14.盗人モジャ
「――おやリリデス、随分早いですね」
「おはようございます! シルティさんこそ随分と……」
「あまり眠れませんでしたので」
「私も同じようなものですよ」
翌朝。
いつもより早くに事務所へ。
昨日の今日でほとんど眠れていない。
モジャのことばかり考えていた。まるで遠足の前日のようだ。
モジャとは遠足なのかもしれない。
「モジャが遠足だとしたら、我々は子供の時からモジャを嗜んできたのかもしれませんね」
「シ、シルティさん、少し眠った方がよくありませんか……!?」
「失礼。興奮醒めやらずで」
「コーヒーでも淹れましょうか……」
頭をリセット。
コーヒーが脳に染み渡る。
染み渡った所で、モジャを考える。
今日はモジャ日和となるだろう。
「今日は一日、ここで待つ他ありませんね」
「何もせずな一日にならねば良いのですが……」
「彼女が来る前提で話をしましょう。まず戸籍を作らねばなりません。ギルド加入に身分証明は必須です」
「そして何より教育ですね! 読み書きを覚えてもらって……私が全身全霊で教えましょう!」
「教えてもらうだけではなく、彼女の技術についてもご教授願いたいですね。興味深いです」
「忙しくなりますねえ」
「ええ。一層充実するでしょう。彼女が居てくれたら……」
「もう居たりして……ふへ、へへ……」
「ギルドにも真っ当な仕事が舞い込んだりですとか……」
「頭数は大事ですしね。何より探索において、彼女の技術はきっと重宝するでしょう」
「期待が高まりますね」
「ええ」
「……」
「……」
「……」
「ッ!?」
「ッ!?」
「あ、あ! ご、ご、ごめんなさ……っ! ちょ、ちょっとサプライズしようと……っ!?」
モジャ。
モジャだ。
モジャがいる。
モジャだ。モジャだ。
「モ、モ、モジャさん!? い、いつから……ッ!? え!? 侵入してたんですか!?」
「い、一時間ぐらい前から……」
「最初っからじゃないですか!? いやいや、言ってくださいよ!?」
「い、いや! いやですね!? で、出ていこうとしたら……なんか、遠足どうのこうのって支離滅裂な発言で、ちょっとこう……タイミングを失いまして……」
「シルティさん……」
「失礼。失礼しました。失礼、失礼……失礼」
失礼失礼もそこそこに。
彼女の小さな手を、また力強く握った。
「モジャ。来てくれると、信じていました。信じていました……」
「あ、あの……。私もちょっとまだ、よく分からなくて……。でも、今よりはいいのかなぁ~? って……。あの、そのぉ……お、お試し期間といいますか……?」
「ええ、ええ。それで構いません。構いませんとも」
「そ、それに……あんなに強く誘われたことも、初めてでしたし……ふへ……」
「よかったですねえシルティさん……! モジャさん、これからよろしくおねがいしますね!」
「あ、その……っ。こ、こちらこそ……。よ、よろしくお願いしますです……!」
「よろしくお願いしますモジャ。よかった、本当によかった……」
「今日は祝杯ですね!」
「ええ。飲みましょうとも」
「あ、お酒あるんですか? うへへ……私、目がなくって……」
身分なき彼女。
正式なギルド加入は、少し先となろう。
しかし、それでいい。実質このギルドの、三人目。
盗人モジャ。このギルドにとって、大きな、大きな戦力となるだろう。
きっと、良いギルドとなる。
「あ、それで、その……私、何したらいいんですかね……? ぼ、冒険者ギルドって、よくわからなくって……? お仕事って……」
「……あ、シルティさん。折角ですし……早速『お仕事』いってみます? 三人で……」
「あ。……そうですね。確か一件……」
「さ、早速ですか……!? は、初仕事……き、緊張しますね……?」
「ええ。まあ……」
「ええ、まあ」
「よ、よろしくです、ふへ……」
「――ええとそれでは。今回のお仕事はですね……」
「はい」
「…………え?」
「ここのお宅の、シロアリ駆除を……」
「………………? あの、冒険…………?」
「…………」
「…………」
「え、えぇえぇ…………?」
4章 盗人に光を ~終~
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