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7.ブレトンVSシルティ同胞団

 ――見誤った。

 長年、見誤ってきた。

 リリデスには、細心の注意を払ってきた。

 何をするにも天然な彼女を。



 そう、こいつは根っからの天然だ。

 何をするにも、私とミナトを苦しめてきた。

 日常ならまだしも、戦闘中においてもだ。

 故に細心の用心で、接してきた。




 しかし注意すべきだったのは。

 本当に注意すべきだったのは。

 シルティ。こいつだ。




 怜悧そうな、鋭き銀眼。

 後頭部でまとめあげた、きらきら光る銀髪。

 この銀なる神秘的容貌と、涼しげな態度の裏で。

 こいつは長年、刃を研ぎ続けてきた訳だ。銀の刃を。



 そうだ。ここぞという時のために。センスを磨き続けてきたのだ。

 絶対の自信がなければ、雌伏は出来ぬ。こいつは今、絶対の自信を持っている。

 ――私を殺れるという、絶対の自信を。





 そしてダークホースのモジャ。

 なんなのだこいつは。本当に何者なのだ。

 おどおどした表情。自信なさ気な上目遣い。

 細く小さな体躯に、猫背……。全てが彼女の卑屈であろう性格を示す。



 蓋を開けてみればどうだ。とんでもないマジシャンのご登場だ。

 新人がいるとは聞いていたが。奇術師だとは聞いていない。マジシャン冒険者。いるかそんなもん。

 本当になんなんだこいつは。技術が、全くもってさっぱりわからない。

 あまりに、不気味。





 天然の化物を支える、この両翼。

 強敵――。







「ほら、これだ。エーリスの手紙……」


「……!」




 話も佳境。

 スティキュラがようやくリリデスに手紙を渡した。

 いいぞ。というかもう役目は終わったな。帰るぞ。帰ろうスティキュラ。

 一杯でも二杯でも奢ってやるから帰ろう。そして寝よう。

 寝――。












(……ヌゥッッッ!!!??)














 リリデス。

 リリデスが、とうとう。

 手紙を受け取りながら。とうとう。
















 ――気付いた。

 ジャーキーに、気付いた。


 驚きの表情で。

 己が肩のジャーキーを、見た。














 手紙、右肩ジャーキー、手紙、右肩ジャーキー、左肩ジャーキー。この流れで見た。

 二度見すんな。右肩ジャーキー二度見すんなもう。

 分かるけど。そりゃ二度見するけど。



 しかしどう見たってびっくりしている。普通の反応だ。

 自分の意志でジャーキーを乗せていた訳ではないことが証明された。当たり前だ。



 ならばようやくだ。ようやく終わる。

 取れ。さっさと除けその肉を。その手で取るんだよ早く。

 早く取りなさいよその愛しのペットちゃんを。ほらもう早く。早く――。












「ッッ!?!!?!??!!?!?!?」














「――あとでじっくり読ませていただきます。そうですか、エーリスが……。あの子が……」














 ――無視。












 肉を、無視して。

 話を、続け出した。








 ……つまりこいつは、今。

 己の両肩に干し肉が乗っていることを自覚しながら。

 母や妹、そして友との確執ついて、真面目な顔をして話している。

 ジャーキーを。しかも肩に。真面目な話を。真面目な顔で。







「あの子の想いは分かりました……。ですが……。ですが私は……」







 「ですが私は」じゃないんだよ。

 まずはジャーキーを処理するんだよお前は。

 肩にツインジャーキー搭載して妹の心配をしてんじゃないよ。

 両肩ジャーキーのお姉さんに想われるエーリスちゃんの身にもなりなさいよ。




 ッああああしまったッジャーキーお姉ちゃんに心配される妹ちゃんはいかんぞいかん。

 どこの世界に居るんじゃい。両肩ビーフジャーキーのお姉ちゃんなんぞどこに居るんじゃい。

 ここに居るんじゃああい。なんで居るんじゃあああい。

 他のこと考えろ~~~。んあああ~~~~~~。







(……むゥッ!!??!!?)









 邪念を振り払わんとしていた最中。

 目を話した一瞬。













 両肩ジャーキーが。

 ……消えた。











 すぐさまモジャを見る。

 モジャ。やはり。やはりこいつ。

 ポーカーフェイス気取りやがって。私には分かる、分かるぞ。

 「またまたわたくしやっちゃいましたァ~」みたいな目してやがる。間違いねえやっぱこいつだ。

 モジャ・ザ・マジシャンのお出ましだ。干し肉奇術の伝道師様だぜ、やりやがったな。





 状況を整理しろブレトン。

 つまり今のリリデスは、ノージャーキーのノーマルリリデスだ。

 この空間にてトンチキなのは、肩にジャーキー乗っけてジャーキー貪ってるシルティのみだ。

 そしてこいつは狙ってやっている訳で。こっちを殺しにかかっている意図が見え見えな訳で。

 そうなれば怖くはない。怖くはないぞ。いややっぱ駄目だ見れん。シルティは見れん。

 無表情で三本目に入りやがったこいつ。無表情でジャーキー食うな馬鹿。もっと楽しそうに食え馬鹿。

 あとなんか飲め。しょっぱいだろ。ジャーキー三本はしょっぱいだろお前。





 いやいい。シルティはいい。よくないがまずいい。

 当面はリリデスだ。ノーマルリリデスに集中しろ。問題ない。

 普段のリリデスなら笑わん。だってノーマルだから。ノーマルリリデスですから。

 リリデスに集中――。












(ンムゥッ!!!??)













 ――気付いた。気付いたぞ、リリデスも気付いた。

 両肩のジャーキーの消失に。

 愕然と、自分の肩を見ている。












 ……愕然と?











「……でさ、もう一度エーリス達に会ってみるのもいいと思うんだよ。すっげえ遊びたがってたし」


「……えッッッ??!? え、な、なんて!? ええっと……エーリスが……なんでしたっけ!? えッ!?」


「え? いや、だからエーリスがよ……」






 なんでそんなに仰天してんだあああああああああああ。

 妹よりジャーキーの心配してんじゃねえぞおおおおおおおおお。

 大切な妹よりも優先してんじゃないぞジャーキーををおををおおおおお。

 何より大切かよジャーキーがああああああああ。ああああああああああああ。






「そうそう。キミエラがお前のことさ……」


「ジャッっ……え!? キミィ!? キミィが……はいッ!!?」


「だからキミエラが……」





 「ジャッ」ッつったッッッッッッッ!!

 「ジャッ」ッつったよ今!!! 言っちゃったよもう!!!

 ジャーキーにご執心だよリリデスちゃん!!!??!?

 キミエラちゃんよりもジャーキーが勝っちゃったよ!!!??!?

 優先順位が旧友<<<<<<<<<<<<<ジャーキーだよ!!!??!

 いいの!!!?!!? それでいいのこの子!!?!?!?!?!?






(お、落ち着けッ。落ち着け、おちt,lお落ち着けィ……!)






 大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。

 だってもうないし。ジャーキーないし。

 シルティが無表情でジャーキー肩に乗っけながらこっち見てジャーキー食ってるだけだし。

 駄目じゃん面白いじゃんもう。シルティ一人で面白いじゃん。駄目だろお前馬鹿シルティてめえシルティ。

 無敵かよ笑いのチャンピオンかコイツはよ。お笑いモンスターかてめえシルティ馬鹿。




 モジャ。モジャは何をしてんだ。

 なんだお前。まだポーカーフェイスして……。

 ……っああああおいおいおいまたこいつまたなんか不敵な顔しましたよ。

 「わたくしまたまたまたまたやってしまいましたァ~ん」みたいな顔してる。腹立つ~~~。

 何したの~~~。モジャ・ザ・マジシャン何したの~~~。教えて~~~。おじさんに教えて~~~。




 ッッッリリデス!!!!!!

 リリデスッ……おま……なんだお前!!?!?

 なんで呼吸浅くなってんだ!!!?? ジャーキー失ったショックか!!??!?

 そこまでのショックだったのか!!!? 額に汗する程か!!?!? びっくりしちゃったの!!?!?

 めっちゃ動揺する程焦っちゃったの!!?!?!!? そんなに食べたかったの!!!??!?

 肩ジャーキーあとで食べようって思ってたの!?!?! シルティちゃんに貰えばいいでしょ!!??!?




 ッッッアホスティキュラアアアアアア気付けえええええ。

 お前だけだよ干し肉に気付いてねええのはあああああああああ。

 さっさと入門してこいジャーキー世界によおおォォォォすぐそこだろォォォォ。

 お前がさっさと軽く突っ込みゃ済む話だろうが筋肉ぅぅぅぅぅぅアホがあああああ。

 お前の役目だろおおおおおおてめえだよてめええええええスティキュラあああああ。

 助けてくれええええええ。助けろおおおおおおおお。もう駄目だあああああああああああ。





 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。









「……こんにちはーッ! 郵便でえーす!!」


(……ッ!!!!)







 決壊寸前。

 室内へ響く、外からの声。

 ……咄嗟に、我に返る。





「…………ッ」






 ――部屋を見渡すと。





 シルティ。

 干し肉はもう、どこにもない。

 郵便屋へ迅速に対応。いつもの彼女。



 モジャ。

 まるで暇してます、というように。外をぼんやり眺めている。

 もう熟練マジシャンの面影はない。気怠げなそばかす顔。



 リリデスは。

 手紙の束を見つつ、物思いにふけっている。

 どこか悲しげな表情。本当にジャーキーを乗せていたのか貴様。

 さっきまでジャーキ乗せてただろ。悲しげな顔をするな。リリデス。



 スティキュラは相も変わらず。

 リリデスに対し、ママさん云々エーリス云々キミエラ云々。

 お前だけだ。お前は一貫していた。逆にムカつく。お前が一番ムカつく。







 ……夢でも見ていたのだろうか。

 そう思うほどの、普通の日常へ。








「あ、そういやブレトンがお前に聞きたい事あるって……」


「……ない」


「え?」


「役目は終わったか。帰るぞ」


「……!? いやおいおい……。お前、話したいって……」


「いや、いい。もうなくなった。帰るぞスティキュラ」


「いやいやいや……あれぇ……?」


「おや、おかえりですかブレトン。せっかくの再会、ゆっくりしていけば良いものを」




 シルティ。

 シルティてめえ。シルティ。

 ゆっくりさせて何する気だ。

 魂胆は見えているぞ女狐。この馬鹿。帰る。




「ではまたな」


「じゃ、じゃあ帰るか……。……そんじゃあ返事頼むぜリリデス」


「はい。必ず返信を……」


「おう。その時は俺が届けっからよ。連絡くれよな、じゃあな!」


「ええ。ありがとうございましたスティキュラさん。ブレトンさんも。いずれまた……」


「うむ……」




 長居は無用。

 危うきには近寄らず。

 早急に帰るべし。帰るべし。帰るべし。





「……ああ、そうだ。ところでブレトン」


「……なんだシルティ」


「ジャーキー食べていきません?」




 シルティイイイイイイイイィィィィィィィ。

 イイイイイイイィィィィィィィアアアアアアアア。



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