ー 3 ー 碧の日常
月曜の予定が決まった後、紫礼と来乃波は部活に行くと言ってそれぞれの部室に向かい、蓮は碧とは別方向のため校門で別れた。
「ただいまー」
帰宅しても家には誰もいない。自室に荷物を置き制服からルームウェアに着替えるとその日の授業範囲の問題集を一時間程で解き終え、碧はリビングのソファに身を投げ出してテレビを付けた。横には大きなグランドピアノが置いてある。
「梅雨前線の南下に伴い…」「ルナアイホールディングスの代表取締役に新たに就任した…」「円安による物価高騰の影響で…」
番組を変えていくが特に気になるものは放送されていない。
(何か録画してたっけ……)
リモコンを操作していると、帰宅してから再度ボタンをスライドしてあったスマホがバイブレーションと共にぴろりんっと鳴った。見ると、登録名が表示されていたため通話ボタンを押す。
「もしもしー水無月です。────え、明日だった? 明日はちょっと模試があることが今日分かりまして…────ごめんって。────仰る通りで……。────はーい。じゃ」
碧は電話を切ると部屋からノートパソコンとブルーライトカットの眼鏡を持って来て電源を入れる。起動中のマークを眺めながらソファに体重を掛けて天井に視線を向けた。
(また二人に怒られちゃうなぁ)
自身の無関心さに若干呆れながらメールを開くと慣れた手つきでキーボードを叩いていく。
『件名:土曜日の定例会議欠席のご連絡
関係者の皆様
水無月です。
明日土曜の会議の件ですが、学校での用事ができたため参加できなくなりました。日曜日までに会議内容の書類に目を通し阿笈を通じて役員の皆様へ返信致しますので、いつも通りの進行でお願い致します。
質問等ございましたら阿笈にお尋ね下さい。私の許可等が必要な案件のみ後日まとめて対処致します。
ご迷惑をお掛けしますが、何卒宜しくお願い致します。
水無月碧
minazuki.aoi@l-mail.com』
一斉送信のボタンをクリックし画面を軽く閉じると、再びソファに横になる。
中学三年生の少女が書く、更にはメールとして送信する文章ではないが、碧は当たり前の様子でいる。これが、“水無月碧”としての日々だった。
・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・
夜、由依が帰ってくると碧は夕食の支度を手伝いながら「そういえば、」と話を切り出した。
「月曜日に紫礼たちと遊びに行くことになったんだ」
「月曜? 学校は? 放課後に行くの?」
予想通り、当然の疑問を口にする由依。碧はすっと目を逸らして心持ち小さな声で呟く。
「明日模試があって……」
「明日? まさか今日知らされた訳じゃないでしょ? 学校の予定は事前に教えておいてっていつもあれだけ言ってるのに……」
言いたくないが言わなければならないことをできるだけ少ない損害で伝えるために持ち出した話題だったが、逆効果だったようだ。呆れたように言う由依に謝り説明する。
「まぁちゃんとメールして解決できるなら良いけど、あんまり迷惑掛けたら駄目だよ?」
そう言った由依は碧が“水無月碧”と“橘水咲”の二重生活をしていることを知っている。寧ろ、由依のお陰でこのような生活が成り立っていると言っても過言ではない。
「分かってるよ。さっき愛にも怒られた…っていうか注意された」
「分かってるなら、報連相とまではいかなくてもせめて報告くらいはしてよ?」
「……善処します」
本当に分かっているのか分からない返事をした碧だが、自分の言動に責任を持って物事に向き合うことは長年碧を近くで見て来た由依が一番よく知っている。そして、本当は人の上に立つのではなく自由に過ごしていたいことも。
準備を終え二人で夕食を摂りながら、由依は碧の将来が平和であることを願った。
・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・
翌日土曜日、問題なく模試を終えた碧が帰宅後パソコンを開いてメールの確認をすると添付ファイルが大量に付されたものが届いていた。見ると、頼んでおいた書類だった。
(明日は一日お仕事かぁ)
事前に日程を伝えていても日曜日に会議があっただろうが、自身の杜撰さが招いた結果を払拭するために、そして翌々日を楽しむために、休日の返上を余儀なくされた碧だった。
お読み頂きありがとうございます。
今回は碧の本来の様子です。




