3.罠を学ぶ
「こ、ここですか……。例のダンジョンというのは……」
馬車に揺られて小一時間。
やってきました初心者訓練ダンジョン!
準備はバッチリ! ローストビーフの赤身の割合たるや最高!
大変によろしいサンドイッチが出来ました! 自信作です!
「三枚もつまみ食いしちゃいました。ふふふ」
「リリデスがズルいことをしてますよモジャ。叱ってやってください」
「は、はぁ……。あの、ええと……一応ここも古代のお墓……なんですよね? 何故初心者用……?」
「ええ、二千年近く昔の墓と推定されています。元々は普通のダンジョンとして攻略されたんですが……。とにかくビギナーには丁度いい難易度なんですよ、アンデッドの強さも、トラップも。そこに目をつけた冒険者有志が国の協力の下にダンジョンを改装……より安全な教育ダンジョンへと生まれ変わらせたのがこちらです」
「敵をどんなに粉々にしても死霊術で周期的に復活するんですよ! 戦闘訓練としても最適なんです!」
「はあ……。ということは危険はないんですかね?」
「全くない訳ではありません。最下層にいるドラゴンゾンビは新米には手強いでしょう。これを攻略できれば初心者脱出といった所でしょうか」
「え!? ド、ドラゴンがいるんですかここ!?」
「とはいえゾンビ化してますし、あれこれ弄って弱体させてますので大したことありませんよ。モジャ、あなたはここで安全快適な探索を行えるような支援技術を学んでください」
「わ、分かりましたけども……。っていうかドラゴンのゾンビがいるような所でサンドイッチを……」
「臭くはないですから大丈夫ですよモジャさん! 見た目滅茶苦茶グロいですけど」
「乾燥してるので匂いはありませんよモジャ。見た目滅茶苦茶グロいですけど」
「滅茶苦茶グロいことは確定路線じゃないですか……!? に、肉入りのサンドイッチをそこで……」
「入り口に利用者名簿があります。必須ではありませんが、日にちとギルド名を書いていきましょう。マナーです」
「普通に流された……」
「ほらほらモジャさん。早速書いてみましょう! ギルド名!」
「わ、私がですか? ま、まだちょっと、書くのは全然……」
「一文字一文字私が教えますから! ほら、『シルティ同胞団』と……」
「『導きの光』でお願いします」
「マスター命令でーす。シルティ同胞団でお願いしまーす」
「……。…………」
「シルティさんものすっごい不服そうな顔してますけど……」
「大丈夫でーす。ここはシルティ同胞団だから問題ないでーす。書いてくださーい」
「…………。………………」
「無言の圧が……。え、ええと、シ……シ? シ、ル……?」
指で教えながら、大きな字でゆっくりと書かせます。
シ・ル・テ・ィと……。
我がギルドにおける聖なる文字。
早めに覚えさせねばなりますまい。
「良く出来ました! お上手お上手!」
「えー……なんかめちゃくちゃじゃないですかぁ……? 難しい……」
「ちょっと待ってください。これでは私が個人で来訪した様ではないですか。せめて『同胞団』もしっかり書いてください」
「あっ……。おっきく書いちゃったので枠が……ど、どうすれば?」
「これで十分ですよ。さあ早速ダンジョンへ!」
「…………。……………………」
「さっきからいらぬ禍根を残してません……?」
無言の抵抗を続けるシルティさんを押しつついざ入場。
ダンジョンは地下へと続く三層構造。各部屋には抜け道も多数作られております。
苦手な箇所はスルーも可能な親切設計。至れり尽くせりですね!
「……ではモジャ、気をつけながら先頭を歩いて下さい。あなたの訓練ですので」
「あ、危なかったら助けてくださいよ……!?」
「なんと言いますか、ちょっと……いや、かなり楽しみですね、ふふ」
以前来た時は訓練を受ける側でしたが、今回は見守る側。
新人教育をするのは初めてですが、こんなにもわくわくするとは。
……と、うきうきしつつ最初の小部屋に差し掛かりますと、モジャさんが足を止めました。
「うわっ……」
「あれ。どうしましたモジャさん」
「こ、この部屋、トラップありますよね……? 早速ですかぁ……」
「……え? わ、わかるんですか?」
「ほう。どこでそう判断しました?」
「歩いた感触というか……。前方の床下、空洞がいっぱいある感じというか……」
「あ、歩いただけでわかるんですか……!?」
「音の反響っていうんですかね……。なんとなくですけど……」
「流石ですモジャ。この先にはあるトラップが仕掛けられておりますが……内容も推察できますか?」
「うーん……部屋の暗さと装飾で誤魔化してますけど、壁に穴がいっぱい空いてますし……。特定の床を踏めば、槍とか矢が飛んでくるとか……」
「正解です。本来は槍が飛び出してきたんですが……現在は木の棒が飛び出す安全仕様の罠となっております。あなたには簡単でしたかね?」
「うへへ……」
「う、うう……。これ程とはモジャさん、やりますね……!」
「なんでリリデスさんは悔しそうにしてるんですか……」
「過去、リリデスはそのまま突っ込んで棒に小突かれまくりました。それはもう小突かれまくりました」
「い、言わないでくださいよシルティさん……。安全とはいえ結構痛いんですよこれ……!」
「小突かれまくっておりました」
「な、何故三回も言うのですか……!?」
「さてモジャ。危険な床の判別はできますか? 聞くまでもなさそうですが……」
「もちろんですが……。ふへへ、見ていてください」
「……え!?」
「!」
モジャさん、早足でそのまままっすぐ部屋を突っ切っていきます!
まっすぐ! そう、まっすぐです! 私とてまっすぐ突っ切って、そうして小突かれまくったのですが……。
しかし何故かモジャさん、罠を作動させずに次の部屋へと辿り着きます!
何故!?
「うへへへへ……どうです? どうです?」
「え!? な、なんで大丈夫なんですかモジャさん!?」
「踏んでも体重さえかけなければ作動しませんから……。こういう歩法は得意でぇ……」
「なんと。これは素晴らしいですよモジャ。想像以上です」
「す、すごいですか? すごいですかね? えへ、えへへ、ふへへへへへ……!」
「凄いです! 凄いですよモジャさん!」
ミナトさんが彼女の足跡を見て驚愕しておりましたが、その意味が分かった気がします。
こんなことが出来る冒険者、今まで見たことも聞いたこともありません。本当に凄い……!
かくして危なげなく最初の部屋を突破です。この調子であれば次も問題なさそうですね!
「では我々も続きますか」
「…………え?」
「せっかくですし」
「……。いやシルティさん、抜け道もありますし……今回はほら、モジャさんの……」
「いってみましょう、リリデス」
「…………」
「ああぁ痛い! 痛い痛い! ああっ、ああぁぁ……っ!」
「小突かれまくっておりますねモジャ。小突かれまくっておりますよ」
「小突かれまくってますねえ、ふへへ」
「い、いちいち言わなくてもいいですから……っ!」
「小突かれまくってますよモジャ」
「小突かれまくってますねシルティさん」
「だから何で繰り返し言うんですか!?」
……なんだか非常に嫌な予感がしてきました。
これ、モジャさんではなく私の訓練になりそうな……。




