7.スティキュラ、リリデスを知る
「――ではスティキュラさんはただの元同僚で……。カルランの信徒ではない、と……?」
「お、おう……。そこは安心してくれ……。本当に違うから……」
「ああ、良かった……! 神よ、ありがとうございます……ありがとうございます……!」
――全員をなだめながら、これまでの経緯を話した。
ギルドへの加入、迎える隆盛、そっからの凋落、そして分裂のこと。
思えば振り回されっぱなしだったな。良い時も悪い時も……。
「……『とある盗賊団』の討伐に参加した、ということは噂で聞いておりましたが……。まさか冒険者としてだったとは……。それで、あの子……」
「はい! 次あたし! あたしッ! リリちゃんは今なにしてんの!? ギルド分裂しちゃったんでしょ!? 一人っきりでやってるの!?」
「いや、一人だけリリデスについていってな……。今は三人でギルドやってるらしいが……」
「じゃあ一人ぼっちじゃないんだ!? ああ、よかったぁリリちゃん……」
「……!? ではその……!? もしや、そのギルドはカルランの……!?」
「そこも大丈夫だと思うぞ、ついてった奴がうまくコントロールしてるし……。リリデス本人も相当反省してたし……」
「リリちゃんが布教を反省!? すげぇ!? マジ!?」
「あの頑固な子が信仰において反省を……!? 信じられません……!」
「なんか俺達より苦労した感じの反応ゥ……! まあ、ギルド分裂させたのが大分堪えたんだろ……」
「おお神よ、ありがとうございます……! まだあの子に、己を顧みる余地を残してくださったこと……! おお……!」
「……」
……ママさんとエーリスの興奮の陰で。
さっきまで怒りに昂っていたキミエラが、一言も喋らん。
落ち着いてはいるようだが……。
「……ああ、その、なんだ。俺からもいくつか質問したいんだが……。あいつ、ここの出身っつーことでいいんだよな……?」
「あの子は、私がここへ来た時に受け持った子の一人です。赤ん坊の時から、ずっとずっとお世話をしてきた……大切な子供でした……。エーリスにとっても大切なお姉さんで……。この子が物心ついた時から、よく一緒に……」
「あたしが、もっとちっちゃかった時から……。いろんな遊び、教えてもらったんだ……」
「そうかァ……」
「狂った野犬の形態模写とか……発情した猫の鳴き真似とか……」
「ろくでもねぇ……」
「今にして思えば……。リリデス、あの子もよく……」
「ん?」
「毒キノコ集めてたなって……」
「モロに悪影響与えてんじゃねえか!!? その時点でやめさせろよ!?」
「とびきりの笑顔で『毒キノコかわいい!』って言うものですから……やめさせるのも忍びなく……」
「ネズミ咥えてくる猫じゃねえんだから……」
「毒キノコはかわいいが???」
「ほら見ろめっちゃ影響受けてる……! 奇天烈な趣味継がせるなよ……!」
「それほどこの子にとっては影響力のある……大切なお姉さんだったという訳です……」
「そ、そうか……。ところでそのリリデスだが……やっぱりここでも……?」
「ご想像どおり……。あの子、久しぶりに顔を見せたと思いましたら、真っ黒に染め上げた修道服でやってきて……。神の教えを否定し、あまつさえカルランなる邪教について滔々と……。子供たちにまで……っ!」
「もうね、ママと大喧嘩しちゃって……。最後はふたりとも泣きながら別れて……。あたし、どうしていいかわかんなくって……」
「あいつ、なんつー事を……」
「……自慢の子でした。本当に、本当に……誰よりも優しくて、明るくて、穏やかで……。神の教えをよく理解し、実践する……。本当に、本当に素晴らしい子で……っ。その子が、まさかこんなことになるなんて……」
「あれ以来、リリちゃん来なくなっちゃった……。……また遊びたいよ、あたし……」
顔を覆うママさん。うつむくエーリス。
かける言葉もねぇ、あんまりだ。
「……あー、なんだ。あいつ確か……修道院にいたんだっけ? っつーことは、そこでおかしくなったってことなのか?」
「違う」
「え」
黙していたキミエラが、声をあげる。
「修道院にはいたが、そこじゃあない。リリデスがおかしくなったのは」
「そういやお前、ここの出身じゃないんだよな……? リリデスとはどんな関係なんだ……?」
「リリデスは、元『聖徒守護騎士』だ。そこで彼女は、狂った」
「……え?」
「止められなかった。持てる全てを尽くしたが、彼女は……邪悪に堕した……」
「ちょっと……。それ詳しく……」
「……。すまない、今日はもう寝させてくれ。なんだか……疲れてしまった」
「……。そ、そうか」
長い睫毛の下。
力強かったはずの眼力が、弱々しく見えた。
話は聞きたかったが、そういう訳にもいかず……。
「では、おやすみ……」
「キミちゃん……」
「……なんだ」
「歯磨かなきゃ……」
「……そうだな。お口チェックしてもらわねばならなかったな……」
「お前がしてもらうのか……」
お口チェックを済ませ、早々に部屋へひきあげたキミエラ。
会話を続ける雰囲気でもなくなって、全員さっさと寝ることになった。
歩き回って疲れた体を、ベッドに沈める。
眠れねえ。




