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学区区割り

 最初は、小さな町だった。次第に人が集まり、大きな町へと変貌してきた。藩政から県政に変わる時、最も人口の多い町が、県都となった。


 県都の西側には、川が無かった。県都から幾分離れた場所に、人口の河川を引いてみたのだが、水利権もあり 十分な水量が無い。水耕栽培は、諦めるしかなかった。


 水はけが悪ければ、貯水池やため池などが自然に出来るのだが、この地の水はけは比較的よかった。大雨でも、数日でぬかるんだ場所は無くなっていた。自然に、畑が多くなり、サツマイモ、ダイコン、ゴボウ、ニンジン、カブ、ラッキョウなどの根菜類やトマト、ネギ、カボチャ、アスパラガス、トウガラシなどが良く作られていた。


 平地が広がっていたため、収穫時期が重なる野菜は、値崩れが起きやすく、安定的な収入につながる事はなかった。そこで、町より遠方では、野菜より放牧を始める人達が出始める。安い野菜を、馬車や牛車で運ぶより牛や豚、鶏などを放牧して売った方が利益になると考えた人たちが集まってきた。県都の西に広がる耕作地帯、その途中から奥の山々のすそ野まで一面の牧草地と点在する牧場が、出来上がっていた。


 牧場の人達と点在する小規模な農村。行商人が訪れてはいるのだが、やはり不便だった。そこで、放牧地と耕作地の境界に、共同の町を造る事になった。県と市(県都)の共同事業で推し進められ、市の出先機関を併設した集会所コミュニティセンター、郵便局、小規模な商店街、そして小学校と中学校が併設されて造られていった。


 最初は、周囲住民も少なく小中合同の分校扱いだったが、住民が増えるだろうと見越して、県下でも見ない程 広大なグランドを持つ学校が出来上がった。


 町が出来、道路が整備され、バスが行き交い、個人で車に乗る人が増えると。ここは、地価の安い町として認知されようになる。次第に県都のベッドタウンとして、住人が増えてくる。


 当然、急激な人口増加に分校では対応できず。急遽、正式な小学校・中学校として建て替えが行われた。当初、1学年30名2クラスで建てられた学校だが・・数年後には、35名5クラス、1000人規模まで膨らんでしまう。当然、教室も各種施設も不足で、プレハブ教室を乱立させて 急場をしのいでいた。


 更に問題は続く・・町の西に広がる牧場が悪臭を出していると、苦情がコミュニティセンター(まだ、町として独立しておらず。市政の中にあった。)に寄せられると、様々な行事で、新住民VS牧場関連住民(農家は、争いに参加せず様子見を決めていた)の構図が出来上がっていった。


 双方の仲介に困り果てた県と市は、この町を独立させる事にした。人口河川が耕作地の中を通っているので、ここを境界としようというのだ。河川は、拡大した県都に近い位置にあり、点在する集落も県都に入るより新町に入る事を承諾した為、新しい町は県、市それぞれに問題無く承認された。


 かくして、新町役場には、人口が多いベッドタウン住人が推す市長、市議会議員vs少数派となった旧来の牧場関係が推す市会議員。更に少数の耕作地の農業従事者が推す市会議員(中間派)が運営する事になる。


 町の大きな問題の一つが、小学校と中学校をどうするか?である。現状の土地で単独での建て替えは、不可能と全員が認めているので、郊外に建て替えする事にした。以前からあった商店街は、シャッター街となり、中央の空洞化が進んでいた。膨張する郊外へ、大型商店・乱立する住宅街も問題になっていた。


 そこで、現学校を中心とした、新しい行政街を造り出し。計画道路を見直して、膨張する町に4つ小中学校(併設型)を建てる事とした。


 町の開発されていない四隅(北西・北東・南西・南東)の用地買収を、市長独断により開発公社に買い取らせていった。のちに議会で紛糾するのだが、ここでは割愛する。


 さて、用地の見通しがついた所で、学校の規模をどうするかで・・・もめた。


 現状、学校のキャパ不足で、農地集落の生徒は県都になっている市の学校に通っている。これらを含め、さらに増大するベッドタウン住民を考慮する必要があった。


 近々必要な小学校の生徒数は、1500名。将来増えると予想される生徒数は、倍の3000名。恐らく、5年から10年でこの人数になると試算された。


 これから、各校に1000名規模の小学校と500名規模の中学校を併設する事にした・・のだが。ここで大きな問題が発生した。


 農地集落の生徒と市街地の生徒に問題は無かったのだが、市街地生徒の保護者が牧場関係者の生徒と一緒の教育に難色を示したのだ。


 「あれ程苦情をいれたのに、なんの対策も行っていない。今も悪臭に苦しめれている。それなのに、学校で顔を合わせて、共同作業?・・なんの冗談ですか。」


 これが、市街地住民の意見だった。


 彼らの意見は、現状残っている分校を残し、牧場関係者を入れればいい。と言うのが、言い分なのだが、教育委員会がそれを飲むわけに行かない。


 用地確保の目途が付き、基礎設計(学校の規模等)に入る必要があるのが・・進展する様子はなかった。


 困った教育委員会は、幾つかの学区区割りを作って学校に配布した。これで、保護者の様子を見ようと言うのだが・・・


 こっちがたてばあっちがたたず・・結局、全部やり直しとなった。


 これ以上進展しないと考えた教育委員会は、秘策を講じる事になる。

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