2年生・冬 カレンダーに書かれたX'masプレゼント
師走の風が吹き始め、街はどこもクリスマスモードだ。11月には有名なイルミネーションスポットの点灯会が催しされ、千葉市ではポートタワーにツリーの電飾がされる。
来年からは3年生になり、そろそろ進路も考えなければならない時期だった。
とは言いつつも、この時期は二人の時間を楽しむ一番のイベントが多い。半面、碧も俺も、バイトのシフトを休みの日は長めに増やすくらい、人手も足りていなかった。
「空。父さんと母さんはクリスマスでポートタワーに出かけてそのままご飯に行くから、これでお前も彼女と過ごしなさい。」
父からお金を少しもらうも、まだ一緒に過ごすかも決めてなかった。
「ありがとう。誘ってみるよ。」
この流れに関係なく。碧を誘ってはいただろうが、臨時収入はいつの歳でも嬉しいものだ。
そんな週末に星場の事務所で荷物を整理していた。
「碧ちゃんとクリスマスは会うんでしょ?」
「あ、はい。」
「そこは私が何とかするから、言ってね。」
茜さんがサラっと気を遣ってくれた。
「ありがとうございます。ただ、碧もシフトが入らないとも限らないので。」
「なら尚更でしょ。」
「はい?」
「碧ちゃんが忙しいなら、終わる頃にはサッと行って顔だけでも合わせてきなさいよ。」
まるで自分ならそうして欲しいと言わんばかりのアドバイスだが、一理あるかもしれない。
「そうですね。じゃその時はお願いします。」
「よろしい!」
茜さんは胸に拳を当ててそう言った。
「あ、茜さん。」
「ん?」
「カフェの専門学校行ってるんですよね?」
「そうよ、どしたの?」
「俺も、行こうかなって。まだわからないですけど。」
「ふーん、そっか。わかった。また気持ちが固まったら声かけてよ。」
そういうと茜さんは事務所を出て行った。
碧がバイトを早めにあがれそうとの連絡があって、俺も何とかその時間に間に合いそうなことを返信した。
マスドに待ち合わせ、俺は星場から自転車で直行する。辺りはもう暗いが、その分イルミネーションが輝きを増している。
マスドに入るなり、陽介がまだ働いていた。
「まだ終われないのか?」
「まぁな、それより平山が待ってるぞ、早くいけよ。」
今まで鈍かった俺も、何となく察しがついた。
「お疲れ。」
「やっほ。お疲れ。」
碧がハイタッチをしてきたので、俺は不器用にハイタッチする。
「もしかして陽介が代わってくれた?」
「え?うん。何かお金稼ぎたいんだって。」
俺はカウンターを振り返ると、陽介はニヤっと笑う。
「カッコつけやがって。」
俺はボソっと皮肉を言い、陽介に感謝した。
改めて、いつも通りドーナツとコーヒーを頼み、席に着く。
バイトの後でお互いドーナツを食べるスピードも早かった。
「クリスマス、またゆっくり会わないか?」
俺はコーヒーカップを持って碧の顔を見る。
「そうだね。是非是非。」
「よかった。」
俺は碧の言葉に安心した。
「でもさ?私たち来年は3年生だよね。進路とかどうするとか、空クン決めてる?」
「え?いや、ちゃんとは…親は大学出た方がいいって言うけど。」
「だよね…」
碧は少し暗くなった。
「ゴメン、まだ先の話だし、とりあえずクリスマスはまた楽しく過ごそうね。」
「そうだね。」
俺は相槌を打つ。
「お互い忙しいだろうから、プレゼントも買えないかもしれないね。」
碧が少し申し訳なさそうに言う。
「逢えるだけでもプレゼントだよ。気にしないで楽しもう。」
「そうだね。そうそう、マスドでマスターチキン売るんだって。それ食べようよ。」
「お!面白そう。わかったよ、じゃあクリスマスはここでね。」
スケジュールを確認して、お互いなんとか合うようなので、この日は早めに休もうと早々に帰宅した。
ー 大好きな碧とのクリスマス♡
カレンダーにそれとなく書き込んで眺めていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
クリスマス当日、やはりというべきか、星場はお客さんで溢れていた。
「いいよ、シフト通りにあがって。あとは任せて。」
「す、すみません。ありがとうございます。」
茜さんがそういうと俺はお礼を言って星場を後にする。
外に出ると白い息が、一層寒さを際立たせる。
終わってバスよりは自転車の方が早いと急いでマスドへ向かう。
マスドに着くなりその人だかりは凄かった。
なんとか中の様子を見ようと人込みをかき分けて窓から覗こうとしたとき、ドアから碧が出てきた。
「あ、空クン。お疲れ~。」
項垂れるような声で碧が挨拶をする。
「凄いね…こりゃ、ドーナツどこじゃなくなっちゃった。」
「じゃ~ん、実はチキンとドーナツは買っておいたんだ。」
「お、さすが碧。」
「ただどこで食べようかね。」
少し疲れを感じた俺はその場に少ししゃがみこんだ。
「そ、空クン、大丈夫?」
「ちょっと、疲れた…みたい。」
「ムリしないで、今日は帰ろうか。」
俺は碧の袖を掴む。
「いや、一緒にいたい。」
「でも…」
「家に行こう。今日親暫くいないから、碧と少し休んだらそれでいい。」
「…わかったよ、仕方ないなぁ。」
碧は言葉とは裏腹にニッコリと微笑む。
家に着くと俺は碧を自室に案内して、ベッドに横になる。
「熱がないか測ってみようか。」
碧が体温計を取り出して測ってくれる。
「え、自前持ち歩いてるの?」
「うん。看護師みたいでカッコ良くない?」
「あまり使う機会があっても困りものだけど、確かにカッコいい。意外な一面が見れたよ。」
「ふふーん。」
碧は得意気に体温を測り終えると熱はなかった。
「良かったね、平熱じゃんか。」
「疲れただけだよ、でもありがとう。」
少し落ち着くと俺はコーヒーを淹れてきた。
「チキンも冷めないうちに食べようか。」
「そうだね。」
俺と碧の目が合うと声を揃えた。
「一緒にーチキンとドーナツ…」
「食べませんか?」
一通り食べてからクリスマスを過ごす。といってももう8時を回りそうだ。
「私も一緒に横になっていい?」
「え?お、俺は構わないよ。」
どうも素直に返事はできない。男なんて皆好きな女の前ではそんなものだろう。
俺は横向きで寝ていたが、碧がその前を同じ方向で横向きに寝てきた。
「帰らなくて平気?」
「え~追い返すの?」
碧が首だけこちらを向ける。
「いや、大丈夫ならいいんだけど。」
碧が両手で、俺の両手を持ちながら腕を組む。
ーちょっ。
さすがに女の耐性が少なかった俺は一気に緊張した。
「進路だけどさ…私、看護師になろうと思ってるんだ。」
碧が急に進路の話をするも、手は握ったまま放さず胸に当てたまま淡々と話す。
「小さいころ、入院した時に、優しい看護師さんがいて、その時憧れを抱いてね。」
「そ、そうか。いいんじゃないか…」
俺は手を引っこ抜こうとゆっくり力を入れるも碧もギュッと強く握る。
ー何を!?
「黒沼さんっていってすごく綺麗な人なのに、とんこつラーメンが好きって聞いて面白いお姉さんだなって印象があってさ。でも面倒見も良くてさ。」
思い出話を淡々としつつも、俺の手を放しはしない。
ーえ、なんなん!
「空クンも、ちゃんと進路を決めて、私に報告してほしい。」
「え?わ、わかったから、手を…」
「じゃ、2年生の間に決めて、絶対私に最初に教えてね。」
「はいはい。」
やっと手を抜くと碧が立ち上がる。
「じゃ、嫌そうだから、私は帰るね。」
碧が意地悪な顔をする。
「ちが、びっくりしてさ。」
「あはは、私もだよ。こんな積極的な気持ちになるってあるんだね。」
「何でテンションそんな揚がるんだか…」
「ん~なんでだろ?」
碧は人差し指を頭に立てて傾げるも、目は俺の後ろを向いていた気がする。
「今度、私が後ろで寝たい。」
「え?まだやんのか。」
「あ、やっぱ邪魔なんじゃんー。」
「いや、そうじゃなくて…」
…
…碧が帰った後、ようやく謎が解けた。碧の積極的な理由。
碧は俺のカレンダーを見ていたんだと。
ー 大好きな碧とのクリスマス♡
この書き込みが俺たちの最高のX'masプレゼントになった。
でもね、本当はずっと放したくなかったよ、碧。
次回投稿は9/22(日)です。❝2年生・厳冬 進路決定編❞を予定しています。