2.ダンジョンを学ぶ
「――そろそろ、モジャのデビューといきますか」
「はひっ……。え、デビュー?」
優しく学習を見守り続けてくれたシルティさんが、声を挙げます。
私には分かっておりました。頃合いを見て、手を差し伸べてくれるということに。
これぞ信頼。むしろ愛。ああ……なんだかますますシルティさんと通じあえている気がしてなりません。
ああ、ああああ。シルティさんと……。通じあえて……。
「どうしましたリリデス」
「んあッ!? い、いえいえ。なんでもありませぬるぞい!?」
「なんでもありそうですが……。……モジャもここに大分慣れてきたようですし、そろそろ冒険に行ってもいいかな、と思うんですが。どうですリリデス?」
「ええ、ええ! 大変に良いかと思います!」
「ふへぇ……そうですねぇ、のんびりなのもいいですが……そろそろ腕も鈍っちゃいそうですしねぇ……」
「お、モジャもやる気ですね。……実はダンジョンにでも行こうかと」
「ダンジョン! 良いですねえ、シーフにはうってつけかと!」
「はあ……。あの……基本的なことで申し訳ないんですけども……ダンジョンって、そもそも何なんですかね? なんとなくは分かるんですけども……」
「ダンジョンと呼ばれる物は複数ありますが、その多くは古代の墓です」
「はあ。お墓なんですかぁ……」
「ええ。過去、この地に流れる大河を中心に文明が栄えまして。何千年もの間、多くの集落や都市、国が出来ては滅んでいったらしいのですが……。有力な王や長が亡くなった際、副葬品として様々な宝物を収めたんです。金銀財宝にマジックアイテム等々……」
「『死後の世界』にも持っていけるよう、物品を共に埋葬する……古来からよくある習慣ですね! 死後の世界などありませんが。死後の世界などありませんが。死後の世界など」
「リリデスさんの圧が……」
「気にしないでください。……しかし盗掘の被害が多かったのでしょう。段々と迷宮のような墓を作ったり、トラップを仕掛けたり……古代魔術を利用した仕掛けや死霊術、わざわざ魔物の生態系を作る等の工夫が凝らされるようになっていき……。それが今では『ダンジョン』として呼ばれるものになりました」
「はへー……」
「……あれ? よくよく考えますと……我々のやってることってほぼ盗掘と変わりない気がしてきますね……」
「建前上は『調査』となっています。取得物、一旦は国へ提出するでしょう? 一応学者達があれこれ調べてるんですよ。歴史的に貴重なものであれば直接買い取ってくれますし」
「あ、そうだったんですか……。しかし調査にしては大分杜撰というか……。あれって税金徴収が為の制度だとばかり」
「実質それが主目的ですがね。……そうだ、モジャも覚えておいてください。貴金属や魔具等の戦利品は、国の方で査定した後に金額換算されるんですが……。我々はその約一割を税として収めねばなりません」
「? それって最初から報告も提出もしなかったらちょろまかし放題じゃないですか? ふへ……」
「まさか。嘘や虚偽報告は一発でバレますよ。恐ろしい精神魔法があるんですから絶対にやめてください。本当の地下牢にブチ込まれますよ」
「毎年、数件のギルドが脱税で崩壊しているとか……」
「……な、なんかお二人とも顔が険しく……」
「過去、ここの前身となるギルドのマスターがやらかしかけましてね。……私の加入直後に」
「噂は聞いております……。クレインさん、泣き喚きながら土下座行脚したとか……」
「そんなもんじゃありませんでしたよあの醜態は……。言うも憚られるような……。ああ、思い出しただけで気分が……」
「き、気をつけます……本当に……」
「……話が盛大にズレましたが。とにかくダンジョンへ行ってみようかな、と。恐らくあなたの力を発揮できる一番の場所ですし」
「はあ……」
「ところでシルティさん。具体的にはどちらへ? 未攻略ダンジョンですか? それとも攻略済みの?」
「私の見立てでは、彼女の技術は既に一介の冒険者のレベルを遥かに超えておりますが……。最初はやはり安全安心な場所で経験を積ませたいなと」
「と、なりますと……」
「ええ。あそこへ行きます。訓練用の……」
「あそこですね! 了解です!」
「?」
「ではモジャさん! 明日、我々はダンジョンへと向かいます! その名も通称……」
「通称……?」
「初心者訓練ダンジョン!」
「初心者訓練……?」
今や氾濫する冒険者。
しかし初心者が冒険者を名乗った所で、実力なければすぐに潰えるのが実情。
その実力を補い、成長させられるような、新人教育用のダンジョンがあるとしたらさぞ良いことでしょう。
……そう、あるのです!
初級冒険者が、安全に学べるダンジョンが!
私もギルドに入りたての頃に赴いた、初めてのダンジョンが!
「私もお世話になりました! 特に罠の対処ですとか……」
「未だにひっかかりまくってるじゃないですかリリデス。以前も即死トラップで悶絶してましたし」
「あれは痛かった……本当に……」
「即死の意味とは……」
「と、とにかく! そうと决まれば早速準備ですね! モジャさんは心の準備と、装備等の点検を!」
「は、はひっ」
「シルティさんは彼女の効率的な学習のため、各種準備を!」
「了解です」
「私は明日のためにサンドイッチを作りの準備をば! 最下層で食べましょうねモジャさん!」
「ピクニックか何かで……?」
「ローストビーフ入りでお願いします。トマトも忘れずに」
「もちろんです!」
「ピクニックだ……」
シルティさん大好物のローストビーフは時間のかかるお料理!
今から準備せねばなりません!
明日の冒険が楽しみでなりません。ふふふ……。




