらを操作し知覚することが出来る。それは偶然か必然か。今はまだ誰にも分からない。
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碧が紫礼、由依、愛と急遽話し合いした日、メッセージを受け取った十人は各々溜め息を吐いたり天を仰いだりしたが、そこに驚きはなかった。計画も大分進んでいるがここからが本題だ。水面下での準備と牽制を直接的な行動に移すことになる。
栗色の髪の毛の少年がぐっとベッドから身を起こした。ふわふわとしたそれと同色の瞳は悪戯が好きそうな光を帯びている。誰もいない部屋で一人笑みを浮かべた。
「碧に会うのが楽しみだな」
お読み頂きありがとうございます。
今回は、本作の土台となる設定についての説明でした。




