2.アエラのたのしい魔法教室 一日目
――崩れゆく初心者ダンジョンから生還して一週間ぐらい。
なんか調査員? ……っぽい人がたくさん来たりで、とにかく慌ただしい日々でした。
他のギルドからも情報交換目的でたくさんの訪問者が……。
そんな人見知りには面倒くさい日々もようやく落ち着いた、そんな矢先。
「あ、あの……!? す、すみません、ちょっと……状況がよく分からないんですけども……!?」
「? 先日、快く承諾してくれたではないですか。あなたの魔法技術を解明すべく、アエラの助けを借りると」
「な、なんの話ですか……!? 魔法って、そんなの使えませんけど……!?」
「ですから。あなたの《手》の話ですよ」
「《手》……? あ、あぁ、そういえば話したような……。っていうかそれ、魔法なんて大層なもんじゃ……!?」
「……私は魔術をある程度勉強してきましたが。あなたの扱うものに関してはさっぱりわかりません。もしかすると体系外の新技術の可能性があります」
「い、いやいやいやいやいや!? 本当にそんな立派な奴じゃ……」
「ああ、安心してください。アエラは信頼できる人物ですよ。決してあなたの技術を口外したりはしないでしょう。これは約束します」
「ええ、ご安心下さいモジャさん! このアエラ、決してあなたの損になるようなことは致しませんわ!」
「う、うえぇ……!? い、いや、ですからそういうことではなくて……っ」
「モジャ、あなたはあなたで魔法について教えてもらうと良いでしょう。きっとためになりますよ」
「い、いやいやいや! 私、魔法の才能は全然……っていうかシルティさんが教えてくれれば……」
「彼女の方が扱える魔法の幅が遥かに広いですから。あなたの特性にあわせた指導ができるでしょう。……ではそういうことで。頑張ってくださいねモジャ」
「ああ!? い、行かないでくださいよシルティさん!? 待ってくださ……! あああ……!」
……取り残された。
いきなり過ぎて、まだちょっと状況が……。
……眼の前には、明らかに貴族家のお嬢様みたいな人。
盗賊的には大変に好みのタイプですけども……。
「……うふふ、緊張しておりますわねモジャさん。とりあえずケーキでも食べながら、楽しくお話しませんこと? 」
「あひっ!? あ、は、はい……い、いただきます……」
「まずは自己紹介から初めましょうか。わたくしはアエラ・ローゼリス。この界隈では『七色のアエラ』で通っておりましてよ」
「は、はあ……よ、よろしくです……。え、えっと……その、シルティさんとは、ど、どういう……?」
「学生時代からのお付き合いでして……私はひとつ後輩ですの。最近まで同じギルドにいたんですのよ」
「あ、ああ、そういうことでしたか……」
「シルティさんとはどうです? うまくやれていらっしゃいますこと?」
「は、はい。親切にしてもらってましてぇ……」
「そうでしょうそうでしょう! 一見クールですが、博愛精神に満ちたお方ですからね! 私は彼女に憧れて冒険者になったんですのよ! それは凄い方で……」
「はあ……。あ、同じギルドにいたってことは……。リリデスさんとも?」
「ええ、ええ! 元は女性三幹部として大変仲良くしておりましたのよ! ……まあ、ちょっと色々ありまして。疎遠になっておりますが……」
「ああ……」
とある覇権ギルドの凋落、そして分裂については、酒場でも大変に話題でした。
仲違いしただの、幹部が洗脳されただの、新人が生贄にされただの……。
そうした噂を聞きつけ、たった二人だけとなったギルドに侵入した訳ですが。
それが巡り巡ってこんな状況になった訳ですが……。
「……リリデスさんはどうです? 元気にしてらっしゃいますかしら?」
「は、はい。とっても優しくって、朗らかな方で……。たまに不気味ではありますけど……」
「不気味……。瞑想してる時とか、ちょっとそんな時ありますわよね……」
「あ! あれやっぱり怖いですよね!? 終わった直後の顔とか特に……。すぐ戻るんですけども……」
「目据わってて超怖いですわよね!? 全員に瞑想を勧め始めた時なんか、もう恐ろしくって……!」
まさかのリリデスさんトークで盛り上がりを見せます。
……実はあの人の信仰、未だによく分かりません。
本人に聞いてみても、ものすんっごい渋い顔をして答えてくれず……。
シルティさんも絶対に教えてくれませんでしたし。どうもタブーのような……。
「あのぉ、リリデスさんの宗教って一体……」
「…………今日はいいお天気ですわね! ッああーあいいお天気! ああーッすっごいッ!!」
「話題逸らしが下手すぎる……」
やはりタブーのようで……。
「ところでモジャさんは一体どういったお方なんですの? 今までの経歴と言いますか……」
「……え!? あ、ええっと……!? あの……」
「……うふふ。答えたくないならそれでも結構ですわ。シルティさんから聞いております、少し特殊な環境で育った人だと。構いませんわ」
「す、すみません……」
「……では早速ですけど。あなたの魔法技術の一端、見せてくださいませんこと? 詳しいことはあまり聞いていなくって」
「うう……。あの、ちょっと……。ううーん……」
「ああ! 決して口外は致しませんわ! あとで『誓約書』も用意しておきますからご安心下さい!」
(うーん……)
みっつめの《手》。
スリや逃走時の「奥の手」としてがんばって習得した技ではありますが。
正直、たいした技術でもないですし、バレた所で使い道はたくさんありますし。
いいっちゃいいんですけども……。
「いや、その……。むしろ呆れられないか心配で……」
「なにを仰ってるんです! シルティさんが驚く技術ですわ、是非ともお見せくださいまし!」
「そ、そうですかねえ……。じゃ、じゃあ……」
「緊張する必要はありませんから、普段通りに……ふふふ。一緒にたのしくお勉強いたしましょうね、モジャさん」
「は、はい……!」
ああ。親切そうな人でよかった。
アエラさんの優しく、柔らかな笑みに促され、《手》を出します――。
「――ッッッなんじゃそれァッ!!?!?」
「ッひあ゛ああ゛ああ゛あッ!!??!??」
「ぐにゃぐにゃのそれ何!!? 手に成形!!? 透明ッ!!? 何ソレ!!? もう一回お見せなさいッ!!!」
「ッひっ……ッ!? ひ、ひ、ひいぃッ……!? あ、あぁ……ッ!?」
「もう一回ッッッ!!!! 早くおしッ!!!!!!!11」
「ッあ゛あ゛ぁ゛ああ゛あ゛ぁぁあ゛ああぁ゛ああああ゛あ!!?」
たしゅけてえええええ……。




