ー 4 ー お出掛け
月曜日、約束通り集まった碧たちは電車に乗って藤沢市の中心部までやって来た。紫礼は普段見ることのない蓮の私服に上機嫌だ。碧は服装に特にこだわりがなく、薄手のオーバーサイズのパーカーにロールアップのショートパンツだ。紫礼はフェミニンな雰囲気のラベンダー色のワンピースを着ている。蓮が加わったこともあり、映画を観てからお茶をすることになっていた。
蓮が碧の隣に近付いてくるためさりげなく紫礼と場所を代わると、紫礼は好機とばかりに蓮に話し掛ける。
「蓮くんはどういう映画が好きなの?」
「……ホラー系とか、かな」
(へぇ、意外。そういうのは嫌そうな感じなのに)
蓮は学年の中でも有名で、運動神経はさておき整った顔立ちが特に人気だった。全てが完璧でないところに魅力を感じるらしい。斯くいう碧や紫礼もそれなりの知名度があるが、碧はそういったことに興味はないし紫礼は中学一年の頃からずっと一途だ。
道中何の映画を観るかの話題になり、蓮はホラー系、紫礼は勿論蓮に同意し碧と来乃波は何でも良いということで丁度上映中だったホラーサスペンスに決まった。座席は、碧の隣に座りたい蓮と紫礼を蓮の隣に座らせたい碧の攻防により、結局右から順に来乃波、碧、蓮、紫礼となった。
いよいよ始まるという頃、蓮が碧に話し掛けてきた。
「橘さん、怖いのとか大丈夫? もし怖かったら、て…手とか掴んでも……」
上擦った声で言う蓮の言葉に碧は納得する。
(あー、それでホラー好きね。……っていうかあからさま過ぎない?)
紫礼に申し訳なくなる程のことを言ってくる蓮に曖昧な返事をすると、照明が落ちた。映画の始まりだ。
・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・
「すっごく面白かったね!」
満足感に満ちた来乃波の声が辺りに響く。
四人が見た映画はサスペンス要素は殆どなく、物語の大半がゾンビの様な謎の生物に襲われるというものだった。蓮はホラー好きと言う割には始終叫んでおり、それに便乗して蓮にくっついていた紫礼は役得だったようだ。
「あれを面白いと言える櫻井さんがすごいよ。九谷さんも……」
魂が抜けたような声で言う蓮だが、これからは容易にホラー系が好きだと言わない方が良いのではないかと碧は思った。
「蓮くん、名字じゃなくて名前で呼んでよ。“紫礼”って」
普段は大人しいのに意外と肉食系な紫礼である。二人で話が進んでいる間に碧は来乃波と話に花を咲かせる。中三女子が興味を抱くに相応しい、進学先についての会話である。
「水咲は高校どこ行くの? やっぱり一高?」
「んー、どうだろう?まだ全然考えてないけど。来乃波は?」
「あたしはスポーツ推薦かな」
陸上部に所属している来乃波は全国大会に出場できる程の実力を持っており、私立であれば行くところには困らないという状況だ。
そんな話をしている内に目的地に辿り着いた。紫礼によるとパンケーキが美味しいと話題らしく、店内に入るとお洒落な雰囲気が漂っている。四角いテーブルに案内され、女子三人の連携により紫礼と蓮が隣同士、蓮の前には来乃波が座り、碧は蓮の対角線に座る。蓮は何やら不服そうだが碧は大事な親友と仲を違えるつもりはない。
(大体、あれだけモテてるなら紫礼の気持ちにだって気付いてるでしょうに)
紫礼の明け透けな態度により気付く気付かない以前の問題だが、蓮はそれを無視している。昼食と呼ぶには糖分が多めなスイーツを食べながら雑談をする。紫礼は蓮のパンケーキに蜂蜜でハートを描いていた。相変わらず蓮へのアタックは見ている方が恥ずかしくなる程強烈だ。碧に好意を寄せている蓮だが、紫礼を邪険に扱う程性格が悪い訳ではない。寧ろ、クラスメイトとしての紫礼は好感度が高い方なのではないだろうか。
「ねぇ、これすっごく美味しい!」
対する来乃波はマイペースに食事を楽しんでおり、口いっぱいにスイーツを頬張っている。隣に座る碧に「ね、水咲!」と笑顔を向けた。碧も甘さ控えめな蜂蜜を掛けたパンケーキを一口大に切りながら「うん、そうだね」と返答した。しかし、来乃波はどうやらお気に召さなかった様でただでさえスイーツで膨れている頬を更に膨らませて碧を軽く睨んだ。
「水咲ってさぁ、笑わないよね。あたし見たことないかも、水咲の笑顔」
「……あー。まぁ、そうかもね。来乃波はいつも楽しそうだけど」
碧の言葉に来乃波は自信あり気に首を傾けて再び笑う。咀嚼中の糖分を飲み込んでから、何かに宣言するかのようにカトラリーをマイクに見立てて口元に手を持って来た。
「そりゃあ、楽しまないと人生損でしょ!」
そう言って来乃波は空いている方の手でピースサインを作った。
(“損”…ねぇ……)
若干思考を飛ばしながらも全員が食べ終えたのを確認し、レジに向かい会計を済ませる。
「この後どこか行く? 特に予定がないならのんびり歩い…」
突然、碧は不気味な感覚を覚えた。体内にある自分自身と反発するような何か。店の外、丁度死角になっている部分から感じる奇妙な感覚。来乃波と蓮は急に言葉を切った碧に不思議そうに首を傾げているが、気にしている余裕はなかった。
日常は突如として非日常になるものだ。
お読み頂きありがとうございます。
紫礼曰く、碧にアタックしている蓮も趣があって良いらしいです。




