8章おまけ「三人の過去」
「まさか元『聖徒』だったとは。少々驚きました」
「た、たしか大陸最強の戦闘集団とか……。すごいですねぇ……」
「隠していた訳ではないのですが……。語るべき事でもありませんでしたので」
「そこでキミエラという方と?」
「いえ、キミィとは修道院時代からの関係でして。無二の親友でした、決別するまでは……」
「……思えば、貴方の過去をほとんど知りませんね。よければ教えていただけませんか?」
「え? いや、しかし話して面白いようなものでも……」
「勿論、語りたくないのであれば無理強いはしません。……ただ、貴方のことをもっと深く知りたいと、そう思ったものですから。……仲間として」
「! ……そ、そうですね。私なんかの昔話でよければ……っ!」
「詳しくお聞かせください。修道院時代や聖徒時代、友人との思い出などを」
「わかりました、では……! ……てゅるんてゅるんてゅるんてゅるん。ほわぁっ!」
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――施設を出た時の事は、未だによく覚えています。
あの当時、私は「神」を信じて疑わず……。エピクルが教えの下、社会奉仕を志しておりました。
信じていたのです。世界は完 「リリデス、タイム。タイムです」
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「――そんな時に出会ったのがキミィ……」
「ストップ。ストップですリリデス」
「はい?」
「……なんです最初のアレは」
「アレとは……?」
「『てゅるんてゅるん』みたいなの」
「? もちろん回想前のソレですが……」
「回想前の……?」
「え? や、やりますよね、回想前って……。『てゅるんてゅるん』って……」
「……モジャはやりますか?」
「知りませんけど……」
「え!? 施設時代はみんなやってたんですけど……!?」
「また出ましたねローカル慣習……」
「特に母はなにかと『てゅるんてゅるん』で過去を語っておりまして……!」
「……まあいいです。すみません話の腰を折って」
「いえいえ。ではもう一度……」
「お願いします」
「デュルンデュルルデュルンデュルンッ!! ッッッドワァッ!!!!」
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――そんな時に出会ったのが、キミ「リリデス、リリデス」
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「――絶対ふざけたでしょう貴方」
「ち、違います違います! 意識した途端、変な導入音にっ……!」
「あまりの声量にモジャがびっくりしてるじゃないですか……」
「いきなりメタルみたいな爆音かまさないでくださいよぉ……!?」
「す、すみませんっ……!」
「もっとスーッとやってください、スーッと」
「わ、わかりました。ではスーッと……」
「お願いします」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「ウウッ!? か、回想が発動しない……っ!」
「発動て」
「呪文詠唱なんですか……?」
「あれがないと場面が暗転しません……ッ!」
「……分かりました、もう何があっても突っ込みませんので……。好きなように回想に入ってください」
「で、ですから意識してしまうとそれ自体が困難にっ……。私は今までどういう『てゅるんてゅるん』をしていたんでしょう……!?」
「めんどくさい癖もってますね本当に……」
「――あ、そうです! よろしければシルティさんの回想発動法をお見せいただければ……」
「一般の人間は回想発動方法論って持ってないんですよ」
「い、いえ。純粋に過去について知りたいな、と! ……思えば私もシルティさんの事、よく知らないなって……」
「特別語るような事もありませんよ」
「私は知りたいことがいっぱいですっ!! 例えば冒険者になった時の事ですとか、ご家族の事ですとか……! そういうのをたくさん、たくさん教えていただきたいです! ……な、仲間としてっ!」
「……。……そうですか。そうですね、仲間ですもんね。ふふ」
「はいっ! 仲間ですので!! 是非!」
「わかりました。では――」
――実家を飛び出してからの行動は早かったですね。
その足ですぐに斡旋「シルティさん!? シルティさんッ!!?」
「――絶対ふざけましたよね今ッ!!?」
「めっちゃふざけました」
「用途不明な謎記号を使ってまで!! なんですかこの絵文字!?」
「『バニー』ですけど」
「誰が使うんですかこんなモン!?」
「なんてこと言うんです、バニー絵文字だけで三種類もあるというのに」
「無駄なものを無駄に細分化しないでくださいよ!?」
「私に言われましても……」
「――ではモジャもお願いします」
「うわこっちに来た……。気配消してたのに……」
「ギルドメンバーは一蓮托生! モジャさんも是非回想してみましょう! さあ!」
「大喜利とか苦手なんですけど……」
「そんなものは求めていませんよモジャ。我らは仲間なので純粋に過去を聞きたいのです何せ仲間なんで仲間仲間わあ仲間」
「この人絶対大喜利を求めてる……っ!」
「何事もチャレンジですよモジャさん! さあさあ!」
「じゃ、じゃあお二人のパクりますね……?」
「かまいませんとも!」
「てゅ、てゅるるるんてゅるるん、にゃーん……」
――確かあれは、二年ほど前ですかね……?
え、えっと……。私、一度だけ猫頭「イ、エェ」に出会ったことがありまして……。
ほ、ほら。私、人見知りなものですから、普段、誰かに話しかけたりしないんですけど。その時ばかりは嬉しくなっちゃいまして。「御教示ください、御教示ください」って、頑張ってお願いしてみたんです。
イ、エェはその猫頭(もしくは昆虫の腹部)を震わせながら、ゆっくりと振り向いてくれました。
はい、そうです。お二人もご存知の通り、これは本当によくない事でした。イ、エェの御言葉は、低位の存在にとって救いになんてならないんです。毒でしかないんです。
きっと話しかけるよう仕向けられていたんでしょう。気付いた時には全部遅くって。猫の頭も、既に赤褐色の肉塊になっていて。
御教示の内容は、以下の通りです。
「もう、助からない。もう、助からない。もう、助からない」……それをずっと繰り返すんです。
「ゆるして、ゆるして」って何度もお願いしたんですけど、イ、エェは何も喋ってくれなくなって。ぬらぬらした粘液ばかり垂らしていました。
その時から私、多分呪われてて。
脳膜や脊髄に、真鍮の針みたいなものが張り付いている感覚が、ずっとあるんです。その異物は多分、イ、エェそのものなんだろうって。今だとよくわかります。
こうやって寄生して、増やしてるんだって、増えてるって、よくわかりました。
今も私の神経を遊泳して、ずっとずっと増えてるんです。
針がどんどん、増えてるんです。ああいまも増えた。
ああ、ああ。増えた。増えている。
「……今の何ッ!!?」
「モジャ……!?」
「…………………………」
「無言にならないでくださいよ!!? なんですこの不可解コズミックホラー!?」
「趣旨が全く違うんですが……」
「だ、だってお二人が一向に止めないからぁ……!」
「『イ、エェ』のせいで止められなくなったんです! 無駄に引き込まないでください!!」
「元はと言えば先日読ませられた『邪神大全』から得た着想でしてぇ……」
「なんつーもん教材にしてんですか貴方達」
「エピクルの神概念を相対化するためにはああいうのも読ませないと……!」
「識字学習にかこつけて歪んだ宗教教育するな」
「――さて。ひとまず出揃った所で優勝者を決めておきましょうか」
「そうしましょう!」
「だからなんの勝負なんですこれ……?」
「うーん悩ましいですね。個人的にはモジャさんのに意表を突かれましたが……」
「しかし少々レギュレーション違反な気もします。シンプルにリリデスの爆音もよいかと」
「そうなりますと最初に意外性を凝らしてきたシルティさんのが最も妥当……」
「真面目に語り合う事なんですか……?」
「困りましたね、どれも一長一短で判断が困難です……!」
「どうでしょう、第三者に意見を求めるというのは」
「一番公平かと!」
「となると……。この手の話題に関して、最も造詣の深い者といえば……」
* * * * *
「――というわけでして」
「わけでして!」
「わけでしてぇ」
「ブレトン、是非あなたに勝者を決めていただきたく」
シルっティイイイイイイアアアアアアアアアアア。
っあああああああああああああああああああああああああ。
っはああああっあああああああああああああああああああああああんんっっ。
~Fin~




