2.アンスの調査報告「勇者」②
「――久しぶりアンス君。元気してた?」
己の吐瀉物を掃除しながら、普通に会話を始めだす兎耳の怪人。
率直に言いますと、すぐにも記憶を消して帰りたい次第。
しかしこれは我が任務。「勇者」殿の報告を聞くは責務でありますが故……。
これが「勇者」……。
「正気に戻りましたかクレイン殿……」
「すまなったねアンス君。僕は月に一度ウサギさんと化す体質で……」
「頭を診てもらった方がよいかと思うのですが……」
「診てもらったらさあ、随分白髪が増えてますね~だって。困っちゃうよねぇ、しょんぼり」
「はあ……。…………」
――ウサイン改め、クレイン・マツリア。
「昼のランプ」ギルドマスターにして、「勇者」が末裔。
陛下のご信頼厚く、「勇者」候補として白羽の矢が立った人物。
剣術により名を広め、一時期は陛下の近衛兵まで務めたとか。
血筋、才能、名声。輝かしき未来が約束されていたはずの人生。
しかしながら。
腕はさておき、当時を知る人々からの評判は著しく悪く……。
なんでも調子に乗りすぎたとのこと。信頼を失い、職を失い、富を失い、零落し……。
その後再起をかけ、冒険者稼業へ。
酸いも甘いも経験したようで。
冒険者としての評判はまずまず。
腕はもちろん悪くないようですが、対魔物はあまり得意ではない模様。
とはいえ、一流ともいえるギルドを作り上げた手腕は中々のものかと。
通り名。
勇将、口髭、糞髭、糞、マンボ騎士等々。
近頃、彼に対する意味不明の呼称が流行っているようで。
なんですかマンボ騎士って。
「それで、ええとなんだっけ? 君に借金してた覚えはないんだけども」
「事前にお伝えしておりました通り……。状況報告を聞かんとこうして参った次第なのですが」
「無いんだなぁそれが。参ったか!」
「参りましたねぇ……」
「強いていうならそうだなあ。ボクの帰りが遅いってんで、カミさんが魔物と化してね。討伐しようか迷っちゃったよ。そんぐらいかな」
「……はあ」
「不思議だよねえ。僕、結婚なんてしてないのにねえ。誰だったんだろあの女の人……」
「…………」
終始このような調子でございまして。
以前お会いした時と大分ご様子が違っているのが気がかりです。
まだまともだった記憶があるのですが……。
「っていうかさ、最近とびっきりのニュースがあったじゃないの。デーモンとかいうの出たんでしょ? それ調べた方がいいんでないの?」
「もちろん調査しておりますよ。これから接触者達とも面会する予定でして」
「あ、そうなの? ふーん。じゃあリリデス君たちと会っちゃうのかぁ」
「……その前に。お伝えしていた通り、『昼のランプ』幹部の皆さんとのお話が先となります。今後、公務を受けていただくための……」
「オッケーオッケー。ナイスガイが来るって言ってるからさ、みんな集まってると思……あれ、君女の子だっけ」
「男ですが……」
「っはぁー奇遇だね、ボクも男なんだ。気が合うなあ」
「……。……では、早速事務所へと参りましょうか」
「いってらっしゃい。お達者でぇ」
「? クレイン殿は来られぬのですか?」
「まだ今月のウサインタイムが残ってるから……。ノルマがあるんだよこれ、参っちゃうよねえ。参ったか!」
「……頑張ってください」
「そっちも頑張って存分に品定めするといいよぉ。『勇者』様の御一行はみんな優秀だからねぇ~」
「……」
「ぴょん、ぴょんっ! がぁっふぁがっふあっげァ!!」
どうも歓迎されていないようで……。




