4.ブレトンVSリリデス
「――いやあ、まさかお前までついてきてくれるとはよ、ブレトン」
「うむ。少々、リリデスに聞きたいことができた」
「一人じゃちょい不安だったからさ、マジありがてえよ!」
数日後。
彼女と約束を取り付け、二人で古巣の事務所へ。
外観は変わっていない。それもそうか、さほど時間も経っておらん。
「じゃ、早速入っか。……オーッスおまたせ! いやあ、久しぶりだなリリデス! 悪いな、時間作らせて……」
「! お待ちしておりましたスティキュラさん、ブレトンさん! お久しぶりです……!」
リリデス。
いつもの笑顔。いつもの調子で、出迎える。
優しき彼女。その裏で闇を抱えし、彼女。
「お久しぶりです。お二人共変わりない様で」
「おうシルティ! 元気なようで何よりだ。ちゃんと飯食えてっか?」
「まあ、なんとか」
シルティ。
相も変わらぬ無表情。
リリデスに付き従った時は随分と驚いたが。
……とはいえ分かる。彼女の優しさだったのだろう。
うまくコントロールしているようだが、果たして。
そして、もう一人。
「……君が噂の新人か。はじめましてブレトンだ。よろしく」
「俺ァスティキュラ。よろしくな嬢ちゃん!」
「あ。ど、どうも……ふへ……」
新人、モジャ。
随分と小柄だ。もしや未成年か?
体格からして、魔術師か斥候といったところか。
身軽そうではある。恐らく後者。
「では早速こちらへ。今お茶をご用意しますので……」
待つ間、部屋を見渡してみる。
見慣れた空間、と言いたい所だが、随分と様変わりしている。
巨大な蜂の巣が、三つ。棚に置かれた各種薬瓶。
なるほど、害虫駆除で糊口を凌いでいるとは聞いたが……。
他に目に留まるは、壁に飾られたあれやこれ。
四つん這いのリリデスが描かれた不可思議なスケッチ。
リリデスと思しき似顔絵が所狭しと描かれている地図。
謎のポイント数が記載された表。シルティptとはなんだ。
よくわからん。
「それで、お話というのは具体的にはどういう……」
「おう。いやあ、実はだな……」
スティキュラの話が始まる。
先日私に語った、一連の出来事。
姿勢を正し、耳を傾けるリリデス。
リリデス……。…………。
(……ん?)
違和感。
リリデスの姿に覚える、妙な感覚。
なにか、おかしい。
なにか……妙な雰囲気がある。
いつもとは違う……。なんだろう、少し変だ。
……いや、確かにいつもと変わらぬリリデスなのだが。
表情も、雰囲気も、別れる前と変わらぬ彼女。
ならばなんだろう。この違和感。
…………。
(……? あれは……)
……分かった。
リリデスの、肩だ。
彼女の右肩に、妙な「何か」がある。
右肩で、「何か」が揺れている。
装飾品だろうか、いやそうとも見えない。
変なものが、乗っかっている。
……何が揺れているんだ? 肩に……。
肩――。
――――――。
「…………」
リリデスの、肩。
右肩。揺れし物。
ビーフジャーキー。
ビーフジャーキーが、乗っている。
「………………」
干し肉が、右肩に。
肩に。ビーフジャーキー。
「……………………」
――リリデス。
ああ、リリデス。
貴様。所変わっても。ここにおいてさえも。
リリデス、こいつ。リリデス。リリデス。
「ん……? どうしたブレトン?」
「ブレトンさん? いかがいたしました?」
「……ッなん、でも、なひッ」
「? そうか」
隣のスティキュラ。
表情が少し、こわばっている。
緊張している。
眼前のリリデス。
落ち着いた表情で、聞いている。
真剣な表情で、スティキュラを見据えている。
しかして私の目に映るは。
肉だ。干し肉だ。ジャーキーだ。
肩に乗る、ビーフジャーキーだ。
「………………」
――時計。
会話開始から、まだ一分。
長い。長過ぎる。嘘だろ。まだ、一分。
「………………」
長い長い戦いが、始まった。




