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7.盗人の情報

「――モジャ?」


「ああ。モジャっつー女が犯人だ。今朝ここに来てそいつを売っていったよ」



 モジャ。犯人の名前は分かった。

 しかし望んだ物がすぐ手に入ると、訝しく思うのが心理。

 リリデスも同様に感じている様子。



「す、すみません、ここって、盗品を扱ってるんですよね? その……あっさり教えてもいいんですか?」


「さっきも言ったが、そいつに関しては守る義理がねえんだよ。もう『ギルド』のメンバーじゃねえからな」


「ギルド?」


「……いわゆる『盗賊ギルド』という奴ですか。聞いたことはありますが……」


「え、なんですかそれ……? そんなギルド認められてるんですか?」


「非公認の裏ギルドでしょう。恐らく公にできないような仕事の斡旋や、盗品の流通を目的としているのでは?」


「ま、大方そのとおりだ。個人で盗品をさばくのにゃ限界があるからな。盗みを生業とするろくでなしには、安定した流通経路が必要なんだよ。そうして誕生したギルドだ」


「ははあ……。つまりここのお店がその『経路』ということでしょうか?」


「いや、ここに置いてんのは流通に乗せられなかったガラクタだけだ。一応足がつかなそうなものだけ選んではいるが……。あとは外部からの持ち込みを適当に買い叩いたり。アンタの篭手は後者ってわけ」


「……。つまり非ギルド員であれば、いくら足がついても構わない、と」


「ははは聡いな、その通りだ。野良のシーフ共なんざどうなろうと知ったことではないからな。情報売ってくれっつーなら売るわけだ、今みたいに」


「よ、よく利用しますねこんなお店……」


「ギルドに加入できない奴、不義理を働いて追い出された奴の末路はな、そんな店でも利用しなきゃやっていけないのさ」


「世知辛いですねえ……。ではそのモジャさんという方は、何か粗相をして盗賊ギルドを追い出されたということでしょうか?」


「あいつの場合はよく分からん理由で抜けていってな……。とにかく今じゃ義理もないんで、こうしてアンタらに教えてる、と」



 存外ぺらぺら喋る。

 この情報が正しいとも限らない、信用は出来ないが……。

 しかし他に頼れる物もない。ひとまず「信頼」する他あるまい。



「……大体の事情はわかりました。では本題に入りましょう。そのモジャというシーフですが、まずは特徴をできるだけ教えてください」


「小柄で細身、大きくてどんよりしたタレ目、そばかす、挙動不審でどもりがち、自信なさげで臆病。年齢はアンタらと同じぐらいかな? 一番の特徴はボサボサでモジャモジャの真っ黒な癖毛。だから通称『モジャ』」


「ええと。細身で大きくて、そばかすが挙動不審で年齢が一番真っ黒」


「リリデス大丈夫です」


「はい」


「……まあ一目見りゃ分かるとは思うな。ジメッとしてるっつうのか……とにかく陰気な奴だ」


「で、その方は今どこに?」


「そこの酒場に入ってったぞ。ほら、あそこだ。恐らく朝からずっと飲んでるな。すんなり捕まえられるだろうよははははは」


「ところでそのモジャ、シーフとしての腕はどうなんでしょう」


「……優秀なんだが、単独行動を好む奴でな。詳細な技術についてはよく分からん。というか、抜ける直前に才能の一端が分かったっつーか……」


「というと?」


「いや、まあこっちの話だ。色々あったんだよ色々……。とにかく奴はもう抜けた、そういうこと」


「……分かりました。有益な情報の数々、ありがとうございます。助かりました」


「本当にありがとうございます! ええと……」


「ブリメルってモンだ。ま、今後ともよろしくお嬢さん方」



 あまりよろしくしたくない相手ではあるが、まあいいだろう。

 とにかくモジャという名のシーフだ。彼女さえ捕まえれば、事は終わる。

 今後スラムに来ることもあるまい。



「しかし噂ってのは信用ならねえモンだな」


「え? 何がです?」


「アンタら、冒険者やめて害虫駆除業者立ち上げたって聞いたもんでな。奇天烈な噂もあったもんだなあってははははは!」


「…………。行きますかリリデス」


「……え、ええ。行きましょうシルティさん」


「? おう、気を付けてな」


「…………」


「…………」


「……?」








 ……教えられた酒場へ。

 日中だが、思いの外飲んでいる人間が多い。


 

「ではさっさと探しますか」


「はい。ええと、細身で小柄……」


「……おお!? なんだでっけえ修道女の姉ちゃんが来てんぞ!? お酌しにきてくれたぜみんな!」


「珍しいなあ、なんでこんなとこきてんだ? 懺悔させてくれえええはははは!」


「……おや」



 順調だった道中とは違い、酔っぱらい相手にはお導きの効果も薄いと見える。

 やはり特異な格好と背丈が目立つのだろう、凄まじい声量で散々に卑猥な雑言を投げかけられるリリデス。

 これぞ裏通りの酒場、というものだろうか。

 私にとっては新鮮であるが、ちょっと辛い。リリデスは尚更だろう。



「……たまりませんねこれは。大丈夫ですかリリデス?」


「ふふ、これぐらいは慣れっこですよ。いわばここの挨拶みたいなものですから、気にするだけ無駄というものです」


「おや、落ち着いておりますね。流石です」


「この程度で心を乱しては布教もままなりませんでしたからね。気にせず犯人を探しましょう!」


「……おぉ!? 銀髪の嬢ちゃん結構ケツでけえな!? 一揉みいくらだァ? 今晩買うぜガハハハ!」


「殺しますね」


「リリデス。落ち着いてくださいリリデス」


「殺す」


「リリデス。リリデス」



 目の据わるリリデスを引きずりつつ、急いで店内を見渡す。

 しかし、どうもそれらしき姿が見当たらない。

 素直に店員に聞く。



「すみません、モジャという方は来ておりませんか」


「モジャ? ああ、朝から個室でずっと飲んでんぞ。知り合いか?」


「ええ。約束してまして」


「おう、こっちだ」



 聞いている間、リリデスが酔っ払いを次々締め上げていた。

 全員大人しくなっていった。

 一般的な意味である。

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