ここでの最初の邂逅
「やぁ起きた?久しぶりだね」
そう声をかけたのは、少年とほとんど変わらないような見た目年齢をしている、これまた少年だ。
「ん?誰だ?」
「君の記憶力が見た目相応になっていないことを願うよ。ソール」
そう軽口を言ってのける少年は、太陽の二つ名を擁する少年をそう呼んだ。
「んぁ。あぁその見た目と雰囲気、お前ルアか?」
「せいか~い」
ソールと呼ばれた少年は、もう一人をルアと呼び、お互いのことを確認しあった。
事実彼らは、魔王軍との戦争で共に戦った仲間であるのだ。確認する方法などいくらでもある。
「ていうかソール。君なんでこんな真昼間から公園のベンチで寝っ転がってるの?しかも噴水付き。そこまでして黄昏たかったの君は。昼だけど」
「久しぶりなのに言葉のとげが鋭いな」
「君にくらいだよ。扱い方はこれくらい雑で十分だって」
「それいったの絶対サタンだろ?はぁ、普通に人助けしてたら帰るのが遅くなって、宿屋に入るのも申し訳なかったから、外で寝ようと思っただけ」
これは事実である。本を読んだ図書館からの帰り道、大分暗くなっていたのだが、老人が大荷物をもって歩いているのを発見したのだ。見かねたソールは、手荷物をもち、老人を背負い、目的地まで運んだのだ。
今考えてみれば、かなりの距離であった。隣の隣の街が目的地だったのだ。老人が、歩いていこう、とは決して考えられないような距離だったのに、かの老人は荷物を持ちながら歩こうとしていた。運び着いた家はかなりの豪邸なはず――ソールの感覚はいまだに7000年前――だったから、何かと訳ありなんだろうと推測できる。
とまぁ彼らしいことをしていたがために、気づけば深夜の12時を回り、宿屋の主人を起こすのも憚られ、結局いい感じで寝そべれる場所はこの公園しかなかったのだ。
「そんなんはいいんだけど、さすがに無防備すぎない?心配するだろ」
「この街の人に、害する意思も、俺たちを傷つけるだけの力もないから安心してくれ」
「それは、そうだけど。今何時か知ってる?11時過ぎだよ。主人が待ってるんだから、早く宿に戻りなよ」
そう言いルアと呼ばれた少年はソールの手をとって起こし、宿屋まで連れ出した。
「え、なんで知ってるんだ?」
「僕が君が泊まっている月影亭の主人夫婦の子供だからね」
「ええええええええええええ」
「君が見ていないだけで、僕は結構君の周りを歩いてたし、仕事をしてた。仕事っていうよりは、父さん母さんのお手伝いだけど」
「まじか。全然気が付かなかったんだが。というかルアはこの時代で、また生まれたのか?」
ソールの疑問ももっともである。自分は知らない時代に、知らない場所にただただ放り込まれたのに対して、彼は幼少期からやり直せているというではないか。
「そうらしいよ。ちゃんと息子してる。自分でもびっくりだね。君は身分証くらい持ってるの?」
それに戸籍・身分がはっきりしていると来た。彼は怒りたい気持ちを感じたが、この場合何に怒ればいいのかわからず意気消沈してしまった。
聞かれた通り身分証を出す。
「これならあるぞ。助けた兵にそれなりに位が高いやつがいて、そいつにでっち上げてもらった」
「相変わらず君の体質は何というか、いや性格もか」
「きこえてるからな」
「それはまぁ置いといて。とりあえず身分証があればどうにかはなるよ」
「そうか。なら宿屋にも迷惑はかけないな」
「そこは気にしなくてもいいのに」
「いや、身分がない人間を泊めるとなるといざって時に大変だろ」
「ほんとうに大丈夫だって。うちの両親元冒険者やってたんだよ。しかも腕っぷしには自信がある方だし」
これも事実である。現在ソールが宿泊しているのは月影亭と言う宿だ。この宿の主人夫婦は、元冒険者と言って、各地域のギルドに属さず、ギルドへ頼まれた依頼をこなしていく人たちことのことで、彼らはそのうちの一人だったのだ。
何がきっかけで冒険者をやめたのかは、息子のルアも知らない所ではあるが、まわりまわってこの大都市トワイライトに存在する街の一つに、宿屋を開いている。
「この時代の腕っぷしは、正直あてにならないだろ」
「ソールがそう言うのも無理はないけど、何も人間だけ弱体化してるわけじゃないから。魔物だってレベルが格段に落ちてる」
「人類側と同じってことか」
「そういうこと。僕たちが強い個体を片っ端から葬り去ったのも大きいと思うよ」
ソールが勇者として戦地に立っていた時には、その一団で名を馳せたのだ。強力な戦力をもって、相手の幹部クラスを沈めていき、結果的には魔王と相打ちしたわけなのだが。
結局魔物側でも、今回ソールが現代で感じた違和感レベルの、文化・戦力的後退が行われているということだ。
「詳しいな」
「そりゃもちろん。この時代で12年生きてるからね」
「一人で、退屈だったろう?」
「それはそれは退屈だったかもしれない。僕だって自分の本当の力を隠さなければいけなかったし、仲間がこの時代にいるのかすら怪しい。それに探しに行くとしても、それができるだけの力を持っていなかった」
「そうか。すまなかった」
「別に、この時代はこの時代だよ。でもまぁソール。君に会えてよかった」
「俺もだ。」
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