6.スティキュラ、ご飯を食べる
「――さあ、ご飯ができましたよ! お腹いっぱい食べてくださいね! デザートもありますよ!」
「おお!?」
支度が出来たというので部屋に通されてみると。
大きな鍋にいっぱいのシチュー。
山盛りに積まれたパン、鶏がまるごと二羽。
色とりどりの野菜が盛られたサラダにチーズ、果物数種。
極め付きにはプリンまで。
「ずいぶん豪勢ッスね……!」
「キミエラさんが来る日はたっくさん用意してるんです。グッドタイミングでしたねスティキュラさん!」
「いっぱい食べるもんねキミちゃん!」
「ミューゼ殿の料理は絶品だ。いくらでも食べられる」
「いやーマジでめっちゃうまそう! ありがてぇッス!」
「皆さん席につきましたね? では……」
「うっし! じゃ、遠慮なく……」
と、手を伸ばそうとしたら。
さっきまでの賑やかな……というか、うるっっせえ声がピタリと止んだ。
エーリス、キミエラ、ママさん。三人が手を合わせ、目を閉じた。
……祈りだ。
「……っ」
いきなり厳かな空気になったので面食らう。
そうか、教会運営の孤児院っつってたな。
冒険者なんぞ信仰薄い奴らの集団だからな。こういう空気は慣れん。
しかし何より、エーリスに驚いた。
こいつがこんなに静かになるんだから、神様ってのはすげえ。
実はふざけたりするんじゃねえかと見てたが、そんな素振りもなく。
大人しく祈りを捧げている。
流石に俺だけ無視して飯を食う訳にもいかん。
伸ばした手を引っ込め、見様見真似で祈ってみる。
祈るってどうやりゃいいのか分からんが……。
……。
そういや、あいつも飯前なんかは祈ってたっけ……。
「……さあ! 皆さん食べましょう!」
「っしゃあ宴じゃあ! 食えスティキュラ! 皿まで食え!!」
「お、おお」
そしてまた始まる騒音。ガツガツ食い出すエーリス。
こっちの方が好きだな俺。負けじとガツガツ食う。超うめえ。
キミエラは姿勢正しく静かに、しかし淀みなくモリモリ食う。
ママさんは食う俺達をにこやかに眺める。それはもう幸せそうに。
いいよなあ、こういうの。
「……ところでスティキュラさん。よろしければ冒険者のお話を聞かせていただけませんか? 我々には大変珍しいものですから……」
「ん? 珍しいって……。あんたマスターの知り合いじゃねえの? 依頼よこしたんだろ?」
「いえ、教会を通して間接的に頼んでおりまして……。どなたが引き受けてくださるかも分からないんですよ。直接会うこともありませんし……」
「あ、そういう訳ね」
「あたしも興味ある! 冒険者って超楽しそうだよね! スティキュラはなんつー……ギルド? にいんの?」
「俺は『昼のランプ』っつーギルド所属でな。まあ、なんだ、色々あったんだが……結構有名な所なんだぜ。俺ぁそこの幹部の一人」
「幹部!? スティキュラやるじゃん! 迷子になって絶叫しながら泣いてた癖に!」
「泣いてませェーん。涙目になってただけでェーッす」
「スティキュラ殿はどういう闘い方をするんだ? 冒険者の戦術は寡聞にして知らず。参考までに教えてくれると有り難い」
「いやあ。俺の場合、ただ敵に突っ込んで殴る蹴るしか能がねえからよ。その間、仲間が確実に仕留めてくれんだ」
「撹乱を兼ねた特攻役という訳か。勇ましいな」
「ねえねえ! どんなモンスター倒すの!? マタンゴと戦ったことある!? マタンゴの話聞かせて!! あたしマタンゴだいすきなの!!」
「マタンゴってなにそれしらん……」
「え……マタンゴも知らないのに冒険者やってんの……? ちょっと意識低くない……?」
「それはよくないなスティキュラ殿、マタンゴは危険だぞ」
「マタンゴは一般常識ですよスティキュラさん」
「なんで俺怒られてんの……?」
マタンゴは知らんが、知る限りの冒険者譚を聞かせてやる。
結構ありふれた話ですら、興味津々に耳を傾けてくれる。
冒険者なんて話したがりの奴ばっかりだからな、こういう聞き役はありがてえもんだ。
しかしこっちも聞きたいことがあるんで、程々にして切り上げる。
「……ところでさ。この孤児院、なんでエーリス一人だけなんだ? 他に子供居てもいいようなモンだが…」
「ここは既に閉鎖予定でして……。いずれエーリスも他の施設へ移る予定なんですよ」
「それはさっき聞いたんだけどもよ。一人しかいねえんならさっさと移しちまえばよくね? 維持費だって大変だろうに……。こいつだって寂しいだろうしよ」
「う……スティキュラ、悲しいこと聞くんだね……ああ、辛いや……」
「……え? な、なんかわりぃこと聞いたか?」
「……。実はその。既にここ、一旦閉鎖してるんですよ。その際、エーリスも他の子供達と一緒に王都中心地の施設へ移りまして」
「あ、そうなの? ……え? なんで一人だけ戻ってきてんだ?」
「ちょっと意地の悪い子供たちがいたようで……。エーリス、仲間はずれにされちゃったんですよ。ちょっと酷い事とかもされたようで……」
「……あ。そ、そうか」
「うん……。靴とか隠されて……」
「……」
……悪いこと聞いたな。
こういうことはどこにでもあるもんだが。
しかしそうか。このクソガキがそんな目に……。
「そしたらこの子……。加担した子の毛という毛を燃やし尽くした挙げ句、バックドロップを……。止めに入った職員の毛も燃やし尽くし……。最後は施設を半壊させ追放され……」
「めっっっちゃたのしかった」
「同情して損した」
つええぞこいつ。
つーかやっぱやべえぞこいつ。
「……で、どうしようもないんでここで面倒を見ている訳です。どうしようもないんで」
「へへっ! わりぃねママ……! 今後もヨロシクな……!」
「なんで誇らしげなんだよ」
「今は再教育中ですけど、結果はご覧の通りでして……。次の施設はどうなるか……」
「再教育してこれか……」
「あたしはここで良いんだけどなァ……。兄妹のみんなも会いにきてくれるしィ……。キミちゃんだって来てくれるし!」
「あ、そのキミエラなんだけどさ。お前もここ出身なの?」
「いや。私も孤児だが……。別の施設出身だ。所縁あってな、月に一度はここへ訪れ、こうして遊んでもらっている」
「お前が遊んでもらってんのか……」
「とってもたのしい」
「よかったね……」
「あ! いま馬鹿にしたでしょ!? キミちゃん超エリートだかんね! マジすげぇんだから!」
「聖徒守護騎士なんだろ? いや、確かにそりゃすげえわ。ほとんどなれねえんだろアレ」
「うむ。神への絶対的忠誠、聖典の正しき理解、そして他を圧倒する武力……。それらが極まらねば成れぬものだ。私も苦労をした」
「キミちゃんは聖典の理解が乏しくて苦労したんだよね。頭良さそうなのにね」
「とても苦労をした……。苦労を……」
「親近感もっちゃったな俺」
――教会は「守護騎士団」っつー、治安部隊を抱えている。
王都じゃそんなに見ないが、他所じゃそいつらが中心になって治安を守っている。
で、その中のエリート中のエリートが「聖徒守護騎士団」に加入できるっつー話だ。
とにかく滅法強い奴らで、眉唾な伝説は冒険者間でも有名なんだが。
しかし秘密主義な組織で真相がわからん。
いい機会だ。あれこれ聞きてえ。
「その聖徒守護騎士団は普段どんな活動してんだ? お目におかかったことねえからさ。今度はそっちの武勇伝とか聞かせてくれよ!」
「うむ。先日、草刈りをしていたんだが……。それはそれは大きなムカデが出てきて……。腰を抜かした……」
「武勇伝っつったよね俺?」
「どんぐらいでかかったの?」
「手のひらぐらい……」
「普通じゃない……?」
結局、草刈りと施設修繕、余った端材によるDIYの話しか出てこなかった。
最近、一人で鳥の巣箱を作ったという自慢話をされた。
だからどうした。
「――しかしエーリスもキミエラも孤児ねえ……。やっぱ多いもんなんだなあ」
「そうですねぇ……。嘆かわしい時代ですから……。一番の犠牲者は子供たちです……」
「別に辛くないけどなぁ。ママもちゃーんといるしさ!」
「たくましいぜ~」
「……冒険者こそ、そうした境遇は多いのではないか?」
「ん? そういやそうかも。……ああー、珍しくはねえな確かに。確かあいつも……」
祈りの時間で思い出した「あいつ」。
そうだ、確か孤児だったはずだ。
「……あれ? それこそエピクル教の元信者っつってたような……」
「あら! でしたら関連施設出身の方かもしれませんね!」
「元、か。信仰を捨ててしまったか、残念なものだ」
「ふーん。なんて人?」
「うん、リリデスっつーんだけどさ。有名人だからお前らも知」
「リリデスッ!?」
「リリちゃんッ!?」
「リリィだとッ!!?」
「え」
空気、一変。
全員、椅子から立ち上がる。
驚きの表情で、俺を見る。
それらの顔も、すぐ変化して……。
「リリデスと……リリデスとお知り合いなのですか!? まさか……!? ああ、神よ……! ああぁ……!」
「リリちゃん今どこにいるの!? リリちゃん元気なのッ!? ……えッ!? 知り合いなのッ!!?」
「あの邪悪の徒とどういう関係なのだスティキュラ殿!? 返答次第では……ッ!」
悲嘆、心配、激昂。
三者三様の反応。
何。なんなの。なんなの。
「え……!? 何……え……!?」
「神よ、どうか御慈悲を……! どうかあの子をお許しください……! ああ、神よ……!」
「リリちゃん大丈夫なの!? お腹空いたりしてない!? 一人ぼっちじゃないッ!?」
「リリ……ッ。……リリデスの居場所を教えよスティキュラ殿ッ! ただではおかん……ッ。ただでは……ッ!」
「何、何……!? え!? ど、どういう関係……!?」
「あの子は私の『子供』です……ッ!」
「あたしの『お姉ちゃん』ッ!」
「我が『宿敵』……ッ!」
「ええぇ……?」
楽しい団欒の時間も終了。
三人に詰め寄られ、質問攻めにされ。
なんかやべえかも。




