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瑕疵

「これはこれは、誰からのアポと思えば、今をときめく市長キラーと名高い議員さんではないですか。さあ、こちらへお座りください。今日は、どんなご用向きで?」


「失礼いたします。今日は、先日公布された『学区区割り』について、少々ご相談がありまして。」


「おお、最近色々と話題になっている学区ですか。あれは、正式に手続きされた物で、特段問題になる様な事は?」


「そうですね、手続きに問題は見えませんでした。」


「では、支持者からごねられたのですかな?何とかしろ、次回の選挙に出るのだろう。とか、ですかな。」


「正直に申し上げますと、そうなんです。いささか、これには困ってしまいまして。」


「それで、相談にいらした。しかしですな、正式に公布されたものですしねえ。一旦決まった事を(くつがえ)すとなると重要案件となるはずですが、その場合は本会議で・・」


「ええ、調べて来ました。」


「ああ、私の派閥の票集めですかな。こまりましたな・・・」


ああ嫌になる。いかにも困った様子で、下を向いている。まとめてやるから出すものを出せ。事と次第によっては・・・見え見えだ。


「そこで、ご相談なのですが。文教委員会で取り上げられた承認を、取り消していただきたいのですが。」


「え?」


「お願いします。」


「それは、無理というものです。正式に・・」


「それは分かっています。実は、こういう書類を持参してきました。」


「なんですか。『意見書取り下げ』?・・・あるのは、警察、消防、医師会ですか。これは?・・しかしですな。意見書は、承認に必要ないのです。単に、区割りが正当であるという証明にしかならないのです。でも、なぜ、取り下げに?」


「支持者から調べて欲しいと依頼を受けて、公布までの書類を精査しましたところ。ある事実が隠れている事が分かりまして、それを、お知らせしたら、この書類を渡された。と言う事です。」


「事実の隠蔽?ですか。」


「いや、そこまでではないようです。単に事実を知らなかった。と見ています。」


「それは、どのような?」


町の東部を撮った航空写真。


「この橋の部分なのですが、お分かりですね。」


「ここは、河川の買収で県に売った所だが、それがなにか?」


「ここ・・・転落防止柵が途切れていますよね。」


「それは・・今、県と協議中の場所だからな。わしの土地を県が買収と言っておるので、協議中だ。」


「たしか、県の主張は、買収に先立ち現地立会の上、測量を実施。測量図が出来たところで、再度立ち会って現地確認、その後、境界の承諾をもらって買収した。よって、この場所(と写真に線を描きいれる)まで県が買収した。でしたね。」


「そうだ。わしの主張はこうだ。(書き込んだ線から川寄り、堤防ぎりぎりに線を書き込んだ)」


「これだと、転落防止柵が設置出来ませんよね。」


「ああ、そうだな。わしもここに柵があっては邪魔なのでな。それで残したのだ。それでは困るだろうと、県には無償で貸し出すから転落防止柵を設置していいと言ってある。」


「たしかゲート付、でしたか。(不当投棄する気、満々じゃないか)」


「そうだ。それなのに県は、買収済みだから許可を貰う必要もないので、転落防止柵を設置すると言ってきた。当然、差し止めたがな。代わりに、わしの方で柵を作ってある。」


「これが、そうですね。」


「おお、写真でもきれいに写っているのだな。そうだ。それに、少し待ってくれ。・・・・・これだ、買収後の公図だ。ここがその場所だが。ここに、何も書いていない土地があるだろう。分筆後に出来たんだ、無番地と言うらしい。ここが、買収から残ったわしの土地だよ。」


「(それって意味あるのか?)取引の経緯は、分かりました。話しは、変わりますが。ここで、犬が川に落ちた話はご存知ですか?」


「たしか、引き上げるのに消防が出て、騒ぎになったそうだが。」


「そうです、この写真の部分ですね。下に隙間がありますね、ここから入って落ちた様です。」


「それは、飼い主の注意不足だろう。本来、人が落ちないように作ってあるのだ。犬が通るなど考えてもいないよ。」


「そうですか、でも、犬が通るなら小さな子供では、どうでしょう?」


「子供?・・・わざわざ、四つん這いになって入っていくかね。考えすぎだ。」


「そうでしょうか、大人の考えもしない事をするのが子供だと思うのですが?落ちれば、橋を含めて転落防止柵が大人の高さほどあって、救助出来ません。川に入るのも大変です。入って抱きかかえても、何処から助け出します?川の流れもあるので、元の川に合流する河口まで流れれば川から助け出せそうですが・・子供がそこまで・・」


「わしに、柵の下まで封鎖した柵を作れというのか?その費用は、県?市?それとも地域住民が出すのかね?わしはゴメンだよ。完全な柵になったら、県も協議をうやむやにして、引き伸ばしだけするだろう。それが分かって、柵を手直しするつもりはない。」


「そうですか、今、この町は、環状線計画や県都への4車線計画など、郊外開発が急ピッチで進められています。この橋を通る道路ですが、市道に格上げになり周囲に住宅が建つのも時間の問題でしょう。当然、住民が増え、子供も増えていきます。」


「なにが言いたいのだね?」


「この柵の下に、入れないような柵があればいいのですが。・・この道ですが、農家の子供達が県都の小学校に通う通学路になっています。それで、保護者達が春秋とボランティアで清掃活動をしているのはご存知ですか。彼らに、子供では取り外せないが春と秋に補修が必要な程度の柵を設置してもらう。と言うのはどうでしょうか。当然、安全の為とはいえ、人の土地に設置するのです。良い顔はしませんよね。そこで、学校設立後は、PTAでの郊外活動としてもらいます。」


「ふむ、いいんじゃないかな。」


「でも、問題があるのです。これをご覧ください。ここです、橋の隣に学区の境界線があるのです。これでは、どちらの学校にはいるのか、それとも2校で管理しますか?」


「これは・・・気がつかなかった。それなら、委員会を再度開き、これを協議しようじゃないか。」





「ところで、次の市長選?・・その様子だと出るつもりか、なら、もう一つ。知っているかな?開発公社以外にも・・これ()()()()()()だよ。」

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