太陽と呼ばれるもの
「なんでここにいるんだ」
赤髪の少年が顔を上げて周りを見渡している。ここは荒野も荒野で、草はその成長の自由を遺憾無く発揮し、ゆうに人の身長まで育っている。
寝そべった形を取っている少年にとって位置を知らせるのは燦燦と光を放つ太陽のみ。
シュッ
「ふぅ」
少し音がたった後のそこは、何も無いただだだっ広い畑があるだけになった。
「とりあえず、街にでも行ってみるか...」
ただ風を切る音だけが聞こえた。
ガヤガヤ
「街変わりすぎだろ...」
近くの街に着いた時の一言目がこれである。見た目12歳の彼が言うにはいささかジジくさいというものだが、彼がそういうのも無理は無い。なぜなら、彼が本当に生きた時代から約7000年も経つというのだから。
何を隠そうこの少年こそがあの魔王と相打ちになったと言われる勇者だったのだ。
その時の彼は魔法・剣術共に一流でありながら、とても恵まれた体躯はないという少し残念な一面もあり、また、困っている人には手を貸さずには居られないそのお人好しさが相まって、誰からも好かれる好青年が出来上がった。
そもそもなぜ彼が街に入ることができたのか。それは彼の徳が成す所である、としか言いようがなかった。
街を目指して途方もない道を歩いてきたわけなのだが、その間にざっと100人ほどの人を助けていた。荒野を抜けて大きな道に出ようとしたところ、運悪く猪の通り道を過ぎようとしていた馬車を見つけ、猪の突撃からその馬車を守ったり、田畑をゴブリンに荒らされ困っていた老人を助けたり、何故か空から降ってきた赤ちゃんをキャッチしたり、防衛戦をしていた門兵の手助けをして一緒に夜を飲み明かしたり。見た目年齢を踏まえるとまだ12歳やそこらなのだが、傭兵業で生計を立てている彼らには些細な問題だったようだ。
そうこうして、大体2か月かけてこの街にたどり着いた。
食事や衣服などは、「お礼だから持って行っちゃって!」などと言われもらわないわけにもいかず、面白いくらいに困らなかった。お金も、富裕層を助ける機会が何度かあったため、それなりに持ってしまっている。
都市と呼ばれている場所は全て外壁でおおわれており、それらの中にも街を区切る門がある。その大きな門を通り抜けるのは、門兵が融通を効かせてくれた。都市自体の門を守っていたわけだから、それなりの地位にいた人間だったようだ。
ここまでうまくいくのか。疑問に持つものも当たり前ながらいるはずだ。
もう一度言おう。彼の徳が成す所だ。
今現状金に困っているわけではない。それすなわち、ほとんど何にも困っていないのだ。ただ街に来た観光客とほぼ同じ状況である。
「困ったな」
宿を取り、独り言つ。それもそうだ、と思った彼は図書館を探す。
この街の発展さ、だがそこにある体で感じる違和感について調べる必要があったからだ。
ついでに言ってしまうと、兵の熟練度もなのだが・・・。
街中で何があるわけでもなし、また少し人助けをしながら図書館へと向かった。
何と言ってもこの街の図書館はこの都市の中で最も大きく、書く都市の最大の図書館をもってしても遜色がない、または優っているのだ。蔵書数が莫大な数あるだけでなく、古い文献もきれいな状態で現存している、本当に優れた図書館である。
そんなことなどつゆ知らずな少年は、自らが求める内容を記している本を探しまわっていた。
「へぇ~。7000年か。・・・・・・うそでしょ?!?!?!?! やべっ」
周りの人に睨まれたのだが。少しお辞儀をしてまた本に目を通す。
「月日が経てば、文化も変わるか...。それに戦争なんて、文化を破壊していくだけだしな」
かつて生きた時代と、現在との違いにひとり合点を済ませる。
「そりゃ、魔力も人も弱いわけだ」
彼がこういうのも無理はない。彼が生きた時代は戦争が100年続いた時代であり、戦争に生まれ・戦争に生き・戦争に死んでいく、そんな人がわんさかと溢れていた時代なのだ。その人々と、今現在魔物と戦う必要性がかならずしもあるわけでない人々を比べるのは酷なものだ。元が違うのに、どうして比べられようか。
また魔力の少なさも同じことを言える。そもそも魔力というのは、精霊が作り出すものなのだ。それを人間が取り込んで、魔法を放つ。人間にも精霊にも相性があり、相性がいいと強い魔法を放ちやすくなるのだが、それはまた今度にしよう。
じゃあ精霊はどこから生まれてくるのか、どうやって生きているのか。正解は、人の想像力だ。正確に言うと、人の想像力をエネルギーや対価として、受け取りながら生きているのだ。精霊に好かれているということは、想像力が豊かであるということであるし、その逆もまた然りだ。
だがその魔力が少ないということは、生み出す精霊が少ないということで、つまり、人の想像力が乏しくなってきている証拠である。
ここで言う想像力は、どれだけ魔法を信じられるのか・・・なのだが。
戦う必要がなくなったこと、それに加えて魔法について書かれているあの頃の書物が全く存在していなかったこと、これらが起因して、魔力が少なくなっているのだろう。
少年が見た感じではあるが、目覚めてからこの街に着くまでの間で魔法を使えるほど魔力を内包している人間は両手で数えられる程度だった。彼が生きた時代には魔法が使えなければ話にはならないし、生きていくことができなかったのに対して、だ。
そうして彼は思い出した。「あ、この街結構科学進んでんな」と。
人間は、全てを手放した代わりに、ゼロからの再出発と、科学を手に入れたのだ。彼の前生きた時代は、科学なんてものは存在せず、全て魔法で補っていたため、この時代に勝るところなんて存在しない。
だが、彼が本来生きた世界は、ここなどはるかに凌駕していた。
こうして彼が得た情報は、特に目新しいものもなく、この時代はいろいろと遅れているが発達するところはしている、というものくらいだ。そして「ギルド」という存在にについてくらい。一般的にその都市を守るトップギルドの名がその都市全体の名前をしているらしい。
「ギルドかー。あいつらなら、乗ってくれるかな?」
そう言って彼は図書館を後にした。
この大都市の名はトワイライト。
奇跡的にも太陽の二つ名を擁した少年が、沈み込んだ街。
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