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1.文字を学ぶ

「……今日はとてもいい天気です。みんなお散歩を楽しんでいます」


「きょうは、とても、いいてんきです。みんな、おさんぽを、たのしんで、います」



 陽光差し込む事務所。

 私の発音と共に、モジャさんの発音が続きます。

 テキストをゆっくりと丁寧に、繰り返し、繰り返し読む時間。



 暇さえできれば、モジャさんとつきっきりで文字のお勉強です。

 音読されゆく言葉の数々が事務所内に溢れ、どこかへと消えていきます。

 穏やかに、淡々と。……とても、平穏な時間です。



「……シルティさんは気高く、美しい、導きの光であらせられます」


「しるてぃさんは、けだかく、うつくしい……」


「妙なテキスト使わないでくださいませんか……」




 ――モジャさんがギルドに来てから一週間。

 まだ彼女は正式なギルド員ではありません。

 戸籍がいまだ作れておらず……。手続きにはまだ少し時間がかかりそうです。


 とはいえ、実質的にはもうギルドメンバー。

 マスターの私がそう言うのですから、そうなのです。

 大事な大事な、三人目の仲間。



 なのですが……。



「い、いやあ。まさか害虫駆除業者だったとは……」


「冒険者ギルドです……」




 そう。我々、全く「冒険」が出来ていないのです。

 まさか駆除業務が軌道に乗るとは思わず……。

 今や一日数件の仕事をこなす日々。

 戦利品の蜂の巣がギルド内に満ちております。



「いいんですかねシルティさん……?」


「あまりよくはないです」


「ですよねぇ……」



 駆除、お勉強、事務作業で終わりゆく日々。

 活動報告に「敵対生物処理」と記載するのは気が引けます……。

 平和なのは何よりですが、やはり冒険者としてはここらで一つ行動を起こさねば。

 ……なんですけれども。




「ふへ……お勉強って、楽しいですねぇ……」


「楽しいですねえ、とっても……!」



 モジャさんとのお勉強が、こちらも大変に楽しく……!

 とにかく教えがいがあると言いますか。彼女の集中力たるや凄まじいのです。

 一度始めると、脇目も振らずに没頭、没頭、没頭……。こちらとしても期待に応えなくてはと、教材の準備に余念がありません。

 冒険の準備どころではなく、ついつい……。




「ふふ。しっかり読めているようですし……もう少し難しいテキストにしてもいいかもしれませんね!」


「そ、そうですか? ふへへ……ガンガンいっちゃってください……!」


「ではいきなり上級者用テキストを使っちゃいましょうか! 飛ばしちゃいますよ!」


「お願いします、うへへ……」


「……死は生命存在の基底を成す決定的要素であることから、これを眠りとして感覚的に捉える類推作業は虚無的悟りへ至る観想法となるだけでなく、存在の意志的本質への……」


「しは、せいめいそんざいの…………?」


「そのテキスト没収です」



 そんなこんなの日常です。

 楽しい楽しい日々ですが、マスターとしては失格かもしれません。



 だけど大丈夫。

 私にはシルティさんなる、優しき導きの光がおりますから。

 欠けた所を補ってくれる、暖かな銀の光が……。


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