8.アエラのたのしい魔法教室 四日目②
「――じゃ、気を取り直しまくりまして! 今回はモジャさんの変換力について調査していきますわよ!」
「ああああぁああ……ッ。ああぁああぁあああ…………ッ」
「ですからそんなに怖がらないでくださいまし! 昨日のは誤解! 誤解ですわ! ううーん猫ちゃん大好き!! ラブ!!」
「とってつけたような愛情表現やめてくださいません!? も、もうアエラさんは私の敵……っ!」
「昨日の敵は今日の友……。つまり我々はお友達! そう主張しておりますのね!? わたくしもそう思いましてよ!! 通じ合っておりますわー!!」
「話が通じないいいぃいいぃ……っ」
「我々の友情はさておいて! 覚えておりますわよね、変換力? あなたがどの属性を扱えるか、徹底的に調べますわ!!」
「うううう……。もうどうにでもしてぇ……」
「ほらシャキッとなさい! あとでご褒美あげますから!
「ご、ご褒美……?」
「飴ちゃん」
「いらないいいぃぃ……ッ!!」
「……二個!」
「数の問題じゃないいぃぃぃ……ッ!!」
「――さて、魔法の代表的な属性としましては……やはり『火』ですわね!」
「うう……話が進行していくぅ……」
「火は最も使用者が多い属性! 生活の身近にあることから、『イメージ』が湧きやすい、というのが要因と言われておりますわ」
「イ、イメージ……?」
「属性変換は想像力が重要と言われておりまして。火の熱さ、ゆらめき、明かり……。それらを思い描くことが変換の第一歩ですのよ」
「で、でも。これ、先天的な才能って……」
「先天的に可能でも、想像力が足りなければ変換はできませんわ。とにかく想像! 火の熱さを想像して、魔力を放出してみてくださいまし! 才があれば掴めますわ!」
「う、ううーん……熱さ……ううーっ!」
火、火、火。
熱い、熱い、熱いいいぃぃぃ……。
…………っ。
「ううーん。やっぱりぶにぶにしたのしか出ませんわねえ……」
「ぜ、全然駄目そうなんですが……」
「ま、こんなもんですわ。出来る方が少数派ですしね」
「そうですかぁ……」
「……。これはこぼれ話なんですけど」
「はい?」
「実際に指を火で炙りながらイメージすることで、変換に成功したという話もありまして」
「……」
「……」
「…………」
「…………さ! 次にいきましょうか!」
「今のこぼれ話なにッ!!??!?」
「――次は氷いきましょうか、氷!」
「まだやるんですか……」
「氷の利便性は中々ですわよ! なにより攻撃における使い回しが大変よくって……《障壁》代わりの防御にもよく使われますわね!」
「はあ……」
「生活上も便利でして! お酒に氷いれまくりですわ!」
「冷たいイメージ……ッ。割れる音……ッ。溶けゆく質感ンン……ッ」
「ほんっと好きですわねアナタ……」
冷たい冷たい冷たい冷冷冷冷氷氷凍凍……ッ。
…………ッ!
……………………ッッ。
「……ぶにぶにのぐにゃぐにゃですわね。氷も駄目、と……」
「アア、駄目だァ……ッ! くそぅ、くそゥ……ッ! ううう、クソううぅぅ……ッ!!」
「ここにきて悔しがりすぎでしょ……初めて見ましてよそんな顔……」
「炭酸の属性変換とかないんですか……? 《スパークリング》の魔法とか……!?」
「聞いたことありませんけど……」
……ひとまず氷も炭酸も諦めまして。
その後も雷、風、水あたりをイメージしてみましたが、一向に変換できず。
いつものぐんにゃりが出るばかり……。
「……これぐらいにしておきましょうか。そろそろ魔力量も少ないことでしょうし」
「はあああ、やっぱり才能ないんですねえ……」
「まあ想定通りですわね。できないと思ってましてよ」
「ええ……。既に諦められてるじゃないですか私……」
「いえいえ、そういうことではなくって。……実はひとつ、そのぐにゃぐにゃの謎魔力に関して仮説をたてておりまして。それが正しいとすると、属性変換できないのも納得ですの」
「仮説……?」
「ええ、毎晩あれこれ調べておりましたら……。昨夜、医学方面の書籍で興味深いものを見つけまして」
「は? い、医学?」
「心して聞いてくださいまし。あなたの魔法技術、恐らく解明しましてよ」
「は、はあ……」
「……。モジャさん。恐らくあなた……『変換障害』をお持ちですわ」
「? 障害……」
「非常に稀なんですが……。魔力を放出する際、勝手に妙な属性に変換されてしまう症例がありますのよ。魔力を魔力として放出できない、大変珍しい障害でして。私も寡聞にして知らず……」
「はあ」
「例えばガス状だったり、粘性だったり、はたまた光を発するだけだったり……。基本、魔術師としての道は閉ざされますわね。有効活用はほぼ見込めませんから」
「はあ」
「しかしあなたの場合! そのぐにゃぐにゃとなってしまう障害を最大限に利用しているんですわ! 普通であれば不可能な、複雑な機構を持つ『手』を形作り……そのうえ自在に動かすという繊細な技術……!」
「はあ」
「そしてその《手》の透き通るような薄さ! 魔力が霧散する一歩手前の状態を維持する類まれなコントロール力……!」
「はあ」
「……結論としまして! あなたは魔力量も放出力も平均以下かつ、変換障害を持つ身でありながら! 成形力や調整力、操作力をフルに発揮することで不可思議な魔術を生み出した奇才であると! このアエラ、推察いたしましたわ!!」
「はあ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……ッ!? な、なんか……反応うッッすくありません……!?」
「え? いや、まあ……。はあ」
「……なんかこう……もっとありますでしょ!? 驚きとか、納得とか……」
「で、ですから。『はあ』と……」
「うッッッすいですわね!? 自分の技術の解明ですわよ!? もうちょっと興味を持ってもよいのでは!!?」
「まあ、その……? ぶっちゃけ解明にはあんまり興味ないというか……。そもそもシルティさんが知りたがってただけですし……」
「!!? こ、ここにきてそれですの!? 今までの数日はなんでしたのッ!!? 共に魔道の道を志してきたでしょう!!?」
「ひぃッ!? い、いや、志してませんし……ッ!?」
「志してませんでしたっけ!!?」
「志してはいませんよ!!?」
「な、なんか私だけ興奮してるみたいじゃないですの……!?」
「最初っからそうでしたけども……」
「は、はああぁぁああ…………。い、いきなり力が抜けましたわ……! 毎晩遅くまで本を漁ってた私がアホみたいじゃないですの……!」
「す、すみません……?」
しなしなとテーブルに突っ伏すアエラさん。
私が悪いんですかこれ……?
解明しようがしまいが、出来ることに変わりはないと思うんですけども……。
「……まあ、いいとしますか。わたくしとしても新たな知見を得られた数日でしたし……良しとしましょうっ」
「そ、そう言っていただければ……」
「あなたと知り合えたのも収穫でしたし!」
「…………」
「めっっちゃ不服そうな顔してますわね……?」
「べ、別に……」
「ひとまず! 《手》に関しましては分析終了と致しますが……。モジャさん、あなたが望むのであれば、明日からも魔法講義を続けたいと……」
「あ、じゃあ帰りますね。お疲れ様でした」
「早いなッ!!? 余韻ッ! 別れる時は余韻が大事してよ!? 早く帰りたがるんじゃねえですわよ!!」
「はひぃ……っ!?」
「全くもう……! あ、もしかしてモジャさん……。《手》以外の魔法とかも隠してるんじゃないでしょうね……!?」
「ええ!? な、ないですよ別に……!?」
「それならいいですけども……! 他にもあったら許しませんわよ……!?」
「い、いやいやいやいや! 本当に……! 大したものとかありませんから……ッ!」
「それならいいですけども……」
「まあ……。強いて言うなら《消音》とか……その程度の奴ぐらいで……」
「ふうン……」
「……」
「……」
「ッッッなんじゃいそれはッ!!?!?!??!?」
「ッ゛ぅt゛ッ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ゛ぁ゛あぁ゛あああぁ゛!??!?!? ……アッ゛!!? き、キレっ……!!?」
「……ッガ゛ア゛あ゛ぁ゛ぁ゛ああ゛ああ゛ああ゛あ゛あ゛!!!???!? ぎ゛いい゛ぃ゛いいイ゛いイいぃィッ!!?」
「ッ゛ああ゛ああ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛゛あ!!?!! い゛゛やああ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ああ゛あ゛ぁお゛あ゛!!??!?」
「グギ゛゛ィイい゛いあお゛あああ゛あお゛ああ゛あ゛アああ゛あ゛ああ゛アアああア゛!!?!?」
「ああ゛ああ゛ああ゛゛ああぁ゛ぁ゛ああ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁあっ゛ああ゛ぁぁ゛あんああ゛あ゛あ゛!!!??!?」
呪術。
断末魔。
爛れゆく皮膚。
のたうちまわる悪魔。
もう嫌あぁぁ…………。
「ぎいいッ……! …………推察ッするにッ消音ッは魔力の弾力性ィッを利用しいいいたあああ防振技術ううゥウウゥ……ッ!!??!?」
「講義続けるの!!!?!??!?!?!?」




