独断
「行って来るわね。」
私は、ぼんくら亭主と分かれて実家へと向かう。ぼんくら亭主は、役所で再度「学区区割り承認申請」の写しを貰いに行く事になっていた。私が色々と書き込みをしたので、人には見せずらいと言うのもある。
実家は、裏通りが玄関の住宅で。こっちの表通りは、いつ見ても大きな総合病院となっている。当然、渡り廊下で繋がっているので 外に出る必要は無い。
前は、祖母がやっていた診療所を母が引継ぎ、結婚してからは夫婦で。姉が生まれて大学を卒業すると、母は、病院運営の一切を放り投げ 姉に押し付けた。
姉が結婚すると、いつのまにか総合病院・・姉が理事長、旦那が救急科、父が医院長と外科、母が内科・・となっていた。
午後の外来が終わり、みんなで休憩だろうと 中に入っていく。
「お帰り。今日は一人?」
「ええ、今日はお母さんに用事があるの。大丈夫かな?」
「なに?あんたが頼みって珍しいわね。選挙はまだし?」
「選挙じゃないわよ。これを見てもらえる。」
「『学区区割り承認申請』?」
「それに、医師会の意見書があるでしょ。聞いたことある?」
「これね。・・・医師会のハンコが押してあるわね。ねえ、あなた。前回参加したよね、こんな話あった?」
「学区?いや、聞いていないよ。」
「私も知らないわ。これどうしたの?」
・・・
「なるほどね、明日 医師会があるのよ。で、どうして欲しいの?」
一方、頭の固い議員さん。写しを貰うと、消防署へ。広報担当に座っている職員に話しかける。
「よ、元気してるか?」
「なんだ、珍しいな。忙しい議員さんがなんの用だい?」
「これを見た事があるか?」
「学区?これってなんだい?」
「ここを見てくれ。」
「小さくて分かりにくいな。」
大きな卓上ルーペを取り出し、地図の上に置く。
「どうだ、便利だろう。」
「お前はいつもマイペースだな・・まあ、ここを見てくれ。」
「この場所は、・・?」
脇を通りかかった消防団員が
「散歩の犬の首輪が取れて、走っていった先に落ちた川だろ。」
「そうだ。あんときは、川から引き上げようとしても苔や雑草で登れなくて大騒ぎしたよな。」
「そう、その川。それで、この場所だが。分るかな?」
「ここ?・・・あ、転落防止の柵がない所だ。」
「いつも、県と市に要望出しておくのだが、なしのつぶてなんだよな。」
「ここに線があるだろ。これが学区の分岐線なんだ。」
「え?なに。じゃ、学校へ危険個所の報告や注意喚起、事故時の対応確認・・2カ所必要になるのか?」
「そうだろうね。」
「なんでここなの?わざわざ橋の隣に書かなくてもいいだろうに。」
「橋を境界にしたら、それこそ2カ所必要になるだろ。」
「そうか、書いた人は、ここで犬が落ちたのを知らないで書いたのか。」
「さて、こっちも見てもらえるかな。」
「意見書?これうちのだ。ハンコは、署だけのようだね。もしかして、この柵が無い場所だと知らないで押した?」
「それなら、この書類にハンコを貰いに行くとこだけど。一緒にいく?」
・・・
「どうもありがとう。簡単に済ます事が出来たよ。」
「これからどうする?」
「警察に行って来る。そこも意見書をだしているからな。子供が川に落ちたら、警察も一緒に動くことになるから、それを言ってくる。」
「それじゃ、あいつは地域防犯にまだ居るはずだから、誘ってくれ。同級生同士、久しぶりに飲みにいこうぜ。」
「わかった、終わったら連絡するよ。」