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「宗教勧誘しただけなのに追放されそうです……」  作者: 頭いたお
7章 スティキュラ、迷子になる
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10.スティキュラ、おうちに帰る

「――エーリスは強いな。……そうは思わないか、スティキュラ殿」



 帰り道。

 キミエラが感心したように呟いた。

 そうだな、と返す。うむ、といつもの返事。



「ま、単純なだけかもしんねえけどな」


「単純さこそ強さだ。エーリスはそれを持っている。まっすぐな強さが、ある」


「俺も見習うか~」


「……。…………スティキュラ殿は」


「ん?」


「スティキュラ殿は……リリデスが信仰を取り戻すと……本気で考えているか?」


「……」



 少し言い辛そうに。苦しそうな声で。

 しかしはっきりと、聞いてきた。




「……まあ、正直なこと言やあ……。難しいんじゃねえかとは思うが……」


「……そうか」



 一応、俺等は俺等で散々あれこれやった訳で。

 無論、こいつらもあれこれやった結果が今であろう訳で。

 現状、厳しいとは思うが……。



「でもよォ……。絶対無理って訳でも……ないんじゃねえかな~? って……。ほら、あいつ。基本はめっちゃ優しいじゃん? そういう所につけ込んだり……」


「……情を利用する、という訳か?」


「いや、まあ……。なんかすげえ悪い言い方になっちまってるけど……」


「……私は、それでもやはり無理だと……そう思う」


「そ、そうか……」


「だが、貴殿が言うように……可能性はゼロではない。それに……。……少し期待してしまっている」


「……」


「……あの頃が。……あの楽しく、幸福だった日々がまた、戻ってくるんじゃないかと……。あの日々が……。…………」


「…………」


「……すまない。貴殿に何かを負わせるつもりはないんだが」


「いや、いいよ。気にすんな」


「うむ……」



 「楽しく、幸福だった日々」。

 確かにそう言った。噛みしめるように。

 こいつにとって、リリデスとの日常は……。

 ……。




「……なあ。よけりゃあ教えてくんねえかな。リリデスに何があったか。嫌ならいいけどさ……」


「……。話すと、長くなる」


「いいよ、教えてくれよ」


「……。我々は修道院で知り合い、親友になった。その後二人で聖徒守護騎士になった。しかしリリデスは狂った……」


「……」


「……」


「……。以上だが……」


「クッソ短けェな!? 長くなるっつったんなら長く話せよ!!?」


「口下手ですまない……。ええと、どう話したものか……。ううむ……」


「一つ一つ聞いてくか……。ええと、まず……。お前も修道院にいたの? なんでまた……」


「……うむ。すぐにでも聖徒守護騎士になりたかったのだが、聖典の理解が未熟と指摘され……。そこで修道院へと入れられ、勉学に努める羽目になってな。日々のお務めを果たしながら、神学を徹底的に学んだ」


「ふーん……。そこでリリデスに会った、と」


「リリデスは社会奉仕を志していた。そのうえ神学に深く通じ、日々勉学を怠らぬ勤勉な人間だった。……よくあれこれと教えてもらった。そこで友情を育んでな。ここへと足を運ぶようになったのもこの時からだ」


「へえ……。あいつ、変な奴だけどちゃんとしてたのな」


「何を言う、神学に関しては相当なレベルだったぞ。本当に敬虔かつ熱心な信徒だったのだ。神を敬い、生命を慈しみ……。親友ながら、私の理想そのものであった」


「そんなにかァ……」


「ああ……。『聖者』とはこういうものか、と思うような……。……本当に、本当に尊敬していたのだ……彼女を……」


「……そっからなんであいつ、騎士団なんかに入ったんだよ」


「色々あったのだが、要はリリデスの異常な戦闘力が判明してな。そうなれば放っておかんさ。いわばスカウトだ」


「凄えじゃん。……いや、当たり前っちゃ当たり前か。アイツだもんなあ」


「随分と迷っていたようだが、周囲から説得されてな。結局は共に入団したのだ。……心の底から嬉しかった。彼女と共に、騎士として闘えるのだ。本当に、本当に喜んだ。しかし……」


「……何があったんだ」


「…………」





 沈黙。

 数秒経って、言葉を紡ぐ。 





「……見たくないものを、たくさん見た。私も、リリデスも」


「……どういうことだ」


「我々の任務のひとつに『紛争の鎮静化』がある。……戦闘地帯へ赴き、事態の解決をはかるのだ」


「紛争……」


「信仰の光をもって臨むが、事は容易ではない。大抵、己等の無力を思い知る羽目で終わる。辛い、辛い任務だ」


「……だろうな」


「……特に民族間対立となると厄介だ。殺人が手段ではなく、目的となる。虐殺のための虐殺が行われる、そういう世界だ。……地獄と言っていい」


「……」


「お互い、惨憺たる現場を見た。リリデスはその時からおかしくなった。目に見えて精神に不調をきたしはじめたのだ。……任務から外されても調子は戻らず、日々の基本的な活動すら放棄するようになり……。いつしか資料庫へ引きこもるようなった。なんとか励まそうとしたが……。私とて苦しく、不安定な時期だった。……空虚な言葉しか、出せなかった」


「…………」


「……恐らくそこで、彼女はカルラン教に触れた。神の恩寵ではなく……悪しき邪教に……」


「カルラン、か……」


「衝撃だった。誰よりも神を愛し、敬虔な信徒だったリリデスが……あろうことか、神を罵り始めたのだ。神を否定し、生を否定し、我々を否定し……。今まで共有していた価値観の一切を、否定しはじめた……」


「……」


「神学に通じている彼女だからこそ、舌鋒は鋭かった。しかし団内でそんな行為、許されるはずもない。彼女はとうとう、粛清対象となった」


「粛清って……」


「粛清。聞いて呆れる。教会最強……いや、大陸最強すら自負していた組織の……誰一人として、彼女に敵わなかったのだからな。歩いて出ていかんとする無抵抗のリリデスを、誰も止められなかったのだ……」


「……お前らでも駄目だったのか」


「……屈辱だった。それに加え、最愛の親友を失った悲しみ、信仰を否定されたことへの怒り。混交した感情の処理が、出来なかった。今でもそうだ。彼女のことを考えると、頭が変になりそうだ……。心が……。……っ」


「……」




 前を歩くキミエラ、顔は見えない。

 だが声は、ただただ苦しそうで。




「……こんな所だな。リリデスの発狂と、我々の関係は」


「……悪いな。つれえこと喋らせちまってさ……」


「いや、構わん。……。……スティキュラ殿。妙なことを言うかもしれんが」


「なんだ?」


「もしリリデスの信仰が戻らぬ場合。私とリリデスは……。我々は…………」


「おう」


「いずれ殺し合うものと。そう思っている」









「……は?」


「いつになるかは分からんが、いずれそういう日がくるのではないかと。いや、きっとそうなるだろう」


「……おいおいおいおいおい!? なんか話が飛躍してね!?」


「……私は神の教えを守る者だ。リリデスは神の教えを破壊する者。なれば、いずれは衝突するだろう。……いや、本来はもう事を起こして然るべきなのだろうが……」


「いやいやいやいや!? いきなりなんだよ、怖えよ!」


「恐らく、スティキュラ殿が考えているよりも私は苛烈だ。特に信仰に関して妥協はしない。リリデスが今後も神を罵り続けるというのなら、元親友として『決着』はつけねばならん。……もうあの頃の私ではない。私の手で、引導を……」


「いやいや、つってもさ……。本心から殺してえ訳じゃないだろ……?」


「本心から殺したいし、本心から殺したくない。相反した気持ちが、私の中にある。だからこそエーリスの試みに期待しているのだ。藁にもすがるようにな」


「……」



 やっぱりわかんねえ。

 リリデスが分からんのは言うまでもないことだが。

 キミエラ、こいつも理解できない。なんでそういう発想になるのか……。

 信仰ってのがなんなのか、どうしても……。



「……ぶっちゃけさ。俺、信仰心っつーものがねえんだけど……」


「……そうか」


「いや、悪いとは思うんだが……。お前の言うことがさっぱりわかんねえんだよ……。本心から神に祈ったことだってねえしさ……」


「……。スティキュラ殿は、この世界をどう視ている?」


「? どうって……」


「神秘を感じはしないか? 驚きをもって世界を観ることはないか?」


「神秘? ……え、何に? 魔法とか?」


「魔法だとか、奇跡だとか、そういうことじゃない。世界は既に神秘なのだ。……『在ること自体』が、驚くべき神秘なのだ」


「ん……?」


「何故、この世界に事物は存在する? 各種の法則がある? ……果てのない闇が広がり、何も動かぬ……静止した世界でよかったはずだ。いや、そちらの方が『自然』ではないか。しかし、そうはならなかった。世界には事物が『在り』、法則が『在り』……。絶えず動き、明滅し、生命すら生じ、こうして豊かに『在る』……。何故だ? 何故だと思う?」


「え? え?」


「……誰が『在る』ようにしたのだ? 『在らず』でよかったはずの世界には、誰にも否定出来ぬ『存在』が鎮座している。……誰がそこに『在る』を置いたのだ? この、圧倒的な現実感を伴う『在る』の数々は……。一体誰が……?」


「え、えっと……? ……か、神様……?」


「そうだ。我々の信仰では、そう考える。造物主である神が、『在る』を描いた。何も無くてよかったはずの闇の中に、『存在』の星々をちりばめた。我々はその星の一つなのだ」


「……」


「眼前の小石に……。このなんでもない小石に、限りなき神秘と、愛を感じた時。私の真の信仰は始まった。心から、神に祈りを捧げた。……祈りとは敬意なのだ」


「お、おう……?」


「端的に言おう。我らの教えは『存在崇敬』だ。『在ること』に対しての果てなき肯定なのだ。この小石ひとつとってみても、在ることが神秘であり、驚嘆すべきことであり、歓びなのだ。存在とは歓喜そのものだ」


「……お、おお、ううーん」


「『存在』はそれ自体が『意味』であり、『価値』であり……故に『美しい』。分かるかスティキュラ殿。……この世は、とかく美しい」


「……」



 分かるような分からんような。

 いや正直分からんが、まあいい。

 あとでブレトンあたりに聞くんで、ひとまずいい。



 分からんが、ひとつ気付いた。

 こいつの言う、存在の肯定。

 それに対しリリデスは。確かあいつ……。



「あいつは……。虚無……」


「……分かるだろう。決して相容れぬということが」


「……」


「……」


「……まあ、リリデスはさておき……。なんつーか……。まだ俺ァ、祈れるようになるには時間かかりそうだぜ」


「かまわんさ。……だが今の話、たまには思い出してほしい」


「……たまにはな」




 俺にとっちゃあ、小石は絶えず、ただの小石だが。

 こいつに驚けるようになった時……。

 そん時には、神にひざまずくことになるのかね。




「ま、いずれは俺も祈るかもな、神様によ」


「期待しているぞ、スティキュラ殿」


「されてもなァ……」




 ――リリデスとキミエラ。

 カルラン教にエピクル教。

 そして妙な対立に巻き込まれつつある俺。



 どうも面倒だが、しかたねえ。

 これも縁だ、出来る限り見届けてやろうじゃねえか。

 何より、ガキがこんな対立で損するのはよくねえしな。



 ……なんだかんだで「保護」してもらったしな。

 今度は俺が保護してやんねえとな。妙な諍いからよ。



 万が一、神様に祈る時があんなら。

 あいつの将来を想って、祈ってやるかね。

 何より将来不安な奴だしな。あのガキ――。












































「――で」


「……うむ」


「遭難してる訳だが」


「話に……集中しすぎて……」







 たすけて神様。







7章 スティキュラ、迷子になる ~終~


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