時間が無い
二人で戻ってみると、部長の姿がない。
「部長なら、市長に呼ばれたので行きました。『戻れないだろうから、会議は報告書で出してくれ』と言っていましたが。会議室、取れたのですか?」
(会長が、『部長は参加しないだろうから、当てにしては駄目だよ』。まさか、本当になるとは。)
「会議室、取れたよ。これ、【会議室3】のカギ。」
カギを渡すと、女子職員が話しながら移動をはじめる。一方、臨時職員の女子は、机に向かって作業中。
「君達も、会議室へ行ってくれるかな。」
「えぇ?いつも参加していないですよね?」
「今回は、色々あって人が足りないのです。一緒に聞いてください。」
芳しくない返事をし、机を手早く片付けると、こちらも話しながら移動をはじめた。それを見ていた同僚達と課長も苦笑いしながら、会議室に向かって行った。
「おまえの所も、大変だね。ところで、会議中でも電話は出てよね。対応できない人が来たら電話するからね。」
「わかった。長くなりそうだけど、留守番頼むよ。」
「あとで、返してもらうから。期待してる。」
こいつの期待は、おれのふところを直撃する。彼女のいるこいつは、貸しの度にお返しと称して、互いの旧友の居酒屋店長の所で、ツケで飲んで来る。『昨日行ってきた、よろしく。』二人分を払うおれ。ふところは・・・。
「そうだ。今返すよ。」
会長に、こいつとの貸し借りをボヤいたらもらったんだ。ポケットから出した、チケットを渡す。
「映画館のチケット?先行予約券【48】。これなに?」
「来週から有名な映画が、目白押しだろ。それを見込んで、席の予約券さ。普通、開演すると先着で椅子に座るだろう。この券があれば、1枚1回、開演前から席の予約が取れる。但し、予約は、7日前だけ。席が重複した場合は、番号の若い方に権利がある。1回につき隣り合わせの2席取れる。若い番号が同じ席を取ったら電話が入るので、席の移動が必要。どう?もっといる。」
「ふ~ん。面白い企画が始まったんだ。見たかった映画は、3つあるんだが。予約だけ?」
「では、予約券3枚と招待券6枚でどうだ?」
「もう数枚欲しいけど・・無理っぽいな。いいよ、それで手を打とう。」
(本当に会長の読み通りになった。まあ、ふところが痛まないだけよかったんだけど。会長って、未来予知?できる人?)
会議室に入ると、席にはコーヒーが配られ、遅いぞの目力に耐えながら、席を探す。
課長が、人差し指で机を〈コンコン〉と。そこ、奥の課長に挟まれた席じゃないですか。あれ?左右の席は、課長以下、担当職員と臨時のお姉さまが、左右に分かれて睨んでいる。
すごすごと席に向かい座ると。
「この会議を、言い出したのも、会長に指示されたのも君なのです。早く始めなさい。」
「はい」
緊張してきた、息をすい、ユックリと吐き出す。顔を上げ、左右を見て。
「遅くなりすみませんでした。それでは、午後の会議を始めます。
この会議をなぜ開催したのか。(女子諸君は)うすうすご存知と思いますが、改めて説明します。
午前に住民代表と名乗る人達が、『学区割りの陳述書』を置いていきました。これがそれになります。すみません、そちら(女子諸君)の席を合わせてもらいますか。私達は、午前に見ているので資料はそちらでご覧ください。
それを、説明しますと・・・・・と言う事になります。」
「それだと、前回拒否した事と同じ事ではないですか?なぜ、同じものを出して来たのでしょうか?それに、学区は承認されて公示されていますので、そもそもこれが出てくるのがおかしいと思います。」
「まあ、確かにそうなんですが・・こちらもご覧ください。封書で会長に届いた書類になります。」
「え?文教委員会が取り消しですか?」
「議会にも、同じ文章が届いていると思います。明日の議会で、取り上げられれば公示は取り下げになるかと思います。
まあ・・・。ご存知の通り、会長と副会長は、入院されましたので 退院まで保留になるまでの・」
「ちょっと待ってください。会長不在でも、部長代行で会議は進むのはないですか?」
「それなんですが、会長が目を通す前に、わたしが部屋に入って嘆願書の説明を始めたので、この書類は見ていないのです。」
「・・・・(嘘つき)」
「その為、会長(代行権限のある副会長)の委任状がもらえませんでしたので、退院まで保留になるかと思います。」
「それでも、会長の再検査は、数日で終わる程度でしたよね?週末の議会には、間に合うのではないですか。数日で何が出来るのです?もしかして、その会議ですか?」
「会長と副会長は、再検査以外に体長不良を訴えていました。再検査のあと、それの検査をやる様です。」
「・・・(出来すぎでバレバレ)」
「会長がおっしゃるには、来週の月曜には議会に出れるとの事です。」
「一週間で、なにかやるのですか?」
「それで集まってもらいました。協力お願いします。」