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ランド・ウォーカー  作者: 紀一
日本
15/19

帰還

札幌を出て旭川へ向かうカイ達に、思いもしない一報がもたらされた。レイが旭川へ来ると言うのだ。ロシアを通過するためにレイを利用したいカイ、大松との取引のためにレイを消そうと思惑を巡らすリョウヘイ、そして函館居住区でも息を潜めていた男が動き出す。

15 帰還


 その知らせが舞い込んだのは突然だった。

 札幌を出る朝、羊飼いの少年カズキに頼まれた仕事を終えて居住区へ戻ると、カエデの下に一人の自衛官が駆けて来た。そして何やら耳打ちし、すぐに出発の準備に取り掛かる。

「何かあったのか」

 カイが声を掛けると、カエデはこれまで見た事もないような穏やかな表情で振り返った。そして些か頬を紅潮させながら言う。

「レイが、帰ってきます」

 思わぬ情報に三人は一瞬言葉を見付けられなかったが、カイは願ってもみない機会である事に気が付いた。

「帰って来るってどこに?」

「旭川です」

「じゃあ、千島列島まで行かなくても会えるんだな?」

「そうですね」

 カエデは満面の笑みで頷いた。同じ感情ではないが、カイも珍しく頬を緩める。レイには会っておきたかったが、東の果てまで行って更に島を渡って北上するのは正直なところ面倒だと思っていた。そんな時にレイの方からこちらへ向かって来ると聞いて、この旅に出てから初めてと言っても過言ではないほど嬉しかったのだ。

「やったな、カイ! 旭川でレイに会えたら、そのまま樺太に渡っちまえば良いんだろ?」

「ああ、列島を渡るよりはきっと楽だろ」

 珍しく意見が合った二人の後ろで、リョウヘイは穏やかな目の下に思考の波を荒立てていた。レイが来る。思っていたより早いタイミングだ。時間がかかれば自分の情報が洩れるかもしれない事を考えれば、レイの方からやって来てくれるのは有難い。だが、急いで準備しなければせっかくの機会を無駄にしてしまう。

「では、出発まで時間がありませんので、準備を宜しくお願いしますね」

「ああ」

 カエデに背を向けて車へ向かうカイとタケル。二人に続こうとリョウヘイが一歩踏み出した時、カエデがその背中に声をかけた。彼女の鈴の鳴るような声は、表面上は心地良いが、その奥に氷のような冷たさを隠している。

「リョウヘイさん」

 リョウヘイが振り返ると、カエデは眼鏡の向こうから鋭い目を向けて来た。

「つかぬ事をお訊きしますが、あなた、羊飼いの老人に竹内と言う人物について訊いていましたよね。何故ですか」

 リョウヘイはいつものように愛想の良い笑みを浮かべる。

「え? いや、俺函館から来たって言ったでしょ? 函館に旭川から来た竹内って言う地底人が居て、すげえ奴らしいって聞いた事があったんだよ。それで気になったわけ」

「そうですか」

「何で? 竹内って何かやばい奴なの?」

「いえ、やばいと言うほどではありません。確か二年ほど前、旭川の窮状を政府に訴えると言って東京へ向かった地底人が居ました。それが竹内です。竹内個人にはそれほど大きな力はありませんでしたが、何故か地底人と言う生き物は強烈な意志を持つ人間に引き寄せられるものです。ですので、我々も動向だけは注視していました」

 リョウヘイはそう話すカエデの表情をよく見ていたが、驚くほど何の変化も無かった。竹内と言う人物について、特段思うところは無いようだった。

「なるほどね。俺も函館に居るって事しか知らねえよ。会った事もねえし。噂くらいで、詳しい話も知らねえし。だからじいさんに聞いてみたんだ」

「函館居住区で、竹内は目立った存在ではないのですね」

「たぶんな。地底人の中では違うかもしれねえけど。俺達の中では別にそこまでじゃねえよ。ただ、根性のある地底人らしいってだけ」

「そうですか」


 定刻となり、一行は札幌居住区を出て旭川へ向けて出発した。札幌から旭川へは、石狩川に沿うようにして東へ進む。陸自の隊列に続くカイ達の車は、リョウヘイの運転で変わらず穏やかに走っていた。道路の状態もこれまでと変わらず比較的良好で、やはり本土とは比べ物にならないほど整備されている。

 だが、カイは一つ気になる事があった。後部座席の窓から外を眺めていると、これまでとは明らかに異なるものが道端に転がっているのだ。前を行く隊列は何かを警戒しているのか、あまりスピードを出さずに走っているため、カイの目には余計にそれが目立って見えた。

「あれ、死体だよな」

 窓を開けて外を覗くカイ。その声に答えたのはリョウヘイだった。

「そうだと思うよ。札幌で会ったじいさんが言ってたけど、この辺は旭川から逃げて来た人間の死体がそこら中に転がってるらしい」

 それを聞いたタケルも助手席の窓を開けて通りの横を見渡す。通りの傍だけでなく、奥の茂みに至るまで、確かに死体のようなものが点々と見受けられた。

「防護服を着てるな……地底人か」

 タケルの呟き通り、死体の殆どは防護服を着ていた。

「死体はあっても乗り物は無い。旭川からここまで歩いて来たのか? 野垂れ死んで当然だ」

 カイは茂みの近くで朽ちている死体を見やった。旭川から札幌など、普通に考えれば歩いて移動する距離ではない。しかも防護服のフィルターは貴重品の割に寿命が短い。そんな悪条件しかない状況でも、あの死体は旭川から抜け出したかったのだ。カイには到底理解できなかった。

 そんな風化した墓地のような道を進むにつれ、辺りが徐々に暗くなってきた。カイは空を見上げるが、雲は出ていない。その代わり、地面から黒い霧が立ち上って来ていた。

「霧が出てきたな」

 そう言ってリョウヘイはライトを点灯する。前を行く車両のテールランプが明るく光ったその時、隊列の先頭の方から地を揺らすような爆発音が聞こえた。

 それと殆ど同時にタケルの大きな手が助手席から伸びて来て、カイの頭を座席の下へ押し込んだ。そしてまだ何かをまさぐるその手に、カイは座席の下に隠していた猟銃を持たせる。

「くそ、何だ!?」

 咄嗟にバックしようとするリョウヘイの手を、姿勢を低くしながら周囲を窺うタケルが抑えた。

「戻るな」

 夕刻のように薄暗く視界が悪い中、前方の車両から隊員が数名降りて行くのが見えた。見たところ炎は上がっておらず、銃声も聞こえてこない。

「どうなってる?」

 後部座席で小さくなっているカイが声を潜めて言った。タケルは猟銃を握ったまま外の様子を確認する。

「爆弾だ。恐らく線を辿って仕掛けた奴を追っかけてんだろ」

「俺達はここに居て良いのかよ」

 運転席で身を潜めるリョウヘイ。タケルは変わらず淡々と返す。

「勝手に戻るよりマシだ。敵も真っ向勝負じゃ敵わないと思ってるのか、直接仕掛けてこねえみたいだし」

 それから少しして霧の奥から銃声が響いて来た。重く鋭い音が何度も連なって黒い霧を揺らす。その音は三人の乗る車両からそう遠くない場所で炸裂している。

 そんな時、不意にタケルが助手席のドアを僅かに開き、その隙間から猟銃の銃口を覗かせて引き金を引いた。至近距離で鳴り響いた鋭い破裂音に、カイは反射的に耳を覆う。

 タケルの放った弾は見事に目標物を捉えた。胸に弾丸を食らった相手は衝撃で後方へ倒れ、地面の傾斜に沿って道へ転がり落ちる。カイが後部座席の窓からその死体を覗くと、それは防護服を着た地底人だった。

「地底人だ……」

「陸自の奴らに追われて逃げて来たんだろ」

 タケルが言うように、死体が薄闇に転がった後、すぐに霧の奥から陸自の隊員が数名駆けて来た。そして足元に転がっている死体を確かめ、カイ達の車両へやって来た。

 窓をノックされ、タケルが助手席から顔を出す。

「先頭車両付近で爆弾が爆発した。こちらの被害は無い。周辺の敵は一掃したが、この先は変わらず危険区域だ。はぐれないように付いて来い」

「はいよ」

「あれは、お前が撃ったのか」

 隊員は親指だけ後方に向けて例の死体を示した。タケルは素直に頷く。

「ああ」

「銃はどこで手に入れた」

「東北を通った時、猟師にもらった」

 隊員は硬い表情でタケルを見上げていたが、結局何も言わずに他の隊員と共に隊列の前方へ歩いて行った。

 それから程なく前に連なる深緑の車列がゆっくり動き出したので、リョウヘイもより慎重にアクセルを踏んだ。だが、周囲を警戒しようにも前を行く車のテールランプが見えるだけで、周囲の状況がまるで分からない。まだ時間的には朝で天気も晴れているはずなのに、黒い霧が濃すぎて見通せないのだ。函館から札幌を通ってここまでやって来たが、間違いなく霧が濃くなっている。

「それにしても、地底人がわざわざ防護服を着て爆弾仕掛けるなんて話は聞いた事がねえ」

 後部座席の中央に座り、注意深く正面を見つめるカイが言った。そして運転席のリョウヘイを見る。

「お前、ずっと北海道に住んでて知らねえのかよ」

「いや、知らねえよ! まさか道端に爆弾置いてく地底人が居るなんて普通思わねえし。ただ、防護服については少し聞いた事がある」

「死体が着てたやつ?」

 タケルに頷くリョウヘイは、真っ直ぐ前を見たまま静かに話し出した。

「ずいぶん前に聞いた話だが、霧が出た当初、地方では資金不足から地下の居住区を十分に確保できなかったらしい。それで大勢死んじまって、生き残った地底人共は政府への復讐と自立のために、独自で防護服の研究と製造をしてるって」

「じゃあ、ゲリラって事か?」

「まあ、そんなようなもんだろ」


 函館居住区の一角、行動制限下で部屋にこもりきりの竹内は、狭い部屋の隅に敷いてある布団で仰向けになっていた。首だけ動かして時計を見ると、朝の六時だ。生活習慣とは怖いもので、わざわざ目覚ましをかけておかなくても体が自然と目を覚ます。

 徐に起き上がり布団をきれいにたたむと、竹内は黙々と朝の支度を済ませていく。髭を剃り、顔を洗い、歯を磨く。朝食は支給されている弁当を温めて食べる。そうして一連の習慣が終わり、狭い部屋に唯一ある窓辺へ行った。

 窓を開けて居住区の無味乾燥な景色を眺めていると、隣の部屋の窓が開く。この部屋へ来てからと言うもの、やる事もないのでこうして隣室の菊池と話してばかりいた。竹内自身は元々口数が少ないのだが、隣の菊池はそうではないようだ。彼も暇なのだろう、何かと竹内に声をかけてくる。

「おはようございます、竹内さん」

「ああ」

「今日もここは平和ですね」

 菊池は眼下の通りを見下ろしている。早朝にもかかわらず散歩をする住人や、仕事へ向かう人の姿も見えた。

「外で起きている事が嘘のようだ」

 居住区をぼんやりと見下ろす菊池の横顔に、竹内は次に菊池と話す時に聞こうと思っていた事を口にする。

「菊池、お前、洞爺湖の方から湾を渡って函館に来たと言ってたよな。普通、小規模な居住区では防護服やフィルターが潤沢には無い。お前の居た居住区はどんな環境だったんだ?」

 すると柵にもたれて通りを眺めていた菊池は、竹内を向き直って小さく微笑んだ。

「竹内さん、朝食はもう食べました?」

「ああ、さっき食べた」

「じゃあ、散歩でもしながら話しませんか? 監視が同伴すれば出ても良いって大松さんも言ってましたし」

「……分かった」

 この場で話せない訳が何かあるのかと疑問を深める竹内は、急ぎ上着に袖を通して部屋を出た。


「なんだか久し振りに歩いた気がしますね!」

 集合住宅を出た二人は、後ろから監視役の男が一人ついて来る中、居住区内の庭園へ向かっていた。当の菊池は至って楽しそうに歩みを進めている。

「で、どうなんだよ。洞爺湖の居住区はそんなに豊かな場所だったのか?」

 竹内の問いに、菊池は庭園内の植物を見ながら首を振った。

「いや、豊かではありませんでした。ただ、防護服には困っていなかったんですよ」

「矛盾してるな」

 菊池はいつになく硬い表情で竹内を見る。二人は緑が鮮やかな庭園を進みながら、風のない世界を縫っていく。

「そう、矛盾しているんです。竹内さんは旭川に居た頃、ランド・ウォーカーでない人々がゲリラ的に反政府運動をしていると聞いた事はありませんか」

「……聞いた事はある。ランド・ウォーカーに頼る政府の方針に反発し、ランド・ウォーカーに依存しない自立した生活の実現を目指しているとか」

「その通りです。洞爺湖の居住区は、まさにそのゲリラ組織の拠点だったんですよ。俺はたまたまそこに生まれて、子供の頃から防護服の生産やフィルターの研究を手伝ってきました」

 竹内は隣を歩く菊池を驚きの表情で見る。話でしか聞いた事のない集団が実在していたと言う事も驚きだが、この菊池と言う柔和な若者がそのような集団に属していたと言う事もにわかに信じがたい事実だった。そんな竹内を見て菊池は軽やかに笑う。

「驚きましたか?」

「あ、ああ。本当に実在していたのか……。その居住区ではランド・ウォーカーを雇っていなかったのか?」

「はい。ランド・ウォーカーは居ませんでした。地上での仕事は防護服を着てやってましたし、極力居住区内で済ませられるように食料生産のシステムが充実していたんです。だから俺、ランド・ウォーカーを見たのは函館に来た時が初めてだったんですよ」

「そんな事があるんだな。だが、防護服を作るとなると専門家が必要だ。居住区が無くなったのなら、そうした人材はどうしてるんだ」

 すると菊池は庭園内のベンチで立ち止まり、竹内に座るよう促す。自分もその隣に腰を下ろし、水の流れる音を聞きながらやや声を潜めた。

「洞爺湖の居住区は無くなっていません。あれは俺の嘘です」

「……嘘。なぜ嘘を?」

「竹内さんにだから言いますけど、俺は函館の居住区にランド・ウォーカー達の専横から脱して自立する生活を売り込みに来たんですよ。まだ十八くらいでしたけど、防護服とフィルターを持って湾を渡りました。仲間はまだ活動を続けているので、なるべく人には言わずにいました」

 それを聞いた竹内は小さく息を吐いて笑った。

「お前もなかなかだな、菊池」

「いえ、俺は環境的に恵まれていましたから、竹内さんほどではありませんよ」

「洞爺湖の居住区がまだ在るのなら、その組織の活動も続いているんだろ?」

「はい、続いています。今は旭川や北見の方で横暴な自衛隊の妨害をしています」

「今の話、大松は知らないのか」

「まだ言っていません。ここへ来た時は大松さんの父親が代表をしていて、そこにしか話していないので。でも、もしもリョウヘイがレイの殺害に失敗したら、その時は大松さんに話そうと思っています。俺達の組織がどれだけ役に立つかは分かりませんが、武器を作る事もできるので」

「……なるほど。だが、もしも差し支えないなら、お前達の存在をリョウヘイに教えてやった方が良いんじゃないか? 大松が言うにはリョウヘイは頭が切れるらしいじゃないか。だったらお前達にとっても悪い協力関係ではないかもしれない」

 竹内の提案に、菊池は難しい表情になる。

「俺は別に構いませんが、仲間がランド・ウォーカーと協力してくれるかどうか、保証はできませんよ」

「それでも動いてみる価値はあると思う」

 菊池はそう言う竹内の陰から監視の男をちらと覗き見て、すぐに竹内に向き直った。

「でも、一つ問題があります。誰がリョウヘイと組織を結びつけるか」

「リョウヘイの顔を知るのは今監視下にある俺達だけだ。そして、組織と連絡が取れるのは……菊池、お前だけだ」

 すると菊池はバツが悪そうに眉を寄せて項垂れた。

「洞爺湖の方とは連絡が取れますが、リョウヘイに繋げるとなると、時間的に間に合いません。旭川の方で活動している仲間とは会った事が無くて、いつも見知った連絡役から情報を得ていただけなんです。俺が行っても肝心の仲間とすぐに接触できないかもしれません」

 それを聞いた竹内は、限りなく低い可能性に懸ける事にした。

「旭川の人間なら、万が一にも俺が知っているかもしれない。名前や特徴は何かないのか」

「……旭川で指揮している人間は、入江と言う女性だと聞いた事があります。今も変わっていないかは分かりませんが」

「入江……」

 考え込む竹内に、菊池は申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません、役に立たない情報で」

「いや、入江と言う女は知ってる」

「本当ですか!?」

 菊池の声に監視の男が二人を振り返り、すぐに庭園へ視線を戻した。菊池は再び声を潜める。

「まさか、そんな偶然があっただなんて」

「俺が知ってる入江と同一人物かは分からないが、俺が旭川を出る時、入江は食料配給の管理者をしていた気前の良い中年の女だ。その時は札幌の方からアクアポニックスと言う食料生産システムを取り入れようとしていた」

「アクアポニックス、洞爺湖でも使っていました。関連があるかは分かりませんが」

「あの入江がそうなら、俺ならリョウヘイの顔も知ってる」

 竹内は立ち上がり、庭園を一周回る道を再び歩き始めた。菊池もそれに続く。

「まさか、竹内さん……旭川へ行く気じゃ……」

「今行かなければリョウヘイが動き出すのに間に合わないかもしれない。順当に進んでいれば、そろそろ旭川へ着く頃だ。レイが旭川に来なかったとしても、入江と言う女と引き合わせるにはこの機を逃したら後が無い」

「でも、大松さんはきっと許可しませんよ。そもそも一か月はここを出られないし、そうでなかったとしても、陸自に目を付けられているかもしれない竹内さんを一人で旭川に行かせるとは思えません」

「それでも行かなければ、何も変わらないだろう」

 一歩前を行く竹内の横顔を、菊池は覗き見た。竹内の黒い瞳はいつものように強い意志と一筋の光を持っていた。この男が函館にやって来た時から、菊池は彼の強い意志に惹かれている。人間とは自分に無い強さにどうしようもなく惹き付けられるものなのだ。

「本気なんですね、竹内さん」

 竹内は菊池を振り返って深く頷く。

「ああ」


 それから二人はただ静かに庭園を一周回って仮住まいの集合住宅に戻った。水の底に沈んだかのようにしんと静まり返った狭い部屋で、菊池は一つ大きな溜息を吐いた。竹内の質問に何気なく答えただけだったが、それがこのような結果に繋がるとは思ってもみなかった。軽率だった。だが、あの男に訊かれれば答えない訳にはいかない。

 狭い部屋を暫く行ったり来たりして、遂に菊池はいつもの窓を開けて隣の部屋の方を見た。竹内の部屋の窓は閉まっている。菊池は壁を数回叩いて竹内を呼ぶ。

「竹内さん」

 少しして隣の窓が開き、竹内が顔を出した。

「どうした」

「……俺、洞爺湖から持って来た防護服とフィルター、まだ持ってるんです」

 竹内は真剣な面持ちで、不安に溺れる菊池を見返す。菊池は竹内を呼び出したのは良いものの、視線を泳がせていた。

「それは、どうにか持ち出せるのか」

「……分かりません。やってみますが、失敗するかも」

「それでも良い、やってみてくれ。もしも失敗したら、大松に全て話そう」

 さっさと窓を閉めようとする竹内を、菊池が呼び止めた。

「竹内さん」

 竹内は何も言わずに振り返る。窓から顔を出す菊池の目は、不安と緊張に揺れていた。

「俺、あんたに死んで欲しくない。やっぱり……」

 菊池がそこまで言い欠けたところで、竹内が落ち着いた声を滑り込ませる。

「俺は青函トンネルで死んでたはずの人間なんだ。それが叶さんの死で先延ばしになっただけだろ」

「大松さんと竹内さんが戻った時、俺、心底安心したんです。大松さんに相談しませんか」

 菊池の縋るような眼に、首を振る竹内が映る。

「駄目だ。大松に話せば阻止される可能性が高い。あいつに話すのは失敗した時だけだ」

 それならいっそ失敗させてしまおう。ここまで情報を出したが、菊池はすっかり怖気づいていた。そんな心を読んだかのように、竹内の黒い瞳が真っ直ぐに菊池を見て念を押す。

「頼んだぞ、菊池。お前が頼りだ」

「竹内さん……」

「俺は、何としてもレイを引きずり降ろさなければならないんだ」

「……分かりました」


 旭川へ向かう道中で爆弾騒ぎに巻き込まれたカイ達だったが、無事に旭川の手前、滝川まで来ていた。先ほどまでの濃い霧がいくらか晴れ、曇り空程度になっている。カイは後部座席から注意深く前を見据えていた。ダッシュボードの上では福島でもらった赤べこが首を振っていて、その向こうに薄暗い景色が広がっている。いつの間にか木々が生い茂る森を抜け、だだっ広い丘陵地帯に出ていた。

「少し明るくなってきたな」

 ハンドルを握るリョウヘイが安堵の息を漏らす。あの爆弾による攻撃から、前を行く隊列も慎重さを増しているようだった。

「なんかこの辺は同じ草ばっか生えてんな」

 助手席のタケルはあの騒動後もいつもと変わらぬ様子で呑気に景色を眺めている。さすがに強心臓なようだ。

「これ、菜の花だろ」

 後部座席の窓を開けて外を覗くカイ。見ればどれも菜の花のようだった。

「これ全部菜の花? すげえな」

「違う草も混ざってるが、圧倒的に菜の花が多いな。これだけ群生してるとなれば人為的だろうし、昔はもっと整備されてたんじゃねえか?」

 カイは見渡す限りの菜の花畑を眺める。今の季節はただの緑だが、花の時期になればきっと圧巻だろう。

「人間ってのは、何でもかんでも白黒はっきりさせなきゃ気が済まねえのかね」

窓を開けて頬杖を突くタケル。そんなタケルにカイはぼそりと言った。

「お前もわりとそう言う性格だろ」

「俺は混じりっ気ある方が好きだぜ? みんな同じじゃつまんねえだろ」

「じゃあ、きっとタケルはレイを気に入るな」

 そう言って僅かに笑ったのは運転席のリョウヘイだ。

「ああ、ロシア人と日本人のハーフだから?」

「そう。混じりっ気の代表だ」

「うーん、どうだろうな。人間ってなるとそう単純な話じゃねえし」

「お前が気に入るか気に入らねえかに関わらず、レイが使えそうな奴なら連れてくからな」

 後部座席からカイの声が飛んできて、タケルは肩をすくめて頷く。

「だそうだ」

 タケルの声に微笑みながら、リョウヘイはふと思った。カイがレイを国外へ連れていくなら、レイはこれまでのように自衛隊を指揮する事ができなくなる。これは間接的にレイを亡き者にする事と同じではないだろうか。レイが国内に何も影響できなくなるのだから。カイの仕事が成功していつか日本に戻って来るとなれば、レイも付いて来る可能性はあるが、正直なところそんなものは当てにならない。

「カイは、レイがどんな奴だったら一緒に連れてくの?」

 リョウヘイの問いに、カイは例の如く淡々と答える。

「ロシアを通過するのに使えそうかどうかだな。俺達は見ての通りあからさまな日本人で、ロシアに行ったらそれが不都合になるかもしれない。そう言う時に外見がロシア人でロシア語も話せる奴が居れば、現地人のふりをして俺達をカバーできるかもしれない」

「なるほど。明らかに日本人だけの集団より、ロシア人が率いてる集団に見せた方が、都合が良いって事か」

「そうだ。それができそうかによる。ハーフだからと言ってロシア語を話せるとは限らねえからな」

「そっか」

 リョウヘイは思った。これが最善の方法だ。レイを殺すと言う大松の個人的な復讐は果たせないが、レイが指揮する戦争を終わらせると言う公の目的は達成される。その後釜に誰が座ろうと自分の知った事ではない。首を持ち帰る事はできないが、レイが指揮権を手放して日本を出ると言う情報は必ず大松の耳にも入るはずだ。報酬が多少減ったにしても、お人好しの大松を言いくるめるのは簡単だろう。

「その時は……」

 後ろから届いたカイの声でリョウヘイは思考の海から戻った。

「お前には降りてもらうぞ。この先はどんな環境か分からねえんだ。人数は必要最低限で行きたい」

「ああ、良いよ。正直、さっきの爆弾騒ぎで好奇心のために死ぬのは馬鹿馬鹿しく感じてたんだ」

 意外とあっさり引き下がったリョウヘイ。ランド・ウォーカーとは往々にしてこのようなものだとも言えるが、カイは些か引っ掛かりを感じた。この男の目的は、何か他にあるのではないだろうか。そんな気がした。


 函館居住区の一室で、菊池は意を決して立ち上がった。竹内に防護服の情報を流したのは自分なのだ。竹内を一人で旭川へ向かわせるのが本当に嫌なら、最初から言わなければ良かったものを、あの眼差しに問われて答えてしまった。こうなっては動くほかに無いのだから、迷っていても仕方がない。

 ただ、この試みは絶対に失敗する。竹内に防護服を渡したら、自分は大松へこの事を告げに行こう。菊池はそう決心していた。

「すみません」

 玄関ドアを開け、廊下に立つ監視の男に声をかけた。

「少し肌寒い気がするんだけど、自宅からいくつか服を持って来てくれませんか。寝室のクローゼットの中に灰色のカバンがあるので、それごと持って来て下さい」

「分かりました」

 そう言うなり、男は持っていた無線機でどこかに連絡する。地下のように霧が遮断されている場所では限られた範囲であれば電波が通じるのだ。

「ありがとう」

 そう言い残して菊池は部屋へ戻った。大松は自分達を信用している。カバンの中身を確かめるよう指示する事はないだろう。

 それから暫くして、部屋のドアが三回ノックされた。出て行くと、あの監視の男が灰色の大きなカバンを持っている。

「これですか」

「そうです、どうも」

 菊池はあっさりとそのカバンを受け取る事ができた。

 床の上にカバンを下ろし、ジッパーを開ける。中にはずっと仕舞ったままにしていた防護服とフィルターの束がいくつか出て来た。念のために目視で分かる範囲で点検するが、問題なく使えそうだ。カバンの持ち手にベルトを巻き、窓を開けて竹内を呼ぶ。

「竹内さん」

 すると待っていたのか、竹内は半開きだった窓を全開して顔を出した。

「持ち出せたのか」

「はい。大松さんは俺達を信用してるから……」

 目を伏せる菊池に、竹内は鋭くも優しい目を向ける。

「菊池、巻き込んですまない。でも、これは大松のためでもあるんだ。あいつは自分の命となれば投げ打つ覚悟があるが、人となると切るべきところで切れない甘さがある。ここで俺が動かなければいけないんだ」

「竹内さん……」

「こっちに放ってくれ」

 菊池は大きな瞳にしっかり竹内を捉えて言った。

「竹内さん、絶対に死なないで下さよ」

「ああ」

 竹内の返事を聞き届けるなり、菊池は持ち手に結んだベルトを持ってカバンを隣の窓へ放る。竹内がそれを受け取ったのを確認してベルトを離した。

「ありがとう」

 カバンを持って部屋に戻ろうとした竹内だったが、最後に菊池へ言い残す。

「これから何が聞こえても、お前はここに居るんだぞ。絶対に俺を追うな」

「……はい」

 隣室の窓が閉まり、元通りの静寂が訪れた。

 菊池は逸る鼓動を抑える事もできないまま、ただ玄関ドアの傍に立って外の物音に耳を澄ましていた。

 どうやら竹内はすぐに動き出したようで、隣の玄関ドアが開く音がする。そして竹内が監視の男を呼ぶ声がした。

「すみません、ちょっと」

 男の足音が近付いて来ると、突然何か重たい音がした。そしてそれからは殆ど無音で何が起こっているか分からなかった。菊池が最後に竹内の痕跡を聞いたのは、玄関ドアが閉まる音だった。

 その音を聞くなり、菊池はドアから外を覗く。廊下には既に竹内の姿はない。驚くほど手際よく、まるで訓練されているかのように静かに消えていた。恐る恐る竹内の部屋を覗くと、玄関を入った廊下に監視の男が倒れている。気を失っているようで、体を揺するが反応が無い。出血はしていないし、息はしているので命に別状はないだろう。

 菊池は男の安全を確認すると、すぐに男が持っている無線に手を伸ばした。この手の無線は居住区内の他の仕事でも使う事があるので、大松の執務室の番号は分かっていた。

「大松さん!」

 無線がつながり、大松が何か言う前に菊池は食い付くように声を上げる。

「菊池? どうした?」

 無線の向こうから聞こえる大松の声には明らかな困惑がある。その声に安堵をもたらす前に、菊池はただ一言叫んだ。

「今すぐゲートに来て下さい!」


 ゲートに向かって菊池はひたすら走る。竹内を止める事はできる。さすがの竹内も徒歩でここを出て行くとは思えない。竹内が乗り物を手に入れている間に緊急閉鎖すれば、彼は外へ出られない。

「竹内さん……駄目だ……」

 菊池はすれ違う人々が驚きの目を向けるのを気にもせず、ただ走り続ける。竹内が部屋を出てから自分が追いかけるまでにそれほど時間差は無いはずだが、ここに至るまで竹内の後姿すら見えてこない。監視の男を気絶させた手際と言い、いくら体力と気力が並外れているからと言って天性でできる事ではない。

 竹内は、何か訓練を受けていたのではないだろうか。そんな疑問が沸々と湧いて来る。そう言えば、旭川に居た頃、竹内が何の仕事をしていたのか聞いた事が無かった。

 いや、聞いたところで真実は告げられないだろうが。

「菊池! いったいどうしたんだ!」

 ゲートの入口で、大きく肩を上下させる大松と合流した菊池。同じように息を乱しながら、ゲートの奥を指さす。

「竹内さんが……一人で、旭川へ……俺の、せいなんです……」

「竹内が?」

 大松は事情を聞かずとも真っ先にゲートの中へ駆け込んでいく。ゲート内は三段階に分割されていて、それぞれの区域が陽圧になっている。そのため、よほど霧が濃くない限り防護服なしでも中間の区域程度までは出られるのだ。

 まだ比較的早い時間のため、ゲート内の往来は少ない。これならすぐに竹内を見付けられるはずだ。

「俺は向こうを探す。菊池はこの奥を頼む」

「はい!」

 函館居住区ほどの規模になると、車両の出入りも多いためゲート内は駐車場も兼ねていて非常に広い造りになっている。二人は別れて竹内を探す事にした。

 大松は真っ先にゲートの出口へ向かう。竹内がどこに居ようと、ここを通らずには外へ出られない。もしかしたら既に出口へ差し掛かっているかもしれない。

 ゲートの出口は地上へ向かって徐々に上り坂になっている。大松はその坂を防護服なしで出られる限界まで駆け上って行く。すると、出口の間際にバイクに跨る人影があった。眩しい朝の光にうっすらと黒い霧が混じる外界が見える。そこに浮かぶ影は、防護服を着た男だ。大松は迷わず声を上げた。

「竹内!」

 すると坂を上っていたバイクは動きを止める。間違いない、竹内だ。

「待て、竹内! 行くな!」

 竹内はバイクから降りて大松を振り返る。そこに大松の声を聞いた菊池が駆け付けた。

「竹内さん!」

 菊池が切らした息で必死に叫ぶと、竹内は驚くべき行動に出た。防護服を脱ぎ始めたのだ。竹内のほんの数メートル先ではうっすらと黒い霧が沸いていると言うのに。

「何してる! 早く防護服を着て戻って来い!」

「その必要はない」

 ゲート内に響いた竹内の声は、今まで聞いた事もないほど冷ややかに流れた。

「お、お前……まさか……」

「竹内さん……」

 竹内は防護服を脱ぎ、驚き立ちすくむ二人に素顔を向けた。

「俺は竹内じゃない。俺の本当の名前は、岩永だ」

「お前……ランド・ウォーカーだったのか……?」

 一瞬にして生気を抜かれたような大松の隣で、菊池はただじっと岩永を見上げていた。自分が函館居住区へ来て初めてランド・ウォーカーと呼ばれる人間に会った時、その人間味の無さに心底驚いた事を覚えている。だが、この二年間ずっと傍で見て来た竹内は、とてもランド・ウォーカーとは思えないような情熱と正義感を持っていた。

「ああ、そうだ。俺はリョウヘイが警戒していた陸自の鼠だよ。ただ、安心しろ。俺がここに潜伏していたのはある報酬を手に入れるためだからな」

「ある報酬?」

 大松は嫌悪など微塵も感じさせない、純粋な疑問を岩永に向ける。

「俺の報酬は、レイの権力だ。大松一平の監視を終え、青函トンネルも開放され、リョウヘイの情報を持ち帰り、俺はレイの立場を得る。そうしたらお前達に悪いようにはしないさ。偽りの関係とは言え、色々と世話になったからな」

「青函トンネルの開放……まさか……お前……」

 それまで大松の眼に無かった憎悪の光が一気に体を駆け上り、その瞳に燃え滾った。

「お前……叶の死に……関わっているのか……」

 大松の拳が怒りに震える。そんな事を岩永が気に掛けるはずもなく、平然と答えた。

「あんたが女を本島へ逃がしたと報告したのは俺だ。だが、女が戻ったのは自分の意思だろう。戻ったところを利用されちまったって訳だな」

「よくも……平然と……!」

「俺を恨むのはお門違いだぜ、大松さん。あんたが女の警告をさっさと聞き入れていれば良かったんだ。そうすれば女も子供も死ななかった。そうだろ?」

「……くそ!」

 大松は固く握った拳をコンクリートの壁に打ち付ける。

「大松さん、俺と過ごした二年間があんたの理想の時間だったんだよ。あんたの言う通り、俺達は地底人のふりができる。俺にとってもそれなりに楽しい時間だったぜ。新鮮な事が多かったし。ただこれだけは信じて欲しい。俺は戦争が嫌いだ。特にレイの個人的な恨みで続けられる戦争には何の得も無いからな。だから俺がレイの後を継いだら戦争はしない」

「竹内……いや、岩永。お前は、ずっと俺達を騙して来たのか。叶が死んだ時、あれだけ怒ったのは演技だったのか!?」

 怒りに燃える大松の眼を見返す岩永は、臆するでもなく平然と返した。

「どうだろうな。名前を偽っていたと言う点では騙していたと言うべきか。だが、無益な戦いを続けたくないと言うあんたの意見には賛成だったぜ? それに、多少同情と言うか、あんたの人生に起きた出来事を共有する事はできた」

「……共有だと」

「悪いがそれが俺達の限界だ。共感はできないが、事実として共有する事はできる」

「そんなもの、してもらう必要はない!」

「まあ、この手の話をいくらしても時間の無駄だ」

 そう言って岩永は防護服を丸めて菊池に投げた。

「菊池、ありがとな。それがあったおかげで出入管理に引っかからずに出られた。まさか監禁されているはずの人間が防護服を着て来るとは思わなかったんだろう」

「竹内さん……」

 岩永は軽く笑ってバイクに跨る。

「俺は岩永だ。お前の思い描く竹内じゃねえよ」

「それでも……俺にとってあんたは……」

 バイクのエンジン音がゲートの空洞に響いた。その合間を縫って岩永の声が辿り着く。

「お前なら俺の頼みを何でも聞いてくれるって解ってた」

「…………」

 菊池はバイクに跨る影を見ながら唇をかんだ。解っていたのだ。あの男は自分の気持ちを解っていて利用していた。自分の話に毎日のように付き合ったのも、いつか何かに利用できるからなのだ。

「でもさ」

 岩永はヘルメットを被って一度二人を振り返る。そのくぐもった声は今にも消えそうだったが、菊池の耳にはしっかり届いていた。

「お前の事は俺なりに好きだった。お前、良い奴だよ。俺の事を最後まで信じてくれたもんな」

「岩永さん……」

 バイクは軽やかなエンジン音と共にゲートを出て行った。


 レイは旭川へ向かう車両の後部座席で目を覚ました。千島列島からの長い距離を急ピッチで移動しているせいで、さすがに疲労が溜まっている。シートに沈むように横たえていた体を起こし、前の座席越しに周囲の景色を見回した。

「ここは?」

「もうすぐ北見です」

 答えたのは助手席に座る隊員だ。レイはその男に一声かけ、再びシートに背をもたれた。

「北見で休憩だ」

「はい」

 そして緑の迷彩柄に手を突っ込んで一枚の写真を取り出す。かなり年季の入った小さな写真。そこには一組の若い男女が写っている。黒髪の華奢な女と、栗色がかった金髪に緑の瞳をした男。

 レイは自分と瓜二つのその男をじっと睨む。いくらロシア人を殺しても、この男だけは見付けられなかった。恨むべき男、自分の父親を。

「まさか旭川に戻ってやがったとはな」

 走行音にかき消される呟きは、写真の中の若い男に向けられていた。レイは写真を再びポケットに仕舞い、緑の瞳を輝かせてこぼす。

「……ぶっ殺してやる」


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