7.何を学びし冒険者②
「――ぐぅッ!?」
「うっ!」
「ふぎいぃッ!!?」
扉を開けた瞬間、凄まじい衝撃。
先頭のシルティさんが私に追突。
私はモジャさんへ追突、モジャさんは地面へ衝突。痛い……。
しかしシルティさん、防御障壁は展開したまま。
決してバランスは崩しておりません。流石の一言。
急いで状況を把握せんと、前を確認します。
大広間の中心。
動かずバラバラになったドラゴンゾンビの傍らに、ひとつの影。
「……え?」
「む……」
「ひ、ひぃっ、ひぃ……!?」
「…………人?」
「ム? ……おや? 死んでない? ンム? ン? ム……?」
見るからに、人。
……というか、明らかに喋っております。完全に人です。
白髪のおじいさん、です。
モノクルに、立派にたくわえた髭。
濃色の、立派な装飾のローブ。
老紳士然とした風格をたたえています。
ですが……。
「あれは、一体……?」
「……ふむ」
「な、な、なんですかぁ……ッ!? なんですか、あれぇ……ッ!?」
頭に二本。
雄山羊のように曲がりくねった、大きな角。
…………人?
「おやおや。おや? おやおやおやおやおやおやおやおや。これは……死んでない、死んでない?……ウウン……?」
「……シルティさん。なんなんですかね、アレ……」
「亜人種……? 特徴的にはデーモンといったところでしょうか……初めて見ましたが……」
「亜人……。何故こんな所に……」
エルフやドワーフ、オーガやデーモン。
太古、それら亜人達が世界を支配していたと聞いております。
争いや環境の変化、人間の台頭により、今や姿を見ることも珍しい存在ですが……。
それが何故ここに……。
「やややや。ややややや? ウウン……? おかしいですな、おかしいですな、おかしいですな……参りましたな、まだよくわからない……ウウーム、ムウン……?」
「よ、様子がおかしいですね……。情緒不安定というか……」
「何にせよ気を付けてください。言葉は通じても対話は難……」
「《雷撃》……ア、違う……。ア、そうだ。《天雷撃》! そうそう、《天雷撃》《天雷撃》《天雷撃》《天雷撃》《天来劇》《店来劇》……ア、間違えた……?」
「……ッ!!? こ、……ッ。ぐ……ッ!?」
「なッ!? え!? これって……! シ、シルティさん!?」
「あああぁあああ!!? ひ、ひいぃ、ひいいぃ……ッ!」
「上級魔法……!?」
轟きと共に、凄まじき攻撃が降り注ぎます。
魔法にはさほど詳しくありませんが、これは私とて分かります。
アエラさんがここぞという時に使っていた、強力な上級魔法のひとつ。
本来複数回発動など出来ないはずですが、それが信じられない程に連発されて……。
「だ、だ、大丈夫ですかシルティさん!?」
「す、少し……いや、かなり……予想以上ですね……。これ、は……ッ」
「ひい、ひいいぃっ……!」
「……アレ!!? 耐えている……耐えている!? 耐えた、耐えた……! やややややややや! ウウーン……? これは凄い凄い、凄い凄い……!」
流石のシルティさん、耐えはしましたが……。
額には汗。無表情は崩さぬまでも、焦りの見える顔色。
様子を見るに、このまま受け続けるのはまずいご様子。
……相手の目的がなんなのか、何故こちらを攻撃してくるのか。
何も分からぬ状況ではありますが、早急なる救済に移らねば。
「ええと、ええと……。私には、何が使えましたかな? 魔術……。聖……いや、それは駄目だ駄目だ……? そうだそうだそうだ、もっと……ああ、闇の……エエト……」
「いざッ!」
「ア!?」
突貫。
一挙に距離を詰め、救済槌を……。
「不味い不味い! 何が出来たかな……!? 私には何が……! エエト……。ア! 《飛翔》!」
「んッ!?」
「な……!?」
「うひいいぃいいぃぃ!?」
槌を振り抜くも、空を切り不発。
…………。
……飛んでいる……。
「え!? こ、これなんですかシルティさん!? 飛……ッ え!? 飛んでますよ!?」
「なんと……!」
「魔術師って箒なくても飛べるんですか!? ていうか飛べたんですか!!?」
「箒があっても飛べません……!」
「でも飛んでますよ!? 私も飛びたいんですけど!!?」
「本当に参りましたね……」
「ハァーっ! 危なかった、危なかった危なかった危ない危ない危ない……! 間一髪、間一髪……ヨシヨシ」
「に、逃げないで下さいッ!」
「オオ!? おお、おお、おおッ!? 危ない、危ない! 危ない……!」
「ああ、もうッ!! ちょっとこれズルじゃないですか!? ズルですよねシルティさん!?」
「……ズルですね、叱ってやってください」
「コラーッ! ズルはやめてくださァーい!!」
「ハハハハハ! ハハハハハハハハ! やめませんやめませんハハハハハハ!」
ビュンビュンと私から距離をとる敵、全く近づけません。
負けじと私が跳躍すれば、相手は下方へと滑り込み……
埒が明きません。私も飛びたい、ズルい……!
「ハハハハ! ハハハ……あ、そうだ。エエト、攻撃でしたな……ウウーン、闇の……闇……ア!」
「む……ッ!?」
「ッ!!」
「ハハハハハ! ハハハハハハハバッ……! ん゛っ! ……むせました失礼ハハハハハハ! ハハハ――――」
予感。
全身が総毛立つ感覚。
なにかまずいものが、くる。
「リリデスッ! すみません、モジャだけを全力で庇いますッ!」
「了解ですッ!」
「――――《禍》」
「……ッ!?」
見たこともない魔法が展開。
老紳士にまとわりつくように渦巻く、真っ黒な影。
それらが凄まじい勢いで、数千の矢のごとく我らに襲いかかります。
まるで殺意の塊のような、圧倒的なエネルギー。
「《禍》、《禍》。《禍》、《禍》、《禍》《禍》《禍》《禍》《渦》《渦》《蚊》……アレ?」
「ァ……ッ! す、すみませ、リリデ……ッ!」
「構いませんッ!」
シルティさんが障壁を縮小。
モジャさんを庇いながら、最低限の範囲で、最高出力の防御。
私は障壁の範囲外にて防御態勢。
しかし構いません。むしろこれは信頼の証でもあります。
私であれば乗り切れるという、シルティさんからの最大級の信頼。いや、もはや愛。
愛には愛で応えねばなりますまい。乗り切りましょうとも。根性で耐え……。
耐え……っ。
…………。
「あう……ッ!?」
……ま、まずいです。
これ…………ッ。
「…………ッ!!」
すっごい、痛い……ッ!
「ぐぅ……ッ! リ、リリデス……ッ! 大丈夫、ですか……っ!?」
「だ、駄目です! すっごい……すっごい痛い……ッ! ……ああ!? 一張羅の修道服がボロボロに……!」
「…………すっごい大丈夫そうですね、良かった……」
「それよりそちらは!?」
「なんとか……。モジャ、怪我はありませんね……?」
「はひぃ……はひぃぃ…………!」
周囲を見ると、大広間は既に壊滅状態。
背面の壁は破壊し尽くされ、もう何も無いも同然。
部屋が繋がってしまいました。
「な、なんという……!」
この破茶滅茶な威力。「矢」という表現は間違っていたようです。
そう、これはまるで……。
…………。
……特に思いつかないので保留にしておきますが……。
「あれえェ!? オカシイな!? オカシイな!? オカシイな!? 全員死んでない……!? 死んでない、死んでない、死んでない!?」
「どうです見ましたか! 我らが信頼と愛の力を!」
「愛……? ……しかしまずいですね、これではジリ貧です……。私も攻撃に転じたい所ですが、護りながらでは……」
「ご、ご、ごめ、ごめんなしゃいいぃ……ッ。ひっ、ひっ……! あ、あ、足手まといでごめんなさいぃぃ……!」
「いいえ、謝るべきは私です……! 攻撃を任されながら何もできないとは……」
「なんとか打開策を見つけないと……。リリデス、こう……目から怪光線とか出せませんかね……」
「私をなんだと思ってるんですかシルティさん……!?」
「冗談はさておき、とにかく攻撃の方法を探しましょうか……。先程の攻撃、私の知る魔法体系とは完全に別物です。予測も出来ませんし、あの威力を真正面から受け続けるのも限界が……」
「むう……。隙さえあれば仕留めにいける間合いではあるのですが……。一瞬だけでもなんとか……」
「ふむ……」
老体のようでいて、とんでもない俊敏性を見せる高機動お爺さん。
単なるすばしっこさならまだしも、飛んでいる相手へ近づくのは骨が折れます。
なんとか隙を作れれば……。隙…………!
「……! あ、あの! あのっ……! す、す、隙……! 作れば、い、いいんですね……ッ!?」
「……え!? モジャさん!?」
「! モジャ、策があるのですか?」
「い、い、一回だけなら、なんとか……た、たた多分……!? で、でももうちょっと近づかないと……! じゅ、10メートル……いや、15メートルぐらい……?」
「一体何を……」
「エエート……他に攻撃、攻撃攻撃攻撃攻撃……? 私には何が可能だったか……不可能性ばかりが……私を……。……アッ! そうだそうだ!」
「! 聞いている暇はありませんね……! モジャ、私にしがみついてください!」
「はひぃ……!」
「いきなりの実戦となりましたが……三人の連携といきましょうか。リリデス、挟み撃ちの形で……!」
「はい!」
まさに戦闘らしくなって参りました。
モジャさんが加わった、我らが「シルティ同胞団」。
初の連携作戦。開始です――!




