8.リリデス対策会議①
「どうするんだよリリデスの奴……。絶対諦めてねえぞ」
異端の来訪者をどうするか。幹部による緊急会議が開かれた。
彼女は明日もやってくるであろう、そのまた明日も、明日も、明日も。
想像外からやってくる絡め手の数々に、我々の劣勢は隠しようもなかった。
「参りましたわね、まさかあれほどしつこいとは思いませんでしたわ……。本当に連日疲れますこと……」
「そうですね……。僕としてもちょっと、こう……ふ、ふふ……ぐふ……っ」
「うむ……。……ッ」
満身創痍。暴腕は球となり、七色は朝からカロリーオーバー。
狩人の思い出し笑いは深刻で、質実の頭脳は耐えざるを得ない記憶のため働いていない。
なんだか随分愉快な満身創痍であったが、実のところ笑い事ではない。
彼女をこのままとどまらせるということは、我々の身の危険に他ならない。
異端者リリデスとともに、皆が罪人として処される可能性を孕み続けていた。
「まあマスターが居ないことには決められねえけども……俺たちの手に負えないようじゃ、もう自警団か衛兵あたりに話すっつーのも……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! そんなことしたらリリデスさん、よくて終身刑ですわよ!」
彼女の信仰するカルラン教。ブレトンの調べによると、どうも冗談では済まないレベルの邪教らしい。
二百年も昔、信者のほとんどは処刑され、その教義は途絶えた。名を知るものなどほとんどいない。
彼女がどのようにその教えを発見したかは分からないが、もし当局に発覚しようものなら、一生陽の目は見れまい。
「そ、そうか……そこまでは俺も……」
「確執があるとて、我ら全員そこまでは望んではいまい。もっと別の方面を探るべきだ。慎重に」
「……すまん」
誰もがリリデスの心配をしていた、それだけは間違いなかった。
曲がりなりにも今まで苦楽を共にしたメンバー、確かな情がある。
それどころか我らギルドの覇権を、一時的とはいえ成し遂げさせた立役者でもある。
だからこそ彼女を最低限守らんと、全員がリリデスの信仰を周囲から隠そうとしている。今までも、これからも。
「まあ、万が一にもリリデスさんが追われるようなことになれば、その……。あはは、あは……。……」
「……うむ、血の海となろう」
「……賊討伐の件が思い出されますわね」
そして心配するのと同程度に……いや、それ以上に暴力と思想を恐れていた。
それらが発揮された時の戦慄を、誰もが身に沁みて覚えていた。
彼女は、たくさんの人を殺せた。
実際に殺してみせたことがあった、優しさの中で。
「あの一件は思い出したくねえなあ……」
「それはわたくしもですけど……慎重を期すためにも、今一度思い出しておくべきかもしれませんわ」
「……ちょっと気分悪くなってきましたよ、僕」
「異常、であったな」
「……」
「ところでシルティさんはどうお思いですの? 今後の方針というか…」
「……少なくとも、一度しっかりと話し合ってみる必要はあるでしょうね。明日にでも声をかけてみます」
「大丈夫かよシルティ、一人で」
「……できれば他の方も来て頂ければ幸いですが」
幸いなれと有志を募る。
全員顔をそむけた。
幸いなれ私。