3.アエラのたのしい魔法教室 二日目①
「――昨日は申し訳ありません。取り乱しまくりましたわ……。わたくし、ちょっとこう、カッとなりやすい性格でして……」
「ひっ、ひっ……ひぃ……ッ!?」
「ああ、そんな隅っこで震えないで下さいまし……! わたくしが悪かったですわ、本当にごめんなさい……!」
――私は窓から逃げ出しました。
あまりの豹変ぶりに腰が抜けそうになりながら、必死で逃げました。
事務所に戻るのも怖いので、そのままお家に帰りまして。
お酒を飲んでぐっすり寝たんですけども……。
「な、な、な、なななななんで私の家に入って来てるんですかぁぁ……ッ!!?」
「え? シルティさんから聞きまして」
「ひ、ひ、ひぃいん……ッ!?」
油断した油断した油断したああぁぁ……ッ!
家まで来るだなんて思わず……ッ。
……っていうかこの人ナチュラルに不法侵入してるんですけどどういう事!?
モラル低くないですか!!? 私とほぼ同類じゃないですか!!?
(……ん!? ア、「アエラ」……? アッ!!?)
ああああそうだそうだ思い出した。
先日のダンジョンでの会話中、確かそんな名前が……!
確か仲間を笑いながら燃やしている悪魔みたいな人……ッ!
「ひいッ!!? や、やめてぇ……! も、も、燃やさないでえぇぇ……!!?」
「燃やしませんわよ!? とにかく落ち着いて……。そうです! これをあげますから落ち着いてくださいまし……!」
「な、な、な、なんですかぁ……?」
「飴ちゃん」
「……飴!!? ただの飴!!?!? 最早人のことナメすぎでは!!?」
「あら、飴とかけてますのね! とっても面白いと思いますわ!」
「違う違う違ううううぅぅぅ……!」
「――では気を取り直しまして。早速魔法技術解明へと洒落込みましょう!」
「……いや一切気を取り直せてないんですけども!? 『――』で無理やり空気変えようとしないでくださいよ!!?」
「まあまあ……。ああ、そうですそうです。これを御覧くださいまし」
「な、なんですかその紙切れは……!?」
「昨日も言いましたが『誓約書』です。それも普通のものではありません。絶対の拘束力を持つ『呪術誓約書』……。わたくしの反省と覚悟の証でもありますわ」
「じゅ、呪術……!?」
「シルティさんから事情は聞いております。あなたはご自身の技術を口外されることを嫌うであろうと……。ですからこうして準備してまいりましたの。もし破れば、わたくしに重い制裁が加わるように……」
「い、いやいやいや既にそういうお話では……! こ、こ、怖いんですもんアエラさん……ッ!」
「勿論それだけではありません。途中でわたくしが前後不覚にキレるようなことがあれば、同様のペナルティが加わるよう一文を加えます。これならあなたも安心できますでしょう?」
「は、はあ……。……え? それ、破ればどうなるんです……?」
「全臓物が破裂し血反吐と吐瀉物を振り撒きながら絶命いたします」
「無駄にグロくないですか!!? そこまでは求めてないんですけど!!?」
「まあ、ずいぶんお優しいんですのねモジャさん……。では胴と首がねじり切れるぐらいにして……」
「だから死までは求めてないんですけど!!? ……あ、そうだお金! お金くれるとかでいいですから!!」
「呪術誓約書は身体的な損害でしか補填できませんの……。でしたら全身が焼け爛れのたうち回るぐらいにしておきましょうか」
「さっきからなんですかその狂気じみた罰の発想は……!?」
「ええと、そうですわね……。
『アエラ(以下、甲)はモジャ(以下、乙)と共に魔術を学び合うに及び、以下のことを誓約する。
1.乙の魔法技術を同意なく口外しない。
2.乙に対してブチギレない。
3.違反した場合、甲の皮膚は焼け爛れ痛みに悶え苦しむ』
……こんな感じの文言でいかがでしょう?」
「うう、謎の覚悟の重さに押し切られるぅ……。わ、分かりましたよぉ……そこまで言うならぁ……」
「ではお互いに血判を押しまして……。あ、ここにお願いしますわ」
「えぇ、私も押すんですか……!? い、嫌だなぁ、血とか苦手なんですけど……」
「針や刃物はお持ちで? 私の妖刀でよければお貸ししますけど」
「ありま……。……妖刀ッ!!? 妖刀って何!?!? ……え!!? 何その真っ赤な武器!!!?」
「では私からいきましょう。えいやっ」
「ッッ!!?!? ななななんでそんなザックリ切って……!!? ッああああぁぁああ血があああああぁ!!?!?」
「あ、やばいですわね。ちょっといきすぎましてよ……。あら、あらあらあらあら、ごめんあそばせ吹き出して……あとで拭きますわ」
「ッあ゛ぁ゛あ゛ああ゛あああ゛ぁぁ゛ぁあ゛ああ゛!!!?」
吹き出す鮮血。
赤く染まる私のお家。
気にせず平然と血判を押す狂人。
たすけて。
たすけて。




