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6.ブレトンVSモジャ

(くうぅ~~~ッッ!)






 眼の前で揺れしリリデスジャーキー。

 右に揺れ、左に揺れ、また右に揺れたかと思うと、やはり右に揺れるジャーキー。

 落ちぬ。何故か落ちぬ。肩に寄り添っている。懐いた小鳥のごとく。





(むうぅ~~~~~~ッッッ!)





 リリデスジャーキーの後方。

 無表情のシルティジャーキーが襲い来る。

 何故こちらを見る。こっち見んな馬鹿。ああやめろ。無表情でジャーキー食うな。シルティ貴様。シルティ。






(まずいな。まずいぞ。なんとか……なんとかせねば……)






 とにもかくにも気をそらす必要がある。

 別のことを考えよう。そうだ、世界は広がっている。

 狭い事務所内とて、気を紛らわせる何かはある。






 そういえば。

 新人とかいうモジャ。果たしてどういう奴なのだろう。

 どれこの子でも観察しよう。この謎のそばかす娘をじっくり眺めようではないか。

 彼女の観察にこの時間を使おう。観察――。












「……ッッッ!!??!!??」











 モジャ。こいつ。











 ――気付いた。

 リリデスジャーキーに、気付いた。

 確実に見ている。肩の干し肉を、見ている。









「んぇ……? …………???」








 困惑した表情で、はっきりと肉を眺めている。

 この反応で分かった。恐らくこいつ、常識人だ。

 いける。いけ。いってくれ。突っ込んでくれ。頼む。頼むモジャ。頼む。







「う……っ。…………」





 しまった。こいつ引っ込み思案だ。

 会話に割って入るのを躊躇している。なんてこった。

 しかし気になっている。めちゃくちゃ気になっている。

 そりゃ気になるわ。肩ジャーキーは気になるわ。





「…………ううーん……。…………」





 逡巡しているが、これはいかん。

 なんか既に諦めている。ご指摘を諦めている素振り。

 なんでやねん。なんで目をそらせんねん。ジャーキーやぞ。肩ジャーキーやぞお前。




 ――いや、ここは私がアクションを起こさねばならん。

 必死にモジャへ合図を送る。目で訴えかける。

 小刻みに震える私に気付いてくれと、願う。願う。願う。願う――。




「……ん? ……! …………!?」


「ッッッ!!!!!!!」






 やった気付いた。

 モジャちゃん気付いたぞ。小刻みに震える私に気付いた。目が合った。

 人の気持ちに敏感だこの子。最高。だいすき。おじさんモジャちゃんだいすき。




 最初は困惑した顔で眺めていたが、とうとう状況を悟ってくれた。

 懇願する私の表情を、理解した。

 そして……。






「……あ、あのっ……! リ、リリデスさん……?」






 えらァ~い。えらいぞ~。モジャちゃんは出来る子だ~。

 私のために、隙を見て話に割って入ってきてくれた。

 君とは初対面だがもう大好きだ。後でお駄賃あげちゃう。

 そして肉さえなけりゃこっちの勝利だ。勝ったぞ。戦いは終わり……。











「……ッ!!!??!??!?!?!!?」












 シルティ。

 こいつ。シルティ。貴様。シルティ。おい。

 お前。お前。
















 ――モジャを、制止。

 ジャーキー食いながら、制止――。
















「ん? どうしましたモジャさん?」


「……あ! な、なんでもありません。ご、ごめんなさい、へへ……」




 なんでもあるわ。

 肉があるんだわ。

 肩にジャーキーが乗ってるんだわ。

 ジャーキーがさっきから揺れてるんだわ。




 ……そして困ったことにモジャ。こいつ。

 シルティが何をせんとしているか、理解した。

 この小娘、空気を読んだ。敏い奴。お前のような奴は大嫌いだ。





 っつーかシルティ。こいつ。

 もう完全ではないか。完全じゃん。やばいやつじゃん。

 確実に殺しにきているじゃん。明確なる殺意じゃん。情状酌量の余地なしじゃん。

 知らなかった。シルティ。お前という人間を、今始めて理解した。







「で、そこにキミエラがさ……」


「!? キミィが……!?」






 会話は、キミエラとの邂逅へ。

 現場は、シルティの殺意が確実になった場面へ。

 間違いない。こいつ、何か仕掛けてくる。

 そうに決まっている。もうそういう顔にしか見えん。危険過ぎる。やばすぎる。





(ムッ!!?)







 シルティが、動く――。








(……ッ!)








 ――シルティは、ジャーキーを。

 二本目を、食い始めた。








 ……いや、これは大丈夫だ。

 この程度の動き、予想していた。

 これぐらいでは流石に動じぬ。



 むしろ予測通りの行動が来たおかげで、幾分か冷静になった。

 話を確認する。遭難中の出来事を愉快に語っているようだ。

 頭に内容が入ってくる。いいぞ。リリデスジャーキーも段々気にならなくなってきた。

 シルティ敗れたり。所詮この程度よ。小娘の付け焼刃に過ぎんかったという訳だ。




 ……冷静になった頭で、本来の仕事を思い出した。

 そうだ。私はカルラン教の確認をしにきた。

 彼女はいかに信仰を発展させ、世界構造を設定し、信者を増やそうとしているか。




 ビーフジャーキーなんぞ、どうでもいい。

 そうだ、大事なのはリリデスの思想如何だ。

 そいつを。そいつを確認――。











 

「ッ!!!?!?!?!?!!??」












 シルティ。嘘だろ。

 嘘だと言ってくれ。シルティ。

 こいつ。こいつ、シルティ。よく見たら。こいつ。

















 ジャーキーを。

 己の肩に――。















(んッくぅ~~~~~~ッッッ!!!)








 リリデスの肩に乗るジャーキーと。

 シルティの肩に乗るジャーキーが。




 揺れている。

 共振している。いやジャーキーは共振しない。

 共振しているのはシルティだ。リリデスの微細な動きに応じるよう、こいつも微かに揺れている。

 故にジャーキーも揺れ動く。同じように揺れ動く。




 鋭き観察眼。

 類まれな戦闘センス。

 それを今、こいつは。こいつはジャーキーの動きのために使っている。

 才能をこいつ。こいつ。シルティ。ジャーキーに。こいつ。






 ――悪魔に目を奪われるな。

 落ち着け。リリデスだけを見つめるのだ。

 そうだ、リリデス自身は肩にジャーキーを乗せているだけだ。

 「乗せているだけだ」て。やっぱおかしいだろ。乗せるな。乗せんじゃないよ肩に。

 肉は口に運ぶもんじゃろがい。肩に乗せるもんじゃないじゃろがい。

 んう~~~~~~ッ。






(いや、大丈夫……。リリデスだけだ。リリデスだけを……)






 明確に殺しにきているシルティとは違う。

 リリデスはただ乗せているだけだ。肉を。

 彼女はただ肉を揺らしているだけなのだ。もうそれだけでアレだが、きっと慣れる。

 リリデスだけを見ろ。彼女の干し肉だけを。そうすれば慣れる。慣れる。慣れ――。 









(ッ!!?!?!!?!!!?)











 リリデスジャーキーが。

 揺れに揺れし干し肉が。












 ――忽然と。

 ……消えた。










 ……馬鹿な。ありえん。

 落ちたようには、見えない。

 事実、どこにも落ちていない。





 シルティジャーキーに気を取られている内、なくなっている。

 何故だ。一体どこへ。どこへ行った干し肉。

 周囲を見渡し、ジャーキーを探……。










「ッッッ!????!!!?!?!!??」













 ジャーキーが。

 リリデスの右肩にあったジャーキーが。

















 ――左肩に。

















 ――混乱。

 ジャーキーは一人で移動するものだろうか。

 いや、しない。しかし移動している。

 肉がひとりでに、移動した。

 いかん、こいつぁいかんですぞ。シュール過ぎる。いかんんんん。




 いや待て。確実に犯人がいる。

 肉は自律行動せん。誰かが移動させた。間違いない。

 自我を持ちし肉。そんなの駄目だ面白すぎる。駄目だ。犯人は誰だ。




 リリデス本人は違う。肉に気付いていない。

 スティキュラもそうだ。彼も気付いていない。

 つーか気付けよ。お前は気付け肉に。対面してるんだから。肩ジャーキーだぞ。気付け。




 一体誰の犯行だ? 銀の悪魔? いや違う。肉と共に揺れている。揺れるな馬鹿。アホ。馬鹿。

 モジャか? しかしこの子とてずっと座っているだけだ。第一この二人、リリデスとは距離がある。手が届かん。

 なのに干し肉は移動した。何故だ。何が起きた。

 皆目わからん。しかし面白いのだけはわかっている。

 面白すぎる。駄目だいかんいかんいかん。





 ――何が起きたかは分からんが。

 ひとまず忘れる。ジャーキーが肩に乗っている、その状況が変わった訳ではない。

 犯人はいる。我が隙をついた、それだけだ。落ち着けブレトン。

 落ち着……。









(ッッッ!!?!?!?!!?!?!!??!)












 リリデス。

 リリデスの、肩。














 左肩に、ビーフジャーキー。

 右肩に、ビーフジャーキー。















 ――両肩に、肉。

















 いかんいかんいかんいかんいかんいかんぞ~~~。

 肉が分裂したぞ~~~。これはいかん奴だいかんぞ~~~。

 いや待て肉は分裂せん。分裂しないものが分裂している。

 どういうことだ~~~。なんでだ~~~~~~。












(ムゥッッ!!?!!???!?)








 モジャ。

 こいつの表情。

 微かではあるが、何かを成し遂げた顔をしている。

 ほとんど無表情だが、僅かに目が輝いた。

 長年の冒険者としての勘が、告げている。

 こいつが、犯人――。






 しかし何をしたのだ。さっぱりわからん。

 あの距離から肉を移動させ、あまつさえ増やし、気付かれず肩に乗せた? ありえぬ。

 マジシャンか? こいつらはマジシャンを雇ったのか? そんな余裕があるのか? でもマジシャンじゃんもう。

 思えば段々マジシャンに見えてきた。モジャ・ザ・マジシャンはジャーキーマジックがお上手ってか。

 なんだジャーキーマジックって。おいブレトン何を考えている自殺行為だ変な思考をやめろブレトンの馬鹿野郎おい馬鹿ブレトン。







「でよ。手紙を預かってきたんだが……」


「えっ!!?」






 リリデスが、大きく揺れた。

 両肩の干し肉も、大きく動く。







 ……シルティィィィィィ大きく揺れるなあああァァァァ。

 共振させるな肉ををををををををお。

 お前ええぇえぇえええええああ。







「……んんっ!! んっ!! んっ!!」






 たまらず咳払い。ごまかす。ごまかせ。ごまかした。

 リリデスは手紙を凝視している。振動する私には気付いていない。

 スティキュラも気付いていない。真面目な顔をしてエーリスが云々とか言っている。

 二人は至極真剣だ。面白すぎるだろ。真面目にしてんじゃないよ。ジャーキー乗っけてんだぞジャーキー。

 ジャーキー乗っけて真面目な顔すんな馬鹿。





 対してこいつら。シルティとモジャ。こいつらは本当に。こいつら。

 いや待て。そもそもリリデスだ。リリデスお前だろそもそも。肩にジャーキー乗せやがって貴様。

 どんな教育受けてきてんだ。干し肉を保存する時は肩に乗せましょうって教わったのか。いるかそんな親。

 そして執拗にこっちを殺しにきてんじゃないよシルティ。お前は本当になんなんだ本当に。

 御令嬢がいいのかそれで。いい訳ないだろシルティお前。お前ったらお前。家に帰れ馬鹿。




「……それで…………が…………っつー訳で……」



「では…………まさか………………まあ、そんな…………」




 何を話してるんだか最早さっぱり分からん。

 でも恐らくもう少し。もう少しだブレトン。

 頑張れ。頑張れ私。負けるな。勝つのだ。

 多分あと2,3話ぐらいだ。いける。いける。いける……。


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