4.スティキュラ、保護される②
「――先は誠にすまなかったスティキュラ殿。幼女誘拐犯だとばかり……」
「いや、いいよ……。誤解とけたんなら……」
十分ぐらい全力で逃げ回った。
最終的にすっ転んだ所を、とんでもない怪力で組み伏せられた。
抵抗したら余計誤解されそうなんでじっとしてた。
クソガキのネタバラシが遅かったら骨折られてたかも。
「あひゃひひひぃ……ッ! や、やばい、ツボった……ツボった……あひひ……ッ!」
「クソガキッ!! 笑ってんじゃねえ反省しろッ!」
「そうだぞエーリス。危うくスティキュラ殿を嬲り殺すところだったではないか」
「嬲ろうとはすんなよ潔く殺せよ」
「あひひひぃ……ッ! ご、ごめんなしぁ……っひひひぃ……!」
「まあクソガキは置いといて……。ええと、あんたは?」
「キミエラと申す。エーリスを探しにやってきた」
「もー駄目じゃんキミちゃん! 真名は気軽に教えちゃ駄目! 今のあたしはジェノサイドファントムだから!」
「もういいだろその名前は」
「キミエラと申す。ジェノサイドファントムを探しにやってきた」
「律儀だなお前も」
このキミエラという奴。
態度がやけにこう、武人っぽい。
そしてめっちゃ姿勢が良い。なんかこっちも背を正しちまう。
対してジェノサイドファントムの背はぐんにゃりしてる。姿勢は性格をよく表す。
「しかしアンタ、すげえ腕力だな……。ちと驚いたぜ」
「キミちゃんすっごいんだよ! あの『聖徒守護騎士団』だから! マジで超強ぇの! エリートエリート!」
「え? それめっちゃすごい奴じゃん。教会最強の騎士団だろ? 道理であの怪力……」
「うむ。悪しき者らと戦うため、日々研鑽を重ねている」
「キミちゃん、悪しき者が目の前にいるよ! ほらめっちゃ顔怖い! ぶっ殺さなきゃ!」
「おい、このガキ顔で差別してくるぞ。悪しき者だ殺そうぜ」
「……!? いや……、ぬぅ……?」
「めっちゃ混乱してんじゃんうける」
クソ真面目らしい。からかいやすいんだろう。
ジェノサイドファントムもといエーリスが懐いてんのも分かる。
ウザさが数段増した。困る。
「とにかく帰ろう皆。ミューゼ殿が待っている。積もる話はそちらで交わそう」
「そうだねー。ママ心配してるだろうし、帰ろっかあ」
「ついてきてくれスティキュラ殿。きっとミューゼ殿――家主も快く泊めてくれるだろう」
「おう、悪いな……。いや、ほんっとに助かるぜ……。マジで疲れた……」
「まだ疲れるなスティキュラ! かったぐっるま! それかったぐっるま! へい!」
「へいへい……どうぞジェノサイドファントム様。肩をお使いくださいませ」
「くるしゅーない」
「では行こう。ミューゼ殿は大変に優しき御仁、大いにもてなしてくれるだろう」
「ママくっそ優しいからね! スティキュラみたいなスネに傷持ちにも超優しいから!」
「持ってねえわ。大道を胸張って歩いてるわ」
胸を張りつつ、とりあえず今は夜の森を歩く。
なんやかんやあったが、とりあえず野宿は回避された。
キミエラの力強い足取りに励まされるよう、後をついていく。
なんとかなるもんだ。本当に……。
「――迷った……」
「だからなんでッ!!?!」
遭難。
三度目。
なんでやねん。
「すまないスティキュラ殿……。実は土地鑑ほぼゼロで……」
「土地鑑ねえのに颯爽と先陣切るなよ!? なんだったんだよあの自信満々の態度!!?」
「う、うける……ひひひ……ッ! や、やばいツボった……あっひひぃ……!」
「つーかこのままじゃマジに野宿だぞ……! いいのかよアンタらは……」
「火起こしなら任せて! 炎魔法は大得意! 周囲を業火で焼き尽くすしか能がないの!」
「それさっき聞いた」
「君の炎魔法は禁止されているだろうエーリス。危険だから駄目だ」
「ああ~一切を焼き尽くしてぇ~……!」
「こいつの教育どうなってんだよ」
「私が代わりに火を起こそう。古代人は確か……木の板と棒をこすり合わせ……」
「魔法使えや」
「しゃらくせえよキミちゃん! 木まるごと燃やそう! ほら、このぶっとい枝使って! 幹に擦り付けて!!」
「承知した」
「お前らもしかして俺と同程度の知性しかないの……?」
キミエラが木をへし折るのを眺めつつ、一人で寝る支度を初めた。
エーリスにバレて腹にパンチを喰らった。このやろう。
結局二人が飽きるまで火起こし作業は続いた。
火はつかなかった。知ってた。
「――よし! そろそろ飽きたし、帰る方法探そっかキミちゃん」
「うむ。とってもたのしかった」
「よかったね……」
「オラ! スティキュラ考えろ! 帰る方法考えろスティキュラこのやろう!」
「もう諦めて寝ようぜ……。朝になりゃなんとかなるだろ……」
「明り点滅させるね……♥」
「どういう情緒で寝りゃいいの俺」
パッカパッカ明滅を繰り返すエーリス。うぜえ。
それを見ながらキミエラがひらめく。
「……そうだ。救難信号を送ろう」
「え? 救難信号?」
「うむ。《光源》魔法を空高く飛ばし、炸裂させるのだ。こちらに何かがあったとすぐに分かるだろう」
「おいおいおいおいなんだよ! 便利な魔法あるじゃん!」
「光で文字を描き、メッセージを送ることも可能だ。どうしようか」
「『迷子』とかでいいんじゃねえの?」
「面白味ねーから却下だね! ママ大爆笑必至のギャグ信号を送るっきゃないっしょ!」
「遭難中に面白味求めんな」
「こちらとしても爆笑ギャグで抱腹絶倒させたい所存」
「堅物みたいな喋り方すんなら内面も伴えよお前」
かくして信号の文字を如何にするか、会議が始まる。
不毛すぎる……。
「なんでもいいからとっとと決めてくれ……」
「どうするキミちゃん!」
「む。特に思い浮かばぬが……」
「そっかあ……うーん……じゃあねえ……んーとぉ……」
「……」
「……」
「……」
「『迷子』でいいよキミちゃん」
「『迷子』でいいかなスティキュラ殿」
「アイデアないんかい」
――ようやく上空に打ち上げられる、強烈な光。
「迷子」の文字が、一帯を照らす。
明るいのだいすき。
「おお、すげえ。結構派手なんだなァ」
「気づくかなあ、ママ」
「待ってみよう」
「……」
「……」
「……」
「……あ!」
「おお!?」
「む。きたか」
上空へ、これまた強烈な明かり。
家の方角を示す、光の文字の返答。
『↓↘→ + P』
「なんで波動拳コマンドなんだよ」
「キミちゃんあれどういう意味?」
「皆目わからん」
「伝わってねえし」
家行くの嫌になってきたな。




