8.スティキュラ、眠れなくなる
「目が冴えちまったなァ……」
遭難中はひどく疲れてたっつーのに。
リリデスのことで完全に眠れなくなっちまった。
リリデスか。リリデス……。
「……」
リリデスとの思い出が、興奮した頭を駆け巡る。
……最初にした会話はなんだったっけ。
お互いの身長についてだったかな。あいつ、自称では190cmっつってたけど。
やけに目が泳いだのは覚えてる。絶対サバ読んでたなアレ。見た感じもっとあるぞ多分。
自分よりでかい人間がいるっつーんで、やけに嬉しそうだった。俺も満更ではなかったな、あの時は。
あとは……。戦闘については意見交換したな。ただ力任せに突撃する俺とは違った。
間合いの意識だとか、視線からの行動予測だとか……。俺と違って馬鹿じゃあなかった。
普段は抜けてるんだがな。いや戦闘中も抜けてる時あったけど。
野鳥に目を奪われて攻撃喰らってた時あったな。やっぱ馬鹿かも。
そういやあいつ、いつも武器壊してたな。何持たせてもぶっ壊して帰ってきやがった。
見兼ねたマスターが、貴重なアダマンを使ってハンマーを造ってやった。
投資っつーことだったが、ありゃ大成功だった。
一振りでどんな敵も粉々に破壊していった。
そっからのギルド快進撃は凄まじかった。
あいつが一人いりゃあ、どんなモンスターだって倒せるんだからな。
本当になんでも、だ。ドラゴンなんざほぼアイツが狩り尽くしたんじゃなかろうか。
全てがうまく、回ってた。
……おかしくなったのは、いつ頃だったか。
いや、最初からだったんだろうけどな。そうだよあいつ、最初っから布教はしてた。
みんなやんわりと、大人の対応で避けて、関係を築いてた。
「……。俺達の問題、かもなァ……」
変わったのはおそらく、俺達の認識なんだろう。
賊討伐の……。あの「虐殺」からだ。
あいつのことが怖くなって。「カルラン教」も判明して。
恐ろしさで、今までの関係を築けなくなっちまったんだな。
俺達にとっちゃ、出会った時からずっと「リリデス」だった訳で。
その点、あいつはブレてねえ。ブレたのは俺達だ。
恐怖で、ブレた。
エーリス達は、違う。
あいつらにとっちゃ、別の「リリデス」がいた。
俺達の知らねえ「リリデス」と、ずっと接してきたはずだ。
邪教徒じゃない、エピクル教の信徒だった「リリデス」と、ずっと。
それが一変しちまった時。
どんな気持ちだったんだろうな。
どれほどの衝撃と……悲しさで……。
…………。
「いかん……。あんまり考えんな俺……。考えるな……。寝ろ……寝る……」
……寝れない時は筋肉が緊張しているもんだ。
意識しながら徐々に脱力させる。これが一番。
そうら、眠くなってきた。寝る。寝るぞ。寝る……。
「スティキュラ~……」
「どわあッ!!?」
エーリス。
いつの間にかベッド脇にいやがる。
「てめぇ、いつの間に部屋に……」
「チンコ見にきたんだけど……♥」
「かえって……」
「うそうそ。眠れなくなっちゃって……。ちょっとおはなししたいなって……」
「ん……。……そうだな。俺もそんな気分だ……」
明らかに元気がねえ。
こいつ場合、それでちょうどいい感じではあるが。
うーん……。
「……。スティキュラはさぁ~……。リリちゃんのこと、嫌い?」
「なんだいきなり……」
「ギルド分裂しちゃったんでしょ? やっぱり恨んでる?」
「……。嫌い、っつー感じじゃないな、うん。嫌いじゃあねえよ。恨んでもねえし……」
「ほんと!? よかった~! リリちゃん、嫌われてるのかな、って思って……」
「……」
「嫌いじゃないけど、怖い」
そう言いかけたが、飲み込んだ。
こいつは、賊討伐の……。「例の件」の詳細は知らんはずだ。
あの時の「リリデス」は……。少なくともエーリスは知るべきじゃあない。
「……あいつにゃ仲間がいるから大丈夫だよ。信頼のおける奴だ。……メンバーも増やしてるみてえだし、うまくやってるさ」
「うんうん。リリちゃんはみんなから好かれてたからさ! やっぱり人も集まっちゃうよね~!」
「……お前はリリデスのこと、大好きなんだなァ」
「あったりまえじゃん! リリちゃんのこと嫌いになる人なんていないよ! みんなと仲良くなっちゃう、スッゲー人なんだから!」
「確かになあ。あいつ、普段は人当たりはすごく良いもんな。朗らかでさ」
「一度マタンゴとも仲良くなってさ……。でもそこは人と魔物……。悲しき別れの物語が……。あ、やばっ、泣きそう……」
「だからマタンゴって何なんだよ」
「とにかく人だろうが魔物だろうが、本当はみんなから愛される人なの! スティキュラも知ってるでしょ!?」
「まあ……そうだな。妙な信仰さえなけりゃあなあ……」
「……どうすればいいのかなあ。ママと仲直りしてほしいんだけどさ……。キミちゃんとも……。またみんなで遊びたいよ……」
「どうにかっつったってな……。そりゃ……」
なんとかしてやりたい。
が、なんともならん気がする。
もし、仮に、万が一、なんとかなるっつーんなら……。
「あいつが……。エピクル教の信者に戻るしかねえんじゃねえか……?」
「……そうだね」
「おう……」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……そうじゃん」
「……ん?」
「……そうだよッ!! それしかないじゃんッ!!?」
「うおッ!?」
消沈してた意気が、突然ブチ上がる。
ベッドの上へ、興奮した面持ちで立ちあがるエーリス。
俺のチンコ踏んでんだけど。痛いんだけど。
しかしそれにすら気付いてねえ。超痛いんだけど。
「そうだよスティキュラ! リリちゃんがまた信仰取り戻せば!! 全部解決じゃんッ!? 簡単じゃんッ!!」
「……いや、そりゃそうだけど。それが無理っぽいからこうして……」
「あたし、まだなんにもやってない!」
「え?」
「リリちゃんにまだ何にも言えてない! そうだよ、言えばいいんじゃん! 『信仰取り戻して!』って! 何回も何回も、リリちゃんが元に戻るまで言えばいいんじゃんッ!?」
「ええ……?」
「ママが悲しい顔するから、リリちゃんのこと話すの避けてたけど……! もうやめるッ! リリちゃんを……あたしが取り戻すッ!!」
「お、おお……?」
「こうしちゃいられねえッ! ありがとスティキュラ! また明日ねッ! おやすみ!!」
「……」
自己解決して、エーリスは勢いよく出ていく。
単純というか……。
「……ま、元気になったんならいいかァ」
ガキはうるせぇぐらい元気な方がいい。
そっちの方が、俺も寝やすいや。




