6.アエラのたのしい魔法教室 三日目②
「――あ。おいしい……」
「ふふ。でしょう?」
心地の良い香りで目が覚めますと。
アエラさんが作っていたのは、ポトフ。
食欲がなかったのが嘘のように、おかわりまでしてしまい。
本当に、おいしい。
「お野菜は魔力回復に良いんですのよ。いっぱいお食べ下さいませ!」
「ああ、なんか随分と良くなった気がします……」
「とはいえ明日まで無理は禁物! 魔力切れは本当に危ないんですから!」
「はぁ……。お酒でも飲んでゆっくりしてますね……」
「お酒は駄目ッ! ……いいですかモジャさん、ちゃんとご飯はお食べなさいな! あなたにはもっと栄養が必要ですわ!」
「うえぇ……。……そ、それにしてもアエラさん、お料理上手なんですねぇ……その、意外といいますかぁ……」
「あら、そうですか?」
「家柄よさそうですしい……。自分で料理するんだなあって……」
「あぁ、まぁ……。一応冒険者ですからね、一通りのことはできませんと……」
「へえぇ……やっぱり私とは大違いですねぇ……。ずっと一人ですけど、料理できませんしぃ……」
「……。モジャさんはどういう子供時代を過ごしてらっしゃいましたの? ご飯とか……」
「ご飯? まぁ、そうですねぇ……。好みの飲食店とか見つけて、そこで……」
「あら。昔から外食でして? 意外というか……」
「いやあ、生ゴミを漁りましてえ」
「え」
「あ。生ゴミっていっても、捨てられたばっかりの……。結構美味しいんですよ、たまに高級なのも食べられましたし……ふへへ」
「…………」
「ちょっと稼げた時は芋やら黒パンやら、今とあんまり変わらないですかねえ……。ゴミ漁りはやめましたけどぉ……」
「……はぁ。モジャさん、体力にしろ魔力にしろ、栄養が第一ですわよ? そんなんじゃ冒険者としてやっていけるかどうか……」
「そこはお酒で補いまして……」
「ドアホっ! これからは食事のマネージメントも必要みたいですわね……!」
「うえッ!!? い、いいですいいです遠慮します……!」
「まずは習慣を見直しませんと! この芋と酒しかない環境は要改善ですわ!」
「うええ、めんどくさ……いいじゃないですかお芋……安いし美味しいし……」
「……。モジャさんはじゃがいも、お好き?」
「え? まあそれなりに……」
「わたくしは芋の類、大っ嫌いでして」
「は、はあ。そうですか……」
「ポトフ、よく作るんですけども。普段じゃがいもは入れませんのよ」
「はあ……」
「そればっかり、食べてましたもの」
「……ん?」
「本当に、嫌になるぐらい。来る日も来る日も」
「え……」
「ま、どうでもいいことですけども」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……バターのせるのとか……。憧れませんでした……?」
「……。結構お高いですものねぇ……。お塩ばかりで……」
「ふへへ……。私はそのまま……」
「わたくしより酷いじゃないですの。ふふふ……」
「――あ、あの。今日は、ありがとうございました……」
「あら、お見送りだなんていいですのに。とにかく今日は寝ていてくださいまし」
「まあ、これぐらいは……大分良くなりましたし……」
外は既に夕暮れ。
大分寝ていたようです。
その間もアエラさん、ずっとそばにいてくれたようで。
「ふふ。ちょっとは仲良くなれましたかしら?」
「……。ま、まあ。ちょっとだけ」
ちょっとだけ、アエラさんと仲良くなれた気がします。
ちょっとだけですけども。ちょっとだけ。
「わたくしには十分すぎる『ちょっと』ですわね! ……ではまた明日来ますわ! ごきげんよ……あら?」
「あっ! にゃんこちゃん……! そうだ、ごはんあげなきゃ……!」
私達の足にまとわりつくようにやってきた、4匹のにゃんこちゃんズ。私の大切なお友達。
お腹を空かせたようで、ごはんの催促をしにきたようです。
大変です、すっかり忘れていました。
「あら。モジャさん、猫をお育てに? 随分多いようですが……」
「育ててる訳じゃないですけどもお……毎日ごはんあげてまして、ふへへ……仲良くしてるっていうかあ……ふひ……」
「へええ。猫がお好きですのね! 分かりますわ分かりますわ! わたくしも昔はよく……!」
「も、もしかしてアエラさんもお好きで!? いいですよねえにゃんこちゃん……! ふへへへ……!」
「ええ、ええ!」
「けっこう美味しいですわよね!!」
――そこからの記憶は曖昧ですが。
半狂乱で石を投げ続けたことだけは覚えています。
私は邪悪と知り合ったんだと、そう確信しています――。




