3.スティキュラ、保護される①
「――いや助かったぜ嬢ちゃん……。マジで困ってたんだよ……マジで……!」
「こ、怖がりすぎでしょおじさん……あひひひ……!」
「いや、まあ……うん」
ツインテールの生意気そうなガキ。
こいつに俺は、保護された。
大の大人が子供に助けられるとはみっともねえが、背に腹はかえられない。
いやぶっちゃけ子供とかどうでもいい。マジで嬉しい。
ありがとう謎のガキ。ありがとうありがとう。
そのうえまたひとつありがたいことに、こいつ魔法が使えるらしい。
小さな手から灯りが迸り、周囲をこれでもかと照らしている。
見えるって最高。俺明るいのだいすき。
明るいのもきっと俺のことがだいすき。相思相愛。灯りと結婚してもいい。
「つーかおじさん、こんな所で何してたの? 犯罪者? 逃亡犯? 見るからにそんな顔してる~」
「いきなり失礼な奴だな……。いや、俺は冒険者でな。コボルトぶっ殺しに来たんだが、迷っちまって……」
「コボルト? ああ、ママが依頼出したのかな? なんかめっちゃ増えるもんねあいつら」
「つーか嬢ちゃんこそこんな時間に何してたんだよ」
「キノコ採ってたら夢中になっちって。今から帰るとこぉー」
「そうか……。わりぃ嬢ちゃん、家まで案内してくんねえかな? お礼はあとですっからよ……」
「え!? 宝石くれるの!? わーいありがとおじさん! こっちこっち!」
「それは困る……」
宝石はないんで、すっっごい丸い石で手を打った。
めっちゃ喜んでた。丸い石すごい。
拾っといてよかった丸い石。
「……にしてもおじさん、クソでっかいね! あたしの知ってる中で一番でけぇ! キングトロールって呼んでいい?」
「呼ぶんじゃねえ。名前はスティキュラっつーんだ」
「スティキュラ? 変な名前! スティキュラだって、あははは!」
「人の名前を笑うんじゃねえよ! ……そういう嬢ちゃんはなんて名前だ?」
「あたし? あたしの名前はそう……ジェノサイドファントム……」
「お前の母ちゃんどういうセンスしてんだ……」
「我が真名は明かせぬ……」
「へいへい……。ジェノサイドファントムちゃんのお家はどこですかねえ」
「我が真家はあちらぞ……ゆくぞスティキュラよ……」
「はいはい仰せのとおりに」
「くくくくく……」
ジェノサイドファントムに先導されながら夜道を歩く。
歩幅が合わんので肩車してやった。ジェノサイドファントムはめちゃくちゃ喜んだ。
子供には丸い石と肩車。これでなんとかなる。
「しかしよく道わかるなぁ。俺には見分けつかねえや」
「この森はあたしの庭みたいねもんだからね! 楽勝楽勝!」
「マジで頼りになるぜ~」
「あ、そっちじゃなくてこっちね。突き進めスティキュラァ~!」
「おうよ!」
道が分かりゃ、足取りも軽い。
頼りになるナビと共に、温かい家を目指す。
助かったあ……。
「――迷っちゃったぁ……」
「なんでッ!!??!?」
遭難。
二度目。
なんでだよ。
「どこだろここ……? 全然わかんない……」
「庭っつったじゃん! 庭っつったじゃん!」
「死ぬまでに言っておきたいセリフの1位だったから……」
「『庭みたいなもんだから』が!?」
「もう悔いはないや……。ここであたしと共に果てようスティキュラ……」
「どうせそれも言っておきたいセリフだろ!!?」
「4位でぇーすあはははは! いやー遭難しちゃった超うける……! あひひひ……ッ!」
「おいおいおいおいマジかよぉ~……! 結局野宿かぁ……!?」
「あたし野宿ってしたことねえんだけど! めっちゃ面白そうじゃん!」
「テントも寝袋もねえんだぞ……。嫌だよ俺ァ……」
「のっじゅっく! のっじゅっく! へい!」
「はああぁ~……。まあ明るいだけいいとすっかあ……」
「灯り消すね……♥」
「つけて……」
結局野宿になる。
ジェノサイドファントムの灯りだけが俺の心の支えだ。
奴はそいつをしきりに消そうとする。やめろ。
「ああくそ、腹減ったなあ……。火さえおこせりゃ、そのキノコとか焼いて食えるんだけどな」
「火!? 火起こしなら任せて! 炎魔法は超得意! 周囲を業火で焼き尽くすしか能がないの!」
「無能の方が勝ってる奴だなそれは」
「どこ燃やす!? いま燃やす!!? どんだけ燃やす!!!?」
「なんでそんなに興奮してんだよ怖えよ! 薪拾ってくっから待って……。……お?」
「ん?」
遠くにもうひとつ。灯りが見えた。
確かにこちらへ近づいてくる。
人だ。人がいる。
「あー! あれキミちゃんかも! 来てくれたんだ~!」
「キミちゃん?」
「あたしのマブダチ! おおーいキミちゃぁあーん!! こっちぃ~!!」
キミちゃんとかいう灯りの主は、まっすぐこちらへ近づいてくる。
マブダチっつーから、またガキが来るのかと思いきや。
「……エーリス、ここにいたか。探したぞ」
「キミちゃあーん!」
「ありゃ?」
「……む?」
現れたキミちゃんは、大人の女だった。
高めの背丈に、ホワイトブロンドのショートヘア。
長い睫毛と、やけに目力の強い眼光が暗闇に浮かぶ。
……麗人っつーんだろうか。こんな森の中じゃ、ずいぶんと場違いな印象というか。
警戒したんだろう。立ち止まって、俺をじっと観察している。
見たことない大男がいりゃあ、誰だってそうなるだろう。
これを筋肉差別とは言わん。
警戒したのはこっちもだ。
腰には随分と立派な剣。真っ白な鞘には精密な装飾。
冒険者が持つにしては、ちと派手な武器というか。
大丈夫だとは思ったが、反射的に身構える。
「……貴殿は?」
「……ああ、いや。怪しいもんじゃねえよ。俺はスティ」
「ッッッキミちゃん助lけてええええええぇえええ誘拐されるうううううぅぅうゥゥッッ!!!」
「貴ッ様あぁあアアァァアアアアア!!?」
「!!?」
叫ぶジェノサイドファントム。
抜剣し襲いかかってくるキミちゃん。
逃げる俺。
「何言ってんの!!? 何言ってんのお前ッ!!?!」
「あはははははははは!! あひひひひ……ッ!」
「このクソガキァアアァアア!!?」
「逃げるな貴様ああああァッ!」
「ッおあああぁああああぁあッ!!?」
火やら雷やらなんやら。
高速で飛んでくる魔法の数々。
殺される。殺されるマジで。
「あっひゃひゃひゃ、ひぃっ、ひぃ……ッ! ちょ、超うける……!」
後ろから悪魔の哄笑。
ふざけんな。




