9.ご褒美を学ぶ
「――さ、散々な目にあいましたね、昨日は……」
「ええ……。ろくに眠れませんでした」
――崩壊したダンジョンから脱出後。
あれやこれやの報告や現場検証のため、深夜まで当局に拘束される羽目に……。
亡くなった方々に亜人の存在、滅茶苦茶のダンジョン等々、現場は混乱を極めました……。
……あの遺体の三人。
彼らの身元は、利用者名簿からすぐに判明しました。
とあるギルドの新人二名と、熟練者一名による訓練だったようです。
死は救いと言えども、本人たちが望んでいなかった、苦しみに満ちた最期。
なんともはや、やりきれぬ思いがいたします。
「冒険者の死というのは珍しいものではありませんが……。やはりこたえるものがありますね、実際に目にすると……」
「我々にできるのは祈ることだけです。静かに、虚無へと祈りを捧げましょう……」
「……そうですね、私なりに祈ってみましょうか。虚無へ、とはいきませんが」
そしてあの、謎のデーモン。
頭だけでなく、体の方も崩落の際に潰れてしまったようで……。
騎士団の方々がなんとか発見するも、既にジャムみたいになっていたとか……。
「なんの目的でこちらを攻撃したんでしょうかね? 本当に妙な敵でした……」
「目的があったにせよ、錯乱していたにせよ……仲間がいないことを願うばかりですね。一流ギルドとて対応困難ですよ、あれは」
「そうですねえ……。あんなのが何人もいたらと思うと……」
「……本当によくやりましたね、リリデス。私達が助かったのも、あなたのおかげですよ」
「ああ……! お褒めの言葉、大変、大変ありがたく……。……あ! そういえば私、まだシルティさんptもらってませんが!?」
「飴をあげましょう」
「シルティさんpt……」
……シルティさんptはさておき。
デーモン出現の報は、既に冒険者のみならず広く伝わっているようで。
不安定なご時世です。人々の間に不安が広がらないか、心配でなりません。
こういう時こそ、カルランのお導きが皆様の力になれると思うのですが……。
「……。カル」
「だめです」
「はい」
ああ、我が信仰。
明日は何処へ……。
「しかし悪いことばかりでもありませんでした。ねえ、モジャ」
「ふ、ふへへへへ。ふっへへへへへへぇ……。いやあ、本当ですよシルティさぁん……ふひひへ……」
「本当に驚きましたねえ……。怪我の功名とでも言いましょうか……?」
「ふひひひっひひへへ……」
崩壊したダンジョンから脱出せんともがいておりました所。
モジャさんが瓦礫の中から、ある空間を発見。
そう、それは……。
「……まさか隠し部屋があったとは。壁が崩れなければ、おそらくずっと見つからなかったことでしょう」
「ふへへへえ、リリデスさん様々ですよお、ふひひへ……リリデスさんしゅきぃ……」
「そ、そう言っていただけますと、こう、結果オーライな気もしてきますが……」
……隠された部屋にあったもの。
副葬品として、箱いっぱいの金貨に、宝石類が数十点。
そして……一体のミイラ。
「あの遺体こそ、ダンジョンの真の主だったんですねえ……」
「アンデッド達は、今の今までずっと守り続けていたという訳ですね。古代の王を……ずっとずっと、健気に……。……冒険者とは浪漫のある仕事とはいえ、どこか罪のようなものも感じますね」
「す、すみません。なんか……私が全て破壊してしまったというか……」
「仕方がありません。これも我々の業というものでしょう」
「ふへっへへっへ……。何言ってるんですかお二人ともぉ。いいに決まってるじゃないですかぁ。お金も宝石もぉ、生きてる人間が為のものですよおおおっほほへへへ」
「本当に上機嫌ですねえモジャさん……」
「それにアンデッド達もぉ、命令されてずっと動かされ続けてきた訳ですからぁ。これでゆっくりおやすみですよぉ。良きこと良きことふへっへへへへへ」
「おや、いいこと言いますねモジャ。なるほど……。元々が歪なものだったと考えましょうか」
「……そうですね。彼らに本当の眠りがきたと考えれば……悪いことではありませんね。死は眠りとして機能するが良し、です」
「良きこと良きことんっほほほおぉ……」
ダンジョン崩壊と共に、アンデッドらはぴたりと動きを停止。
二度と復活することなく、安らかに虚無へと還りました。
今や音を立てることもなく、初心者ダンジョンは閉じております。
一体のミイラと共に、ただ静かに、静かに……。
どうか。
どうか、夢の途上で果てたあの冒険者たちも。
そして、デーモンのご老人も。古代の王も。多くの殉教者達も。
全て、安らかに……。虚無の中で……。
…………。
「ところでモジャ。冒険者、続けていけそうですか?」
「続けますぅ最っ高ぉですぅ天職ですぅふひっへへへいひひぃ……」
「ああ、素晴らしい言葉が聞けました。良きこと、良きこと」
「ええ、本当に……! これからもよろしくお願いしますね、モジャさん!」
「こちらこそおっほほほほほおん……」
涎を垂らしながら、戦利品を愛でることに余念なきモジャさん。
宝石に頬ずりしながら恍惚の表情。良きこと良きこと。
何より! 今後も続けていけると言ってくれたのが、何より嬉しく……!
色々ありはしましたが、最終的には大成功の冒険だったと言えるでしょう。
大成功の、冒険で……。
「……アッ!!?」
「うわ。何事ですかリリデス」
「サンドイッチ! 折角作ったサンドイッチがパッサパサに……! はあぁああ……」
「あ。すっかり忘れていましたね」
「はあ……。みなさんと一緒に食べたかったのですが……。もう美味しく食べれませんねえ、残念……」
「今ここで食べればいいじゃないですかぁ! 宝石ちゃんを見ながら食べれば、どんなご飯だって最高のご馳走ですよぉ!」
「私もそう思いますよ。なんでしたら慰労も兼ねまして、ひとつ乾杯といきませんか? 日中ではありますが、たまには良いでしょう」
「……ですね! 今日は大いにゆっくりしましょう! ではでは、他にもおつまみを用意して……!」
「んほほほほぉ……! お酒とお宝……んっほほほっほお……!」
というわけで、ひとまず乾杯です!
我がギルド初めての戦利品。嬉しくない訳がありません。
こうしたことを積み重ねながら、少しでも大きなギルドになってくれれば。
そう思いながら、お酒をあおります。
……いえ。大きなギルドにならずとも。
ずっとずっと、こうして楽しくやっていけたなら。
それはきっと、この地獄たる生に打ち立てられた、貴重なる歓びの舞台となるでしょう。
どうか、どうか。
そう、なってくれますように……。
「――ところでシルティさん。ダンジョン崩壊の件、その……怒られたりとか……損害賠償とか……ありませんよね……?」
「……。…………」
「……いやあ~! ダンジョンを破壊するだなんて、とっても悪いデーモンでしたねえ! 魔法でダンジョンを破壊するだなんて!! ふひっひひへ……」
「……このたくましさ、我々も見習っていきましょうリリデス」
「はい……」
……私なんかより、既に立派な「冒険者」のような……。
5章 ダンジョンを学ぶ ~終~




