ラジウム
陸上自衛隊の部隊に護送されながら、カイとタケルは長万部町に着いた。そこにあるラジウム温泉は陸自の保養施設になっていて、一行はそこで休息を取る事にした。一方、函館居住区では大松が自身の弟であるリョウヘイと五年ぶりに面会する。そこでランド・ウォーカーであるリョウヘイにレイの殺害を依頼するのだった。
12 ラジウム
大松はかつて自分が市長を務めていた函館市の居住区で、もう二度と会う事はないと思っていた人間と会うべく、地下深くうずめられるように作られた刑務施設へ向かっていた。その足取りは力強いものの重く、後ろに続く竹内は前を行く背中を心配そうに追っていた。
刑務施設へ行くまでの道は狭く薄暗い通路だ。居住区と言う限られた空間での共生を運命付けられた人々にとって、そんな閉鎖空間で犯罪行為に走る人間が如何に恐ろしい存在かが窺える。この穴倉とも言うべき通路の先に、大松の実弟である男が居るのだ。
「大松」
「何だ」
「本当に良いのか、弟を外へ出して」
大松の背中は通路の薄暗さのせいか、いつもより一回り小さく見えた。
「情けないが、今の俺にはあいつを使う以外に考えが浮かばないんだ」
「レイを殺すと言ったよな。本気なんだな……」
「ああ、本気さ」
「だが、レイは対ロシア戦での重要人物だぞ。勿論周囲には自衛官が張り付いてるはずだ。そんな中に突っ込んで行けば間違いなく殺されるぞ」
すると、大松はふと足を止めて竹内を振り返る。竹内は急に足を止めた大松に驚きながらも、その冷たい表情と向き合った。
「分かってるさ、竹内。リョウヘイは成功したとしても殺される可能性が高い。でもな、俺は別にそれでも構わない」
大松の黒い瞳が、じっと竹内を捉える。不思議な事に、大松の顔には怒りや恨みではない諦めのような無力感が滲んでいた。
「冷徹だと思うか?」
竹内は何も返さずに眉を寄せた。大松は構わず竹内に背を向けて再び歩き出す。そして遂に、刑務施設の入口へやって来た。地下深くに鉄格子の門がその先の世界とこちら側とを隔てている。
門の傍にある刑務官の詰め所に居た男が、目を丸くして大松を見た。
「あなたは……大松さんか?」
「ああ」
男は満面に笑みを浮かべて言う。
「帰って来たんだね! 無事で良かった!」
「俺は無事だったが、妻が死んだ」
「……そんな」
「今日はリョウヘイに会いに来たんだ。まだ居るだろ?」
刑務官の男は難しい表情のまま頷いた。そして施設内の仲間に無線で連絡を取り、先ほどの笑顔が幻であったかのような声で言う。
「案内させよう。気を付けてくれよ。奴はあんたを心底恨んでる」
鉄格子の門がブザー音と共に重々しく開いた。
函館を出たカイとタケルは、陸自の車両に紛れて渡島半島を北上していた。北海道に来るまでの道のりを考えると、ここの道の整備が如何に徹底されているかが分かる。本島の道など酷いものだった。かつての国道や高速道路はことごとく雨や植物に浸食され、ひび割れや穴だらけだ。そのせいで東京を出て北海道まで来るのに何か月もかかってしまった。
「それにしても走り易いな」
「お前は運転してねえだろ」
助手席のタケルはハンドルを握るカイをちらと見て笑う。
「乗ってるだけだって分かるんだよ。お前だってそう思ってんだろ?」
カイはフロントガラスの向こうに連なる陸自の車両と、その周囲に広がる大自然を眺めた。霧のせいで灰色がかった空気だが、見渡す限り人工物は見当たらない。あるのは豊かな緑と太陽光パネルの畑だった。
「ここまであんなに苦労して走って来たのが嘘みてえだ。よほど北海道が大事なんだな」
「ほらほら、へそ曲げんなって」
「曲げてねえよ」
「それにしても……」
タケルは助手席の窓から広々とした眺めを見やる。こんなにも遠くまで見渡せる場所は本島には無い。だが、その景色の大半を黒い板が埋め尽くしている。その奥には風力発電の巨大なブレードと、雄大な山々が見える。
「太陽光パネルで舗装でもしたような場所だな」
「北海道は大量の電力を必要とするわりに霧が多くて発電効率が悪いと聞いた事がある。そのせいでこんな景観なんだろう。少しでも平らな場所があれば風力や太陽光で発電しようって事だ」
「昔は綺麗な場所だったんだろうな」
珍しく物思いにふけるように外を眺めるタケルに、カイは前を向いたままぼそりと言った。
「綺麗な場所だろうが、ヒグマが出るぞ」
「ヒグマ?」
「本島に居る熊よりデカくて凶暴なやつだ。お前なら獲って来られるんじゃねえか? 行って来いよ」
口角を上げるカイ。タケルはその肩に手を置いて笑った。
「その時はお前も一緒だ、カイ。お前を餌にして寄って来たところを獲る」
「…………」
それから二人を伴った隊列は北上を続け、三時間ほど経った頃に長万部町に到着した。前を行く車両が止まったところでカイも車を止める。すると前の車両からカエデが降りて来た。
カエデは運転席のドアをノックする。
「カイ」
窓を開け、カイは外に顔を出した。東京育ちのカイにすれば、やはりここも夏なのに涼しいと感じる。
「ここで休憩を取ります」
「分かった」
窓を閉めてエンジンを切ると、隣からタケルの小さな笑い声が聞こえて来た。
「ちゃんと休憩とか取るんだな。お前より陸自の方が優しいぞ、カイ」
カイはアタッシュケースを引っ張り出しながらタケルを睨む。
「運転もしねえくせに無駄に休憩してどうすんだよ」
「あ、カイ! これ見ろよ!」
カイの言葉などまるっきり無視してタケルはさっきから眺めていた地図を突き出した。カイは仕方なくタケルが指さす場所を見る。
「温泉だ! ここには温泉があるぞ!」
「北海道はどこにでも……」
「しかもただの温泉じゃねえ。ラジウム温泉ってやつらしい」
「ラジウム……?」
「詳しくは誰かに聞いた方が早いな。行くか」
鉄パイプを握ってさっさと降りていくタケル。カイもその後に続いて車を後にした。
一行が足を止めたのは内浦湾から内陸に入った場所にある山中だった。深い森に囲まれた場所で、熊でも猪でも何でも居そうな場所だ。カイが周囲の深い森を見回していると、カエデが背後からそっと声をかけてきた。
「ここには、世界でも珍しい天然ラジウム温泉があるのですよ、カイ」
カイは咄嗟に振り返って目を丸くする。
「……ああ、そう」
「我々がどうして港ではなく、ここで休憩すると言ったのか。その理由がまさに温泉なのです」
するとそこにタケルが嬉々としてやって来た。
「ほら! やっぱ温泉に入りたいんだろ」
カエデは森の先へ入って行く隊員達の背中を見ながら言う。
「ここは我々の治療施設でもあるのです」
「治療施設? まさか湯治でもしてんのか」
「その通りですよ、カイ。さあ、行きましょうか」
両脇を深い森に挟まれた細い道を進んで行くと、これまで見て来た鮮やかな緑の世界とは一変し、茶褐色の滑らかな岩肌が現れた。
「これは……」
草の一本も見当たらない茶褐色の壁に、カイはつい一言こぼす。それを拾ったのはカエデだった。
「驚きましたか。温泉の成分が影響していて、こう言う赤土のような土壌が見られるのです。浴場からは炭酸カルシウムが長い時間をかけて沈殿してできた石灰華ドームが見られますよ」
「なあ、ラジウムって何なの?」
赤い壁を見上げながらタケルが言う。
「ラジウムはウランが崩壊してできた放射性物質です」
「え、じゃあ、ここの温泉って放射線が出てんの?」
「はい、そうです。もちろん、微弱な放射線です。人体には寧ろ良いと言われていて、昔から湯治場として使われてきたそうですよ」
「ふうん、体に良いのか」
「何事も適量であれば良いのです」
そんな話をしながら茶褐色の坂の上にある建物に向かう。すると建物の入り口に、ぞろぞろとやって来る隊員達を出迎えている若い男が居た。男はカエデの姿に気付くなり、こちらに向かって手を振る。
「どうも、姐さん! あんたが偉い人?」
カエデは男に軽く会釈して、眼鏡の下に小さな笑みを浮かべた。
「いつもお世話になります。あなたは新顔ですね」
男は愛想の良い笑顔を満面に浮かべ、一時的に霧が晴れた夏の日差しの下で大きく頷く。その笑顔はカイがこれまでに見たどんなランド・ウォーカーより生気に満ちていた。
「そう! まさに新入りなんですよ! リョウヘイです、宜しく!」
その四時間前、函館市居住区内の刑務施設。
刑務官の後に続き、大松と竹内は厳重に管理されている独房へ来ていた。薄暗い洞窟のような部屋を通路と仕切るのはやはり鉄格子の壁だ。刑務官の男は鉄格子の向こうへ乱暴に声を投げた。
「リョウヘイ、面会だ」
すると薄暗い小部屋の奥で何かが動き、そうかと思えば一瞬の内に男が鉄格子に飛びついた。格子の間から突き出た手が大松に掴みかかる寸前に、竹内が大松を後ろへ引き戻す。
「よう、久し振りだなあ、兄貴」
「……そうだな」
リョウヘイは手を引くが、相変わらず鉄格子を握り込んで大松の顔をじっと睨みつけている。薄暗い地下でも、その殺気に満ちた眼は野生動物さながらにギラギラと光って見えた。
「何だよ、五年振りに会いに来たにしちゃあ、辛気臭え顔してんな」
「率直に言う。お前に頼みがある」
大松がそう言った途端、リョウヘイは独房の壁際にあるベッドにどかりと腰を下ろし、腹の底から笑い出した。
「ははは! 何だよ、頼みって? 死んでくれとでも言うのか?」
「いや、違う」
「じゃあ何だよ。こんな地下の穴倉に五年も閉じ込めて、その上俺に何を頼もうってんだ?」
リョウヘイの眼が大松を睨み上げる。あまりにも重苦しい空気に、竹内はただ固唾をのんで見守るほかなかった。
「レイと言う陸自の司令官を殺して欲しい」
大松の意外な依頼を聞き、リョウヘイは再び立ち上がって鉄格子の傍にやって来た。生白い肌にはっきりした眼が大きく見開かれている。
「殺して欲しい……? おい、あんたは平和主義者だったんじゃねえのか。頭でも打ったのか?」
「日本とロシアが戦争状態なのは知ってるな」
「さすがにそのくらい知ってる。ここの奴らが年中ぼやいてやがるから」
「北海道や東北の居住区は、その戦争のおかげですっかり疲弊し切ってるんだ。だから、俺は戦争を終わらせるために仲間と一緒に青函トンネルを占拠した」
するとリョウヘイは楽しそうに笑い出した。
「はは、あんたが青函トンネルを占拠? マジでそんな事できたのか?」
「本当だ。そのせいで……叶が殺された」
「誰だっけ、それ」
大松は苦々しい表情で鉄格子の向こうに居る弟を見やった。リョウヘイは相変わらず楽しそうに口角を上げている。
「俺の妻だ。叶は妊娠していたんだ……」
「ふうん。じゃあガキもろとも死んじまったわけか。でもそれって全部あんた自身で決めた事だろ。それが俺と何の関係があるんだ?」
リョウヘイは子供の頃からいつもこうだった。これはリョウヘイだからと言う訳ではないが、ランド・ウォーカーはどんな不幸や悲しみにも、歩み寄ったり寄り添ったりする事は決して無い生き物なのだ。
「この戦争が長引けば、この居住区も今まで通りの生活ができなくなる。ここでお前を生かしておく事もできなくなるぞ。戦争を終わらせるためにはレイを殺さなければならないんだ」
「おいおい、そいつを殺せば国と国の喧嘩が止まんのか? どんな要人だよ。そんな奴簡単に殺せるとでも思ってんのかよ。だいたい、そのレイってやつを殺したとこで代わりになる奴なんざ腐るほど居んだろ」
大松から飛び出したあまりに突拍子もない話に、リョウヘイはまたベッドの上に戻り大の字になって寝ころんだ。大松は竹内の制止をすり抜け、鉄格子に食いつくようにして弟に呼びかける。
「俺は大真面目だ、リョウヘイ。お前の言う通り、簡単な話ではない。レイを殺したところで後釜に座る人間はいくらでも居るかもしれない。だが、レイほど冷酷な人間はそうそう居ない。それに、この話はお前にとっても決して悪い話ではないはずだ」
「どこがだよ。俺に特攻して来いって言ってんだぞ」
「お前は何もしなければ一生をこの独房で過ごす事になるんだぞ。だが、もしも今回の話を受けるなら、言うまでもないが……ここから出してやる」
やっと興味を取り戻したのか、リョウヘイは体を起こし、ベッドの上で胡坐をかいた。肩まで伸びた髪の下から獣のような眼が覗いている。
「俺をここから出す……? そいつは好条件だ。でもよ、俺を自由にしたところであんたの依頼を全うする保証はこれっぽっちもねえぞ。俺は晴れて自由の身になって好きな場所へ行き、好きに生きる。あんたの女やガキが何だろうが知ったこっちゃねえんだよ」
独房の質素なベッドが軋み、リョウヘイは再び鉄格子までやって来た。
「それとも……俺がこの依頼に成功したら、あんたを殺させてくれんのか、兄さんよ」
リョウヘイの言葉に、それまで何も言わずに見守っていた竹内がたまらず割り込む。
「大松、もう止めよう。他にも方法があるはずだ」
だが大松は引き下がらなかった。少しも怯まずにじっとリョウヘイの眼を捉えている。
「無論、そのつもりだ」
大松の言葉は、真っ直ぐリョウヘイに向けられていた。リョウヘイは不敵な笑みと共に深々と頷く。
「何だよ、俺は冗談で言ってんだぞ。だって、別にあんたの許可なんか無くたって、俺は自由になれば何でもし放題なんだから。いつだってあんたを殺せるんだ。そんなもん報酬になんねえよ」
すると大松は鉄格子の一本を掴んだ。その手は力を込めるあまり、小さく震えている。
「お前がレイを殺せたら、俺を殺してここの市長になれ。この函館居住区ごとお前に譲る」
信じられない報酬に、竹内は目を丸くして大松を見た。大松の横顔は真剣そのものだった。
「大松! 自分が何を言ってるか分かってるのか? ランド・ウォーカーに居住区を持たせるだと!? いったい何を考えて……」
「竹内、ここは俺の居住区だ。俺に決定権がある」
「くそ! 俺は絶対に反対だ!」
竹内の必死の反対も、大松には全く響いていなかった。リョウヘイは嬉々として鉄格子の向こうの兄を見る。冷たい格子を挟んだ二人の表情は、天と地ほどの差があった。
「おいおい、マジかよ。あんたが何より大事にしてきたこの居住区を俺に譲る? 本気で言ってんのか?」
「ああ、本気だ。それだけこの依頼の意義は大きい」
「絶対に譲るんだろうな?」
「お前がこの依頼を受けるなら、公文書で確約する」
リョウヘイは少し考えたようだったが、漸く顔を上げた。その顔には満面に笑顔が張り付いていた。
「やるだけやってやるよ。で、レイってどんな奴なんだ?」
大松は魂の抜けた顔を、目の前で爛々と目を輝かせる弟に向ける。
「話に聞くところでは、まだ二十歳そこそこの若者らしい。ロシア人と日本人の間の子供だ」
「ふうん、じゃあ見た目は分かり易いな。どこに居んだよ、そいつ」
「おそらく択捉島の辺りだろう」
「うわあ、遠いな。しかも島かよ。偉い奴って普通は奥に引っ込んでるもんだろ」
「レイは違う。好戦的で冷徹な奴だと聞いている」
「そんな奴山ほど居るけど、そろって変人だ。よし、じゃあ二股温泉まで行けるだけの足と物資を用意しろ」
リョウヘイの控えめな要求に、大松は眉を顰める。
「二股温泉? レイが居るのはもっと先だぞ」
するとリョウヘイは鉄格子にぴったり張り付いて大松に向かって舌を出した。
「馬鹿じゃねえの? マジで特攻させる気かよ。まずは自衛隊に入るんだよ。レイってのは陸自なんだろ? だったら二股温泉は奴らの保養施設だから、そこでうまい事入り込んで少しでもレイに近付き易くすんだよ!」
「……お前に全て任せる。だが、レイを殺したら誰が見てもそうと分かる物証を持って来いよ」
「首でも何でも持って来てやるよ。だからさっさとここから出しやがれ」
「物が準備できたら出してやる。それまで少し待て」
そう言うなり、大松はリョウヘイに背を向けて来た道を戻る。竹内もその後に続くが、暗がりに呑まれていく二人の背中に、リョウヘイが声を投げた。
「もう一つ大事なことがある!」
大松は何も言わずに立ち止まり、振り返りもせずに続きを待つ。
「有難え事に俺は出生届が出されてねえから、あんたの弟だって知ってる奴も限られてる。五年前に俺がだいぶ消しといたしな。だから、俺があんたの弟だって事は今後一切誰にも言うな。まあ、頼まれても言わねえだろうけど。あと、既に知ってる奴はこの居住区から出すな。特に俺の顔を知ってる奴は絶対だ」
「……何でだ」
漸く振り返った大松は、鉄格子から腕を出して中指を立てるリョウヘイを睨んだ。
「あんたは本当にお人好しだなあ。青函トンネルを占拠するような野蛮人を陸自の奴らが放っておくと思ってんのか? あんたのお友達の中に地底人のふりをしたランド・ウォーカーが居てもおかしくねえんだぞ」
「まさか、陸自のスパイが居るとでも?」
「そうだよ。信じる信じないは勝手だが、俺は自衛のためにもこの条件を呑んでもらわなきゃ困る」
大松は少しの間考えた。自分がここまでやって来られたのは周囲の仲間が協力してくれたからだ。トンネルの件も、一緒に命を懸けると誓った仲間だ。ここの刑務官も、留守を任せた菊池も、隣に居る竹内もそうだ。仲間を疑うような真似をしたくなかった。
そんな葛藤を読んだかのように竹内が大松の肩に手を置いた。
「仕方ないさ、大松。居住区を渡すほどの覚悟なら、いっそ徹底的にやるべきだ」
「竹内……すまない」
大松はその場でリョウヘイに怒鳴る。
「分かった! お前の望む通りにしよう!」
鉄格子から伸びるリョウヘイの手が、中指ではなく親指を立てた。
雲一つない青空の下、リョウヘイと名乗る男の屈託のない笑顔を前にしてもなお、カエデは殆ど無表情だった。
「新入りですか」
そう言ってリョウヘイを上から下まで一通り眺める。
「ランド・ウォーカーなのに地下生活が長かったようですね」
カエデの鋭い視線にも全く動じる事なく、リョウヘイは半袖の下から伸びる自分の生白い腕を示した。
「ああ、白いから? そうそう、その通り。ずっと地下に居たんですよ! だから地上の空気が吸えて最高の気分だ!」
「それは良かったですね」
淡白に応えたカエデはカイとタケルを振り返って温泉の建物を示す。
「ここは浴場が狭いため、男女別に時間を分けて入ります。まず、今から一時間が男。その後の四十分が女。さあ、ゆっくり入りたいのなら急いだ方が良いですよ。男の方が圧倒的に多いので、一時間でものんびり構えてはいられませんから」
「何だって! 行くぞ、カイ!」
「おい!」
タケルに腕を掴まれて引きずられるように屋内へ向かうカイ。ふとカエデとリョウヘイを振り返る。カエデは眼鏡の下でいつも通りの冷たい視線をリョウヘイに向けていた。カイはあの二人のやり取りが気がかりだったが、タケルに引かれて留まれるほど怪力ではなかった。
「何してんだよ、早く行こうぜ。ラジウム温泉、気になんねえのかよ」
引っ張ってはいるものの抵抗を感じ、タケルはカイを振り返る。
「……カエデの様子が違った」
「そうか? 色白が好きなんだろ。そんな事より、俺はお前とそのケースを置いて行く事ができない。でもすぐにでも温泉に入りてえ。言いたい事分かるよな?」
「うるせえな、分かってるよ」
カイとタケルが建物へ駆けて行った後、カエデもリョウヘイに軽く会釈して二人の後に続こうと歩き出した。だが、その背中をリョウヘイが呼び止める。
「姐さん、あんたがこの部隊で一番偉い人?」
カエデは無表情で振り返った。
「はい、そうです」
「俺さ、前々から陸自の仕事に興味があるんだよね。今は特に人員不足でしょ? 隊員募集してる?」
カエデはリョウヘイに歩み寄って、じっとその顔を見つめる。肩まで伸びた髪を無造作にまとめてはいるが、長い前髪の下から覗く眼は黒々と輝いていた。
「失礼ですが、あなたお幾つですか」
「二十五。まだ大丈夫でしょ」
「ええ、三十三まで入れます」
「平均寿命は短くなってんのに年齢制限は昔のままなんだってな。良いの、それで?」
「では、二十四に引き下げましょうか?」
するとリョウヘイは楽しそうに笑って首を振る。
「だめだめ、やめて。ねえ、どうすれば入隊できんの? やっと地上に出て来たからさ、刺激的な仕事がしてえんだよな」
「入隊の可否は私には決められません。そうですね……、旭川まで我々と同行して下さい。そこで人事院の者に取り次ぎましょう」
「やった! ありがとね、姐さん」
カエデはますます怪訝そうにリョウヘイを見る。当のリョウヘイは人好きのする笑顔を浮かべながら首を傾げていた。
「どうかした?」
「何故、長い間地下に?」
「俺ね、居住区の拡張工事の現場で働いてたんだ。そりゃあ、地上にも出る事はあったけど、殆ど地下での作業だろ?」
「なるほど。では力仕事はお手の物と言ったところでしょうか」
「はは、まあね」
「それは良い事です。体力は基本中の基本ですから」
カエデはリョウヘイに背を向けて温泉へ向かう。その後ろ姿が建物の中に消えた頃、リョウヘイも隊員達で賑わう屋内へ踏み込んで行った。
カイは浴槽の隅で手のひらに湯をすくった。やはり湯も土気色をしていて、茶褐色の湯の花が浮いている。温度は若干低めだが、体の中からじんわり温まる感覚があった。放射線が出ていると聞いてどんなものかと思っていたが、やはり実感するものは無かった。それでもこれまで入った温泉の中で一番体が温まる気がした。
「カイ! あれ見ろよ!」
隊員達に紛れて、タケルが露天風呂から見える滑らかな岩盤のようなものを指さしていた。湯の花同様、茶褐色の巨大なドーム型の岩盤だ。
「カエデが言ってた、石灰華ドームってやつだろ」
「世界に二つしか無いんだって、すげえよな!」
「まあな。珍しいには珍しいんだろ」
そう言って目を閉じるカイの顔に、タケルが飛ばした湯がかかる。
「おい、やめろ!」
「お前ってつまんねえよな。感動したりしねえの? お前とは数か月一緒に居るけど、感動してるとこ見た事ねえな」
「何でお前に合わせてやんなきゃなんねえんだよ。別に感動する事じゃねえだろ。世界に二つある物の一つがここにあるってだけだ」
「はいはい、そうですね」
「じゃあ、これはどうだ?」
不意に頭上から聞こえた声に、カイとタケルは湯に浸かったまま声のした方を見上げる。そこには表で会ったこの温泉施設の従業員、リョウヘイが居た。何故か服を脱いで風呂に入る気満々だが。
「あんた……さっき会った従業員だよな?」
「うん、そうだよ」
リョウヘイは警戒するカイの隣にゆっくり入って来た。タケルは何も言わずにじっとその様子を見ている。
「ここで働くのが今日で最後だって言ったら、管理者が入ってけってさ。これだから地底人は良いよな」
「……ふうん」
訝し気に自分を見ているカイに笑顔を向けて、リョウヘイは言った。
「世界に二つある物の一つがここにあるだけ。じゃあ、世界に一人しかいない俺達がここで会った事の方がすげえよな?」
カイは不可解そうな表情で暫く黙っていたが、漸く静かに口を開いた。
「あんた、そう言う趣味なのか? じゃあ別を当たってくれ」
するとリョウヘイは噴き出して大いに笑った。
「はははは! 面白えな!」
「タケル、出るぞ」
そう言って上がろうとするカイの腕を、リョウヘイが素早く掴んだ。だが、その手を今度はタケルが引き剥す。
「悪いが、これも仕事なんだ。カイにはちょっかい出さない方が良い」
「おいおい、別に襲ったりしねえよ。ただ、挨拶に来ただけだ」
「挨拶?」
タケルの手を振りほどき、リョウヘイは改めて二人を見て言った。
「俺は陸自に入隊するために旭川へ行く。ついてはこの部隊に同行するよう言われたんだ。でだな、車に空きがないからお前達の車に乗せてもらえって言われた」
「は? 誰に言われた?」
カイは初めて聞いた好ましくない展開に不機嫌を露にした。
「さっきの姐さん。眼鏡の美人」
「くそ……勝手にこんな野郎押し付けやがって」
「君さ、そう言うの本人の前で言わない方が良いよ」
眉を寄せて舌打ちするカイに、リョウヘイは苦笑するしかなかった。そこにタケルが興味を示す。
「あんたさ、何か特技とかねえの?」
「何で?」
「カイはこの調子だろ? つまんねえから」
「特技か、ねえな」
「……正直だな」
肩を落とすタケルに、リョウヘイは屈託のない笑顔を向けた。
「話し相手にならなってやるよ?」
「……どうも」
やはり不服そうな二人の少年だが、リョウヘイはそれでも楽しそうに言う。
「まあまあ、考えたところであの姐さんの決定はきっと変わらねえだろ? 仲良くしようぜ!」
そんなリョウヘイにカイは浴槽から上がりながら言い残した。この男を押し付けられた事によってラジウム温泉の効能が一気に消し飛んだようだった。
「俺は別に誰とも仲良くしてねえよ」
そしてさっさと風呂場を出て行く。そんなカイを追うタケルに、リョウヘイが言う。
「そうだ、特技、一つあったぞ」
タケルはのんびり湯に浸かっているリョウヘイを振り返った。カイの態度に怒るでも焦るでもない、言わば全く気にしていない様子の男を。
「車の運転が得意だ。さっきの彼にもそう言っといてくれ」
リョウヘイが去った後の函館居住区は叶の葬儀があった事以外は普段の様子と何一つ変わらなかった。変わったとすれば刑務官が見回る独房が減った事と、刑務施設に運ぶ食事が減った事くらいだが、その事実を知る人間が口外する事はない。
竹内は市長室の扉をノックする。妻の葬儀を終わらせるなり、すぐに市長の業務へ戻った大松の様子を見に来たのだ。
「どうぞ」
中から疲れ切った声が聞こえ、竹内は部屋に入るとすぐにそっと扉を閉める。
「大丈夫か。少しは休んだ方が良いぞ」
机にかじりつくように書類を整理する大松が、生気の無い目を上げた。
「いや、平気だ。ありがとう」
「そうは見えない。今あんたが倒れたら元も子もないんだぞ。少し休んだらどうだ」
竹内は机に手をついて、黙々と書類を相手にしている大松に言った。大松は漸く手を止めて竹内を見上げる。その顔に、青函トンネル占拠を決行した時の熱はもはや無かった。
「……分かった」
そう言って席を立ち、応接用のソファーに腰を下ろす。竹内もその向かいに座って深く背をもたれた。
「あまりにも多くの事が起こり過ぎた。今のあんたは俺が知ってる大松一平じゃない。とにかく休むべきだ」
「……そうだな。お前まで巻き込んでしまって、悪かった」
「俺の事は気にするなよ。元はと言えば青函トンネルで一緒に死ぬ覚悟だったじゃないか。ここに足止めを食らう事くらい、何てことない」
「お前もトンネルから生きて出られたんだから、旭川の様子を見に帰りたいと思うだろ? 俺だけ自分の居住区に戻ったとなると……申し訳ない」
ソファーにもたれていた竹内だったが、身を乗り出して憔悴した大松の顔を覗き込んだ。そして強い眼差しで念を押す。
「俺の事は気にするな。この函館で二年は世話になったんだ。ここも自分の居住区のようなもんだ」
「……二年か。早いな」
大松は、ふと目の前の竹内を見た。この若い男は旭川の窮状を東京へ訴えるつもりで海峡を越える前にここへ立ち寄ったのだ。そこで大松と意気投合した。竹内は若いが相当な意志の強さを持ち合わせている。ここへ来た時も、旭川に駐屯している自衛隊の車両を盗んで来たのだから。
「お前がここに来て二年なら、リョウヘイがやった事は知らないか」
竹内は小さく頷いた。
「かなり酷い事をしたと言うのは菊池から聞いたが、詳しくは知らない」
「リョウヘイはな、一夜にして二十人もの人を殺したんだ」
「……何だって? そんな事が……!」
「リョウヘイが殺したのは、全て自分の親族だ。親はもちろん、自分がどこの誰なのか知る人間をことごとく殺そうとした。俺が止めなければ、被害は親族に留まらなかっただろう」
「いったいどうして、そんな事を!? ランド・ウォーカーでも、後々逃げ切れない事を考えてそこまでの凶行に及ぶ奴はそうそう居るもんじゃない!」
大松は遠い目で竹内の向こうの壁を見ていた。
「リョウヘイは、確かに不遇な人生を送っていた。俺達の両親は地底人で、自分達の間にランド・ウォーカーが生まれる事を何より恐れていたんだ。だから俺が生まれた時もすぐには届け出ず、俺がランド・ウォーカーではないと判ってから届け出た」
竹内は殆ど分からない程度に眉をひそめた。この手の話はよく聞くものだ。山間部など閉鎖的な居住区では、住人として何の記録にも残らないランド・ウォーカー達がたくさん居ると言う。そうしたランド・ウォーカー達は奴隷同様の扱いで、言葉もろくに話せないと聞いた事があった。
「だが、リョウヘイはランド・ウォーカーだった。小さな頃から自己中心的な奴だったが、性格は明るくて社交的だったから、両親もランド・ウォーカーではないと信じていたんだ」
「それが裏切られた訳か」
「リョウヘイが悪いのではないが、両親はあいつを人として扱わなかった。親族も全てな」
竹内はそう話す大松を見る。その視線に気付いた大松はそっと目を伏せて力なく言った。
「俺はずっとリョウヘイがかわいそうだった。ランド・ウォーカーとして生まれる事は本人にはどうにもできない事だ。それなのに、あいつは全く愛されないどころか疎まれていたんだ。だから、俺は極力自然にリョウヘイに接したよ。あいつは自分の事しか考えない人間だが、それもあいつの性格だと割り切って」
「それであんたはランド・ウォーカーとの共生が夢だと言ったのか。本当はリョウヘイと分かり合いたかったんじゃないのか」
大松は憔悴しきった表情に僅かな生気を込めて大きく頷いた。
「あいつがあの事件を起こすまでは、分かり合いたいと思っていたさ。だが、リョウヘイは二十歳になった時、両親や親戚をことごとく殺した。俺以外、全員をな」
「あんたを殺さなかったのは、リョウヘイにもあんたの気持ちが何か伝わっていたからじゃないのか?」
竹内の言葉に大松は苦笑して首を振った。
「いいや、違う。あいつは俺に見せつけたかったんだ。自分が如何に俺達を恨んでいるかを。俺の性格も分かっていて、一生逃れられない重荷を寄越したんだよ。だから俺はあいつを独房に入れたんだ」
「……法律に則れば、死刑じゃないのか」
「当然そうだ。でも俺にはできなかった。リョウヘイが不当な扱いを受けていた事は事実だからな。どんなに冷酷で狂った弟でも、俺は同情してしまったんだ。俺を殺さなかった理由の一つは減刑かもしれないな」
「…………」
難しい顔で視線を床に落とす竹内。その様子に大松は一つ息を吐いてぼやいた。
「リョウヘイは二十年、奴隷さながらに生きた。そして五年を地下の薄暗い独房で生きた。正直、今あいつを外に出す事ができて、安心している自分も居るんだ」
「大松、あんた……リョウヘイが依頼を果たさなくてもそれで良いと思ってるんじゃないのか」
「……あいつが逃げるなら、追う気はない」
「そうか」
そう言うなり竹内は立ち上がった。大松は視線を壁に向けたまま黙っている。
「あんた達兄弟の事に口を挟む気はない。俺も今の話を聞いてリョウヘイに同情しないでもないさ。だが、リョウヘイがレイを殺さず自由気ままに生きている間、俺達はずっとここで終わらない戦争が終わると信じて待ち続けるのか?」
大松は漸く竹内を見上げた。竹内は意志の強い目を真っ直ぐ扉の方へ向けている。その姿を見るだけで、この若い男が何をしようと思い立ったのか分かる気がした。
「リョウヘイは必ず動く。成功するかは分からないが。あいつは俺を一番恨んでいるからな。俺を殺したうえ、この居住区を自分のものにできるとなれば、何でもするさ」
振り返った竹内は、不安そうな目で大松を見下ろしていた。
「本当に大丈夫なのか?」
「ああ見えてリョウヘイは頭の良い奴なんだ。今はあいつに任せるほかない」
竹内は小さく息を吐き、再びソファーに腰を下ろす。そしてただ壁を見つめるだけだった大松の視線と嚙み合った。
「分かった。あんたを信じるよ」
その力強い声に、大松は深々と頭を下げた。
風呂を出たカイは、外の廊下で入浴時間を待っているカエデを見付けるなり大股で詰め寄った。
「カイ、お風呂はどうでした? なかなか良かったでしょう」
まだ濡れているカイの髪に手を伸ばすカエデ。カイはその手を避けて怒りの眼差しを向ける。
「おい、あの変な野郎を勝手に俺達の車に乗せると決めたそうだな? いい加減にしてくれ! タケルに加えてあの変人を乗せて走れってのか!」
「ああ、その事ですか」
カエデは一度眼鏡を押し上げ、感情の読めない目で言った。
「申し訳ありませんが、我々の車両は全て定員通りで乗っていますし、あの方の車は旭川までの道のりを行ける類には見えませんでした。ですので、彼を旭川まで連れて行くにはあなた方の車両に乗せて頂くのが一番良いかと」
「これ以上変なのを増やされると困る。それに、俺達の車には部外者に見られたくないものも乗ってるんだ」
「では……」
カエデはまだほんのりと赤いカイの頬に擦り寄るようにして耳元で囁いた。
「自衛官と入れ替えで、私の隣に来ますか?」
カイは咄嗟に飛び退いてカエデを睨むが、カエデはどこか楽しそうに口角を上げている。
「……もういい。タケルの馬鹿に相手させる」
「そうですか。では、そうして下さい」
カエデに背を向けて歩き出すカイ。そこに後を追って来たタケルが駆け寄る。慌てて出て来たようで、タケルもまだ髪が濡れていた。
「おい、珍しく怒り狂ってんな! いつもはへそ曲げてムスッとしてるだけなのにさ!」
「俺は自分の事を勝手に決められるのが嫌いなんだよ!」
「で? どうだった?」
「駄目だ、乗せるしかねえ。俺達も陸自に護送されてる身だ。これ以上喚き立てる訳にもいかねえしな……」
「だよな。あ、そうだ」
自衛官達が休憩している広間の隅で、タケルはリョウヘイに言われた事を思い出した。
「あいつが、車の運転が得意だって言ってたぞ。あいつに運転させれば?」
「…………」
その会話の最中、カイはタケルの向こうにこちらへやって来るリョウヘイを見付けた。その視線に気付いたタケルは背後を振り返る。リョウヘイはタオルをきれいに頭に巻いていた。
「俺の車を姐さんに見せた時、君達の車を見せてもらったんだ。シートを見てすぐに君が運転手だと分かった」
リョウヘイは自分に警戒の眼差しを向けるカイを見て言った。
「カイ、だよな。で、君がタケル。二人の身長差が印象的だったから。それで風呂場でカイを見て思った。俺と同じで色が白いから、普段から好き好んで車を運転してきたタイプの人間じゃないって」
「……シャーロックホームズのつもりか?」
タケルはカイの言葉に首を傾げるが、一方でリョウヘイは楽しそうに笑っている。
「君はそんな古い小説も読むのか! すげえな! 俺はホームズじゃねえよ。そうだな、言うなれば……モリアーティーだ」
「…………」
重たい空気が垂れ込める二人の間で、タケルは広間の壁に貼ってあるポスターを見て声を上げた。
「カイ! カニだ! カニが食えるぞ!」
「は?」
カイはいったい何事かとタケルを見上げる。その大きな手が示す先には長万部町の特産品である毛ガニのポスターがあった。
「お前さ……その話、今じゃなきゃ駄目なのか?」
「今だからだろ! おい、リョウヘイ。ここでカニ食えるの?」
リョウヘイは満面に笑みを浮かべて返す。
「うん、食えるよ、毛ガニ」
「よし、カニを食おう。話はそれからだ。と言うか、話したところで何も変わらねえんだから、もう諦めた方が良いんじゃねえか?」
タケルはカイの肩を掴んでカニのポスターの方へ体を向けさせた。ポスターには塩茹でした毛ガニから湯気が立ち上る写真が大々的に載せられている。
「カニ……」
意図せずそんな言葉がぽろりと落ちた。カイも食べた事がなかったのだ。そんな二人に、リョウヘイは胸を張る。
「じゃあ、俺が奢る! 旭川まで世話になるしな! どう? 仲良くしようぜ」
カイはリョウヘイの笑顔とカニの写真とを交互に見比べていたが、遂には首を縦に振った。




