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ところで君、映画は好きかい?

コンコン


「どうぞ」


わしは、余程 仏頂面をしていたらしい。入って来た職員の引きつった顔が、わしの不機嫌さを表している。見ていた書類を、机に置きながら。


「なにか用かね?」


手に持った書類を、ワシに渡して一目散に出て行きたい。そんな気配を感じさせながら、それでも精一杯 気をはって、こちらに歩いて来る。


「先ほど、住民代表だと名乗る人達がいらっしゃいまして。『学区区割りの陳情書』だと、これを渡そうとするので。『学区は、公示されていますので、変更はできません。』と伝えたら、大声を出して『お前は、何もしらないのか。役立たずは、引っ込んでいろ。会長は、どこだ。』と、騒ぎ出しました。」


「それで。事務所がにぎやかだったのか。ケガはなかったかい?」


「誰もケガはありません。騒がれても面倒なので、会長に渡すという事で書類を預かっておきました。これが、陳情書になります。」


「ご苦労だったね。」


「それで、彼が言った?」


「『何も知らない』と言われた事かな。これを、見てもらえるか。」


机の書類を、取って職員に向ける。


「失礼します。」


パラパラ、紙をめくる音が静かな部屋に。


「これは・・なぜ今頃、承諾の取り消しなどと・・」


「君は、区割りに参加していたよね。東の中央に、橋があって、そこを境界としたのを覚えているかい。」


「はい、あの橋は、狭くて車一台がやっと通れる幅しかないので、事故があれば2校で対応する必要になると、橋から少し離した所を境界にしましたが、それがなにか?」


「それの地図だが、小さくて線も分かりづらい。意図して、作図したのだろうと書かれている。」


「え。そんな事は、ありません。」


「それは、分かっているよ。この場所だが、何が起きているか聞いているかな。」


「その場所は、前に犬が落ちて騒ぎになったところですか?新聞に書いてあった気がします。」


「そう。この場所はね、前の地主と県で所有権を争っているそうだよ。それで、柵が不完全な状態でね、事故の恐れがあるのだと、それに書いてある。」


「でも。事故が起きても責任は、管理者で教育委員会とは関係ないのでは?」


「まあそうなんだがね。『事故の恐れのある場所を、複数の学校の管理に置くのはおかしいだろう。』と言うのが、取り消しの理由だそうだ。」


「そんな。言いがかりですよね。」


「まあそうなんだがね。取り消された以上、何らかの対応が必要になってきた訳だ。」


「では、腹案に上がっていた。開校ギリギリまで待って、公布するのはどうでしょうか。一回公布されていますので、境界に住む保護者の問い合わせには、こちらで個別対応します。」


「まあ、それでもいいのだけどね。ここまでやって来て、あとは放置と言うのは、少し無責任かなと思うよ。」


「それでも、そちらの陳情書よりはいいかと。」


「君は、見たのかな?」


「サッとですが見ました。住民の人達が、この案の素晴らしさを、訴えていましたので、おおむね理解出来ているかと思います。しかし、用地の件もありますので、実現はいかがかと。」


「どれ・・・ほう、これは出来ないと言う事は、ないが・・一体だれが?」


「しかし、もう用地の契約は、終わっているのでは?」


「そうだよ、こちらの契約は、終わっている。恐らく、県も終わっているだろう。」


「県?ですか。」


「これは、一部の人しか知らないのだが。・・契約は終わっているだろうから、教えておくが。」


「はい、他言無用ですね。」


「そうだ。今回の計画は、開校後の人口増加を見込んで、余裕のある計画になってる。」


「はい。」


「それでも、開校工事と並行して行われる、環状線やそれに伴う郊外大型店の開店、県都への四車線など、利便性が向上するこの町は、さらに人口が増大するだろう。」


「友達があつまれば、その話になります。」


「予定した余裕は、早ければ3年、遅くても10年以内に無くなり。さらなる開校が必要になるだろう。と、県でも考えている。そこで、いま計画している学校を、小中学校一体型として開校させ。手狭になる前に、隣接して保有している土地に、中学校を新設、一体型の中学校は廃止して小学校に併合させる案で、動いているのだよ。」


「初耳ですが、でも、県が買いとってくれるのですか?」


「そうだ、これは、極秘扱いだからね。外に漏れると、知事の首が危なくなる。」


「分かりました。でも、県の買い取った土地は、どうするのです?」


「市で借り受けて、『市民家庭菜園』や『ゲートボール場』『ドックラングラウンド』など、色々に活用するそうだが、これはこちらの管理外なので、詳細は教えてもらっていない。」


「そうでなんですな・・・え?という事は、?」


「うむ、誰かが漏らしているとしか、考えられない。」


「そうですよね。この陳情書にある学校規模は、県の用地を含んでいないと無理ですから。」


「この陳情書通りにやるにして、県の用地を組み入れ大きな学校を作れば、新市街地を東側学区に入れるのは出来るだろう。しかし、数年の人口増加で、東側だけ児童超過になってしまう。そこから再度の学区割りのやり直しは、混乱と対立しか生まないだろう。」


「私もそうだと思います。それで、委員長に別案でもあるのでしょうか?」


「そう、君は担当者だからね。君にも骨を折ってもらおう。ところで君、映画は好きかい?」

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