8.何を学びし冒険者③
「――アア! 危ない、危ない!」
「逃げないでください!」
「ハハハハハ! 逃げます、逃げますハハハハハハハ!」
敵の警戒は私に向いております。
そこを逆手に取り、シルティさん達の方向へ追い込んで行きますが……。
「ハハハハ! アア、そうそう攻撃……。がんばれ私、がんばれ私、ウウーン……ア! ハハハハハハ!」
「うう!?」
近づけさせたのも束の間。
またもやどろどろとした黒い影。
今度は地面へと溶けるように染み込んでいき……。
「《蝕》。《蝕》。《蝕》、《蝕》、《蝕》《蝕》《蝕》《食》《食》《飾》……」
「! 皆さん、下……ッ!」
「ぐううッ!?」
「ひぎいぃいいいぃ!!?」
地面から飛び出してくる、禍々しき数多の「棘」。
咄嗟に飛び跳ね回避するも、何本か喰らってしまいました。
貫通せぬまでも、やはり痛い……! 痛すぎる……!
しかし私のことなどどうでもよく……!
「シルティさん! モジャさん……ッ!」
目に飛び込んできたのは、宙へと舞い上げられるお二人の姿。
シルティさんの頑強なる障壁も、衝撃までは吸収できません。
棘の攻撃は全て防ぎつつも、体勢を崩したまま地面へ叩きつけられます。
「ぐ……ッ」
「あびゃあッ!?」
「ああ!? 大丈夫ですかお二人共!?」
「モ、モジャ……。大丈夫、ですね……? ……充分、近づけたかと思いますが……っ」
「はひぃぃ、はひぃ、はひぃぃぃ……ッ! ひ、ひぃ、ひぃぃぅう……ッ!! うう……ッ!」
モジャさんの顔。
怯えきりながらも、その眼は敵へと向けられております。
一体何を……。
「……あれエエッ!? 何故また防げる!!? オカシイな!? 凄い、凄い…………! もう一度……もう一度……」
「……モジャ、頼みましたよ……」
「はぁーっ、はひぃーっ……! う、うう、う……!」
「《蝕》――――ア?」
――よろめく敵。
魔法は発動せず、ふらふらと漂うばかり。
何事かと思い、目を凝らしてみますと。
老人の首元。
何かがきらめいております。
あれは……。
「……ン? ァ……? グ……? ……ッ」
「……え!?」
「!!」
短剣。
それが深々と、敵の首に突き刺さっています。
間違いないありません、モジャさんの、短剣。
「はぁーっ、はぁーっ……! はひ、はひぃ……!」
モジャさん、確かに近付いただけです。
短剣を投擲するような素振りもありませんでした。
何事が起きたのか全くもって分かりませんが、隙を作るだけではなく攻撃まで成功させて……!
すごい!
本当にすごいです、モジャさん!!
「…………!」
「…………!」
「………………」
「………………」
「…………ん?」
「…………あ、あれ? え? あの……? え……?」
「………………え?」
「ッ!!? え!? 隙! 隙作ったんですけどッ!? え!!? あれ!!?!?」
「あ……あッ!!? ご、ごめんなさ……ッ!? び、びっくりしちゃって……!?」
「何で!!?!? なんでこっちもびっくりしてるんです!!??!?」
「リ、リリデス……」
「あ! で、でもほら!? あれ多分きっとおそらくきっと致命傷ですよ!? 私達の勝利ですよ多分きっとおそらくきっと!!?」
「アア!? 痛い、痛い痛い……! 《治癒》! 《治癒》《治癒》《治癒》《治癒》! ……アア、アア…………危ない危ない……」
「ピンピンしてますね……」
「ま、誠に申し訳なく……誠に……! 誠にぃ……っ!」
「ッあ゛あ゛ぁぁ゛あ゛っぁ゛あ゛ぁああ!!? リ、リリデスさんの馬鹿あああぁぁぁあ!!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ……っ!!」
「し、死にたくない死にたくない死にたくないぃいいぃぃぃ……ッ!!」
「落ち着いてください二人共……。まあ……一朝一夕の連携はこうなる、という教訓としましょう……ほら、リリデスはこういうの慣れてないですし……」
「ああ、シルティさんの優しいフォローが逆に辛い……っ!」
「リリデスさんのアホおおおぉぉぉおおぉおぉ……!」
「ああ、モジャさんの叱責はもっと辛い……っ!」
なんの言い訳もしようがなく……! 完全なる私のミス……ッ!
ただただ申し訳なく、申し訳なく……。ああ、なんという……。
この落とし前どうつければ……! ああ、ああぁ……!?
なんとか他に隙を……! 隙――――。
「――エ!???!? リリデス!???!?!? エ!??!??」
「え」
「む?」
「ううぅっぅ……う、うぅ?」
「リリデス!? リリデスと!? リリデス!? リリデスと言った!? リリデス!!? エ!!?!」
「……え?」
「リリデス! アア! リリデス! なんという! なんという……!? アレがリリデス! なんという! なんという! アア! アア! リリデス! リリデス!」
「……は? え……?」
突如私の名前を連呼し始める相手。
何故…………。
こ、怖い……。
「……!? ちょっとまってくださいリリデス、アレあなたの知り合いですか……!?」
「!? あんな知り合いいる訳ないじゃないですか!? 知りませんよ!?」
「名声が亜人にまで……?」
「め、名誉なんでしょうか……?」
「リリデス……リリデス、リリデス……! 怪光線が出るリリデス……!」
「出ませんが!?」
「アア、そうか……ハハハハ! これぞ御意志だ! 思し召しだ! 物語の方から近付いているのだ! ……そうだ徹さねば。徹さねば。役割を……ン? いや、しかしもう彼女は……? アレ? ウウン……? どういうことだろう、どういうことだろう……」
「な、なんか一層情緒が不安定になってません……!? 全くもって意味不明なんですが……!」
「最早さっぱりですね……」
「アッ、そうだ、こういう時は……そうだ、そうだそうだそうだ、敬意だ。敬意を表すのが良い……。強敵には敬意を……。リリデスと……エエト? シ……シール、ディー?」
「!? 『シルティさん』です!! 失礼ですよ!? 間違えないようにッ!!」
「シルティさん、シルティさん……シルティさんですか、シルティ、シルティさん……! 覚えました、覚えましたお嬢さん。すみません……」
「復唱して下さい!」
「シルティさん、シルティさん……」
「せんでよろしい……」
「あ。先程あなたに短剣を突きさしたのはこちらのモジャさんで……」
「何故ッ!!?!? 何故私が恨みを買うような情報を!!!?!?」
「覚えました……モジャさん、モジャさん……。……お前は決して許さん…………」
「ッあ゛あ゛ぁ゛あぁ゛ああ゛゛ああ゛!!??!? な゛ん゛で゛ええ゛えっ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ええ゛えぇ゛ぇ゛ぇ!!??!!?」
……と、会話を交わしながらも、なんとか接近して叩けないか探ってはいるのですが。
この敵。支離滅裂な精神状態のようでいて、こちらの動きをつぶさに見ているのが分かります。
シルティさんも様子を伺っていますが、攻撃できずにいる様子。
おそらく相手のカウンターを恐れてのことでしょう。
防御に専心しなければ防げぬ相手の猛攻、反撃を許せばモジャさんが危険となります……。
ああ、なんという状況。まさに八方塞がり。
私に攻撃魔法は使えません。
幼き頃に手ほどきは受けましたが、とことん才能がなく……。
遠距離攻撃さえ。遠距離攻撃さえ使えたら……。
遠距離…………。…………。
…………。
あっ。
「アア、敬意と……そうだ、礼儀……名乗ろう……ウン、そうだ……。……聞け、人の子ら……聞け、聞け聞け聞け聞け聞け」
「? リリデス……?」
救済槌を思いッきり、握りしめます。
万力を込めて。
「――世の乱れ、は、既に極みへと、至り……。地の獄の、扉は、開か、れ……我はここへ……訪れた……。一切の、虚飾の王らを、排し……偽りの、繁栄へ……厳かたる、終焉を、齎す、ため……」
「死にたくない死にたくない死にたくないいぃ……ッ!」
そして祈りと、慈悲を込め。
彼の者に、救済を齎すため。
「――我は、神へ、の、反抗者……。恩寵を穢し、導きを、否定、する、者……」
「……どうか…………虚無の……。安らぎの…………。中…………。」
心を鎮めて。静謐に。
どうか、幸福な眠りを――。
「――聞け! 我こそが、魔を、統べし君……! 魔王ガル」
「――ッらああああああああああああああッ!!」
「デらぁぺぎぃ ぱ っ」
「え」
「え」
救済槌、一投。
風を切り、音を置き去りにしながら。
狙い通り、目標の頭蓋へ直撃。
吹き飛ぶ頭。
落ちていく体。
やりました。
「……え」
「……え」
槌はそのまま壁へ直撃。
衝撃により、壁面が崩壊。
轟音と共に崩れ行く石壁。
砂煙の中、首なき死体が力なく地面へ、べちゃり。
「……どれどれ」
一応近付いて確認。
生命反応は見られず、ただ痙攣をおこすばかりの肉体。
間違いなく死んでおります。確実。
先の遺体らへ向けたのと同様に、骸へ祈りを捧げます。
虚無へと旅立った、生命へ……。
「どうか……安らかに……。……救済完了です!」
「…………」
「…………」
「……あれ? どうしました?」
「いや、その。なんというか。……改めて、流石だなと」
「ああぁ、お褒めいただき光栄です……! ……これで先のミスも帳消しですよね!」
「っはああっぁあぁぁぁあ……っ……。よ、ようやく……ようやく、お、おわ、おわ……はひいいぃ…………!」
「ええ! ……チームワークの勝利ですね!」
「チームワーク……」
「チームワーク……」
「……チ、チームワークの勝利ですね! チームワークの! チームワーク!!」
「圧が……」
「チームワークッ!! ……しかし、一体何者だったんでしょうかね、この角の生えたご老人は……? 私達を攻撃してきた意味もよく分かりませんし……」
「いやはや、意味不明ではありましたが、本当に恐ろしい相手でした……。上級魔法連発に見たこともない凶悪な魔術……。驚愕の一言ですね、デーモンとは皆これ程強いのでしょうか」
「な、な、なんかずっと支離滅裂でしたよね……? 最後まで変なこと言ってましたし……終焉がなんとかって……」
「ふむ。昨今流行の終末論を踏まえてのことでしょうか? リリデスのことも存じていたようですし……もしかすると、普段は人間社会に溶け込んでいるのやも」
「ひい!? こ、怖いこと言わないでくださいよ……!?」
「……まあ、我々が考えても詮無きことですね。亜人が近辺に出現したとなれば、国が調査に乗り出すことでしょうし。……今は素直に、危機を乗り切ったことを喜びましょう」
「その通りですね! わあいわあい!」
「わあいわあい。ほら、モジャも」
「わ、わあいわあい……」
三人でわあいわあい!
一時はどうなることかと思いましたが、難局を乗り越え成長したのを感じます……!
わあいわあい!
「……一応、総評としまして。反省点もありましたが、それぞれがベストを尽くせたかと思います。特にモジャは本当によく頑張りましたね。いきなりの事態で怖かったでしょうに……」
「し、死にたくはなかったですからぁ……。あんまり意味なかったですけども……」
「その頑張りと謎の技術、素直に評価せざるを得ません。3兆シルティポイントを付与します」
「インフレが加速していく……」
「ところでモジャ、一体どうやって短剣を……?」
「あ、あれはですね……ええっと……」
「……あ、そうです。救済槌を回収しませんと……」
救済槌が直撃した壁一面は跡形もなく崩れ、瓦礫の山に。
はてさてどこへ行ってしまったのやら。骨が折れます。
しかしこのダンジョン、案外脆いものです。
普通の石壁なので致し方ない……とは……いえ……。
…………。
…………?
「……ん?」
「……む?」
「……え?」
ミシミシ、という音。
パラパラ、と落ちてくる小石。
不思議と揺れている、ダンジョン。
…………。
「……。な、なんか嫌な音がしませんか?」
「……。揺れていますね……」
「あ、あ、あのぉ……? これ……。あのぉ……!?」
ゴゴゴ、という意味深な音。
段々と大きくなっていく地響き。
次々と落ちてくる石の数々。
「…………」
「…………」
「…………」
上を、確認。
走りゆく亀裂。
広がっていく穴。
…………。
「ッあ゛あ゛あ゛ああぁ゛あぁ゛ぁああ゛あ゛あ゛あ゛ぁああ゛!!!??!?!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさいぃ……ッ。誠に、誠にごめんなさいぃ……ッ!」
「……二人共、とにかく障壁の中へ……」
「ひいぃぃいいいん……っ!」
――初心者ダンジョン、崩落。
二層の迷宮が、我らの頭上へ降ってきます……。
ああ。なんという……。
ああ…………。




