8.盗人発見
「……ふむ」
「こちらの方が……モジャさん?」
「そのようですが」
「……」
「うっへへええあぁ……? ああぁ、だあぁ、だ、誰でええすかあああぁぁあ? う、うへへへへへあああぁあぁ……」
容疑者発見。
多少身構えていたが、その必要もなかった。
呂律が回っていない。寝転びながら涎を垂らし、酒瓶を抱えている。
要は泥酔している。
「……。こ、この方なんでしょうかシルティさん」
「小柄で細身ですね」
「うへへへえへへ、へええぇ? こあらああぁ?」
「大きなタレ目で、そばかすでしたっけ? あってますね……」
「癖毛もばっちりですね」
「くせけええぇ? えええへへへへああぁぁああ? んん? あ、誰えええ?」
「あ、あまり陰気な感じはしませんけれど」
「大変陽気ですね」
「あああぁぁ、うう? あ、もしっ、もしかぁあし、て、店員さあん? あぁあ、おつ、お、酒、あいちゃっつうっへええへへへへえへおかわりぃ」
「……モジャさんですかね?」
「モジャでしょうね」
「ああぁぁっはへへえへへえへえへ」
「どうしましょうシルティさん、酔っ払いまくっておりますが……」
「……あのブリメルとかいう店主の情報が正しいかどうかも分かりません。まずは落ち着いた場所で確認が必要でしょう」
「では……」
「ええ、事務所へ連行しましょう」
「じゃ、運びますね。よいしょ」
「うへええ? ああ、高ぁあああい、うへへへへえ、た、た、楽しいいいぃれすねえええ? うへっへへへえ」
「随分楽しそうですね……」
「酔ってますからね」
「――あ゛゛あ゛゛ああ゛゛ぁ゛゛あ゛゛ぁ゛゛あ゛゛あ゛゛ぁ゛゛ああ゛゛あ゛゛!!? あ゛゛あ゛゛ぁ゛゛あ゛゛ぁ゛゛あ゛゛あ゛゛ぁ゛゛!!?」
「随分怖がってますね……」
「酔いが醒めましたからね」
ギルド事務所。時は夕刻。
推定犯人がようやく目覚めた。
椅子に縛り付けられながら、状況を把握せんと必死である。
「な、な、ななな何でえぇぇえぇ……!!? 何っ……縛……っ……はぁーっ、はぁーっ。はぁーっ……!?」
「ええと……はじめまして、私はリリデスと申します。こちらがシルティさん」
「リ、リ、リリデ……ああぁぁああっ!!? こ、ここここここおぉ……っ!!? はぁっ、はぁっ、はひっ……」
「私はシルティです。ここがどこか、やっと気付きましたか?」
「……っ! は、はぁっ、はぁっ、はぁぅ、うえっ……はぁっ……!」
全身汗だくで、今にも泣き出しそうに震えている。
なんだかこちらが悪いことをしている気がしてきた。
「さて、早速尋問を始めます。あなた、モジャで間違いありませんね? 昨晩、ここから盗みを働きましたね?」
「…………っはぁーっ、はぁっはぁっはぁっ……!」
「お答えください」
「も、も……ッ、も、も、も……、黙秘、黙秘しま…………っはぁーっ、はぁーっ……! も、黙秘ぃぃ……っ!」
「も、黙秘ですか? 意外と強情ですね……」
「リリデス、ちょっとハンマーを素振りしてみてください」
「こうですか? えい、えい」
「私がや゛り゛まし゛た゛あ゛ああ゛ぁ゛あぁ゛あああ゛あごめ゛ん゛な゛ざい゛い゛ぃぃ゛いいぃぃ゛い゛ぃぃ…………っ!!」
「落ちましたね」
「早かったですね……」
「殺ざな゛い゛で゛え゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛ええ゛ぇ゛ええ゛ぇえ助げ……あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁあっぁううう゛う゛殺ざ……殺ざな゛い゛で゛え゛ぇ゛え゛ぇえ……っ!」
「こ、殺しませんから落ち着いてください……! ほら、顔拭きますよ」
「う゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ええ゛……! う゛え゛えぇ゛ぇぇ゛ぇえ゛え゛ぇ…………っ!」
汗と涎と涙と鼻水を垂れ流しながら許しを乞う犯人。
また顔から汁を垂れ流す人間を見た。嫌な縁である。
汁はまあいいが、話せる状況にないのは困る。
「ひっ、ひっ、うう、ううううぅ……殺ざな゛い゛で゛ぇ゛え゛……殺ざな゛いで゛ぇ゛ぇ……ひ、ひっ、ひぃんっ……」
「参りましたね。なんとか落ち着いてもらいたいんですが」
「落ち着かせる……。……どうやら私の出番のようですね」
「……。…………」
「アッ! シルティさん、『またろくでもないことを……』とか思ったでしょう!? 今のはちゃんと分かりましたよ!!」
「またろくでもないことを……」
「な、なんではっきり言葉にするんですか……!? いいからお任せください、こういうの得意なんですから!」
「……まあ私には打つ手ありませんから、お任せしましょう」
「では少々お待ち下さい、準備してきますので!」
「うう、うううぅ……? ひっ、ひっ……」
「――第三段! カルラン紙芝居のはじまりはじまり~!」
「……………………」
「う、うううぅ……うぇ……?」
地獄の蓋がまた開く――。




