5.アエラのたのしい魔法教室 三日目①
「――さあ! 今日も元気に魔法のお勉強ですわ!」
「うわっ、やっぱり来たぁ……」
「『うわっ』てなんですの!? そりゃあ来ますわよ! 結構楽しみにしてるんですから!」
「私はまだ恐怖が勝ってるんですけどもぉ……」
「もうっ! そろそろわたくしにも慣れてくださりませんと!」
「というか自然にスラムに通ってきますねアエラさん……そんなドレスみたいな服で……」
「随分とジロジロ見られますわね。さっきなんて物盗りに遭遇しまして……」
「物盗りさんかわいそう……。儚き人生で……」
「流石に殺ってはいませんわよ!? 多少ボコすにとどめましたわ……!」
「後遺症とか……」
「それは、まあ、どうでしょう」
「かわいそッ……」
「多少は襲われた私に同情してくださっても良いのでは……?」
「――さて! 昨日話したことを踏まえ、本日はモジャさんの魔法使いとしてのステータスを分析していきましょう!」
「はあ……」
「まずは魔力量と放出力の分析から初めましょう! 《球》を全力でめいっぱい出してみてくださいませ! 全力でかったいボールを作りましょう! 恨みある奴を撲殺できるぐらいに!」
「撲殺したい人は特にいないんですけども……」
「モジャさんって本当にお優しい方ですのね、尊敬しますわ……!」
「優しさの基準値見直した方がいいですよ……」
「とにかく《球》ですわ! さあさあどうぞ!」
「《球》……う、ううーっ……!」
「…………」
アエラさん、普通に出せばボール状になると言ってましたけど……。
出てくるのは、やっぱりぐにゃぐにゃした奴ばっかりで……。
全然球にはなりません。
「す、すみません……。やっぱ出来な……ひッ!?」
爪をガリガリ噛みながらこちらを凝視するアエラさん。
目をひん剥き、前傾姿勢。
逐一怖すぎるこの人……。
「あの、アエラさん……!?」
「あ、失礼……。やっぱり分かりませんわ、なんですのこのぐにゃぐにゃの魔力……!? 妙に弾力が……!?」
「や、やっぱり変なんですかこれ……? あの、もうやめます……?」
「……まあいいでしょう。この《ぐにゃぐにゃ》を、可能な限り出してみてくださいませ。なんとか見極めましょう……!」
「わ、分かりました……。う、ううーんっ……」
と、頑張って魔力を出してみましたけども……。
三十秒もしないうちに息切れと立ち眩み。
気持ち悪い……。
「う、うう……すみません。もうだめです……ああ、くらくらするぅ……おえっ……」
「うーん、かなり短いですわね……。すぐに霧散してますし、放出力も大分低めかと……」
「や、やっぱりぃ……才能……ないんですねえ……」
「まあそんなもんですわ。それよりも次です次! 変換力の方を確かめて……」
「す、すみません……。ちょっと、もう……辛……ううぅ……っ」
「あ、あら。大丈夫ですかモジャさん? ちょっと横になります?」
「う、う……。ぅあ…………。………………」
「……え? モ、モジャさん? 本当に大丈夫ですの!? ちょ、ちょっと……モジャさん、モジャさん――!?」
「――んあぁ?」
「……あッ!? 良かった、ようやく起きましたわね……! ああ、もうどうなることかと……!」
「……あれ? 私……んん……?」
「ああ、起きないで下さいまし! 魔力切れですわ……! 一時間ほど寝てましたのよ、モジャさん」
「そんなに……? うわ……なんかまだ体が……」
「これをお飲みくださいまし。魔力の回復剤ですわ……。申し訳ありません、私がついていながら……。見立てが甘かったようで……」
「こ、こんな感じに……なるんですか、魔力切れって……うう、だるい……頭もくらくらする……」
「実体験として覚えておくのは良いことですけれども……。一度切れると結構大変ですのよ……」
「魔法怖……」
「始まったばかりですけど、今日はもう中止と致しましょう。貴重な時間を無駄にしてしまい、重ね重ね申し訳ありませんわ……」
「そうですか……! それはよかった……!」
「な、なんかものすっごい安心してません……!? 流石に傷つきますわよ!?」
「い、いえいえいえいえいえ……。で、ではまた明日……ふへへ……」
「……いえ! 魔法教室は中止ですが、これはわたくしの失態! ぜひとも埋め合わせ致しますわ!」
「……は?」
「モジャさんはゆっくりお休みください。今日は一日、わたくしが看病をしてさしあげます!」
「ッ!!? い、いや!? 本当に、本当にいいんで……! ゆっくり寝てますから……!?」
「魔力切れはすぐに回復するものではありません! わたくしが責任をもってあなたを元気にしてさしあげます!」
「あ、あぁぁあ……! たすけてえぇ……誰かあぁ……! ああぁぁあああ…………ッ!!」
「だから私も傷つきますのよ!? ほらほら、まだゆっくりおやすみ下さいまし! お昼ご飯を作ってさしあげますわ!」
「ううう……お酒をください……お酒を……そこの強い奴……脳を麻痺させて下さい……」
「だめに決まってますでしょ! なに現実逃避しようとしてらっしゃいますの! あ、コラ! 手を伸ばさない!!」
狂人の看病が始まってしまう……。
逃げたい……でも体は動かない……。
お酒が欲しい……。
お酒だけが私を癒してくれる…………。
「……今更ですけども。ここ、お台所がありませんが……いつもはどうやってご飯食べてらっしゃいますの?」
「うう……。そ、そこの調理器具でいつも……」
「あら、これですか? 随分簡素というか……野外用の物では?」
「ここぉ……地下壕をむりやり住居にした所でぇ……換気がちょっと……。火は外で使わないとぉ……」
「……。モジャさん、結構お痩せのようですけど……。普段はどんなご飯を食べてらっしゃいますの?」
「いつもは酒場で……。お金ない時はじゃがいもとか……蒸して……」
「…………。モジャさん、ご飯は大事ですわよ? 体は資本、これは戦士も魔術師も同じですわ。ちゃんと栄養あるものを食べませんと……」
「でも今は備蓄ないですしぃ……それこそお芋ぐらい……」
「でしたら買ってきますわ! 少々お待ち下さいませ! いってきますわー!」
「うええ、食欲ないんですけどぉ……。はあ……」
「――買ってきましたわ!!」
「早ッ!!? え!? 時空歪んでんですかここ!?」
「スラムとはいえ結構いい食材あるじゃありませんか! にんじん、たまねぎ、キャベツ、パセリ……」
「一瞬でよくそんなに……」
「オージービーフ、顆粒コンソメの素、S&B胡椒……」
「世界観あってますその食材……!?」
「では早速。お鍋、お借りしますわね!」
「うああ……ですから火は、ここでは……」
「換気口はありますわよね? どこになりますかしら?」
「それならここと、そこに……」
「《送風》」
「……あ?」
「《造水》、《着火》。《氷刃》……」
「わ……っ」
気持ちのいい風が入り込んできたかと思いますと。
鍋には水が並々と注がれ、氷の包丁で食材が切られていきます。
手際よく、丁寧な、アエラさんの下拵えが始まりました。
「~♪」
意外。
家庭的なアエラさんが、そこにいます。
なにより魔法を駆使して、淀みなく調理する姿が。
なんというか、その……。
「……お料理って肉塊を切ってる時が一番楽しいですわよね!」
やっぱ怖い。
「……どうです? 魔法って面白いでしょう」
「あ。は、はい……」
「この稼業を続けていますと、私も誤解しそうになるんですけども……。生活を彩るためにあるのが魔法ですのよ」
「……」
「丁寧に生活する技術が、魔法の本流ですの。戦闘でのドンパチだなんて……」
「……。…………」
「モジャさん?」
「……………………」
「…………ふふ。おやすみなさいませ」
楽しそうに、軽やかに調理する姿を眺めながら。
意識はまた遠のいて――。




