表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/156

1.ブレトンのカルラン教講座①

 仕事を終え、帰らんとしていた時。

 スティキュラから飲みの誘いがあった。

 妻子が待っているからと断る。



 では次の日はどうか、じゃあ三日後は、一週間後は。

 とかく私と一対一で飲みたいらしい。

 切羽詰まった表情。何か頼み事があるようだ。

 妻子が待っているからと断る。




 翌日、彼は『ポワロ』のケーキを携えやってきた。

 贈り物までよこすとは。ありがたくいただく。

 妻子が待っているからと断る。



 翌々日。またもケーキを携えやってきた。

 今回はアエラの眼前でそいつをよこしてきた。

 ――殺気。戦慄のギルド内。冷や汗が背を伝う。

 命は惜しい。予定を作ってやる。






「――いやあ悪いなブレトン! お前と話したいことあってよ!」


「意外と策士な奴……」


「まあまあまあまあ! とりあえず飲もうぜ、へへへ!」


「飲むのは構わんが早く本題を話せ。何か頼み事があるのだろう」


「んじゃ早速なんだが……。あのさ、ちょいと宗教について教えてほしくてよ」


「……宗教? 筋肉信者のお前がどうしたことだ。なんのための筋肉だ」


「筋肉差別やめろや。いや、実はだな。ちょっとリリデスに会いに行こうと思ってんだけどさ……」


「……本当にどうしたのだ? とうとうカルランマンとしての自我に目覚めたのか? おめでとうカルランマン」


「アレを思い出させるんじゃねえよ! まあ、ちと長くなるんだが……」




 丁寧に事情を説明される。 

 遭難、保護、リリデスの家族、友人の話。

 そしてリリデスの過去。

 いやはやなんとも……。




「随分帰りが遅いと思ったら。なるほど、そんなことが……」


「帰っても誰も何も言わねえからマジ驚いたんだけど。心配しろよ少しは……」


「お前なら死にはせんだろ。信頼だ」


「物は言いようだな……。まあとにかく、あいつに会う前にさ。色々勉強しとこうかなぁ~って。……なんか長い付き合いになりそうな気がしてな」


「ふむ。……」


「ほら、お前そういうの詳しいじゃん? それにリリデスにあれこれ聞いてただろ? 『例の一件』以降さ」


「本人に聞くしか調べようがなかったからな。……興味深かったよ」


「まあそういう訳でよ、ちょっとエピクルやらカルランやら教えてくれっと助かるんだが」


「そいつはいいが……。具体的には何が聞きたい?」


「ああ、んじゃまずさ……。キミエラと喋ってから気になってたことなんだけども……。エピクル教って『存在』? を……崇める? 感じなんだよな?」


「『存在崇敬』だな。エピクル教における最も基本的かつ重要な教義だ。古くは前身であるユピクテス教におけるドグマの……」


「いや歴史講義はやめてくれ……。……えっとさ、キミエラは小石を眺めながら存在云々を語ってたんだけどよ。……そんなのも崇めちゃうの?」


「基本はそうだが、『存在』にも階級はある。『神』を頂点とし、神界、自然法則界、生命界、物質界……と続いていく。『界』の中でも人間は上位、植物は下位等々、詳細な序列がある。宗派によって多少の違いはあるがな」


「あ、やっぱ生きてる方が偉いんか」


「そうだな。故に『生』を脅かし、『死』を招くような『存在』に関しては、崇める対象でありながらも忌避すべきものとなる。優先順位はある訳だ」


「ふーん……。それに対してカルラン……っつーか、リリデスはどう考えてんだ? 死だの虚無だの言ってっけども、いまいちわからんというか……。カルランには神様とかはいねえの? 何が一番偉いの?」


「……カルラン教の世界観か? 一応、あるにはあるんだが……」


「一応? なんだ一応って」


「少し面倒な話に……。いや、むしろ良い機会か」


「?」


「……よし分かった。私がお前を、立派なカルランマンにしてやる」


「それはやめて」




 「長い付き合いになりそう」。

 そう思うスティキュラにとってみれば、「リリデス」を知る上で最適な話題かもしれん。

 恐らく、私だけが知っている彼女の一面。それを理解する、これ以上ない導入に。

 …………。




「……簡単に言うと。カルラン教に神はおらず、代わりに『虚無』を……まあ、一応は崇める、といったものだな」


「エピクル教みたいに『存在』を崇めたりとかってのは無いの? 虚無だけ?」


「カルラン教においては、基本的に『存在』自体が無いと考える。例外を除いて、全てが『影』だ」


「影?」


「そういう比喩を使っていた。……我らをとりまく『存在』に見えるものは、全て実体のない『影』に過ぎない、と。我々自身すら、だ。目に見える一切はかりそめ、という見方だな」


「また訳のわからんことを……」


「いや。この手の世界解釈は古来からある類型の一つでな、珍しいものではない。……ところでスティキュラ、影はどうやってできる?」


「え? ……こ、こう……光の持つ……ナントカ線が……物質へ……作用……?」


「いやそういう事ではなく。……影があるなら、それに先立つ『物』がなければならないだろう? 影とは、光が『物』に遮られて生じるものだからな。ならば『影』を生み出している『物』=『存在』はあるはずだ。……このタイプの世界観では、大抵この『存在』を唯一なる本質とし、崇める方向へ向かうパターンが多い」


「お、おお? おお……」


「実体なき『影』ばかりの世界にも、唯一たる『存在』はある、ということだ。ここまでは大丈夫か?」


「うーん。まあ、なんとなく……」


「カルラン教においては、その唯一存在が『虚無』という訳だ」


「……ん? 存在……なのに虚無なの? あれ? 虚無ってそもそも『何も無い』って意味じゃねえの? それって在るの? 無いの?」


「お前の疑問も最もだ。いわばこういう主張だからな。唯一存在=『在る』ところの虚無=『無い』ものが、影=『無い』ものを生み出している、と」


「? 待て待て、意味わからんぞ……。だから在るのか無いのどっちなんだそれ……? ……結局世界にはなんにもない、っつーこと? 無いが無いものを生んでんの?」


「それが違う。カルラン教において『虚無』はちゃんと存在として『在る』と言うのだ。……そしてあろうことか、『影』も『無いけど、在ると考えて構わない』などと妙なことを言い出した」


「……なるほどなァ」


「わかったのかすごいな。私には何一つわからんかったぞ」


「よかった~~~! わかんね~~~!! 最高~~~!!!」


「落ち着け。……まず『影』についてだ。我々を取り巻く一切は『影』であり、かりそめに過ぎぬが……それらを『存在』として認識して生きている我々にとってみれば、一概に否定するものではない、と。『在るもの』と思って差し支えない、と主張する」


「そうか。ところでこの魚うめえな」


「……休憩するか」


「乾杯~~~~~~!」




 こいつ反応は正しい。分からないで当然なのだ。

 だがリリデスを知るには、この宗教の不明瞭さを理解せねばならん。


 私も尽力せねばなるまい。

 これらを知るは、カルランマンとして生まれしこいつの宿命――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ