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6.盗人の店

「――はい、いらっしゃ……うおっ、修道女……?」



 入店するや驚く店主。

 彼女がリリデスとは分かっていない様子。

 宗教勧誘(暴力行為)は受けていないようだ。



「妙な雰囲気の店ですね、リリデス」


「入るのは私も初めてでして……。少し緊張しますね」



 案外広めな店内。

 客は他にいないため探しやすいが、商品の置き方が随分乱雑だ。

 同じ棚に武具や消耗品、謎の薬物等、目線が定まらない。まさに混沌。

 ……。



「うーん。どこから探しましょうか?」


「ほう。ふむ。……ははあ」


「? シルティさん?」



 入店前にリリデスにも指摘されたが。

 妙にこう、なんというか。正直、楽しい。

 今まで触れたことのない世界に足を踏み入れるのは、大変に興味深い。

 こと秩序を重んじる教育を受けてきたためだろうか。こういった雰囲気には耐性がない。



「あ、見てくださいリリデス。変な武器が売っています。投げ輪のような……」


「え? ああ、あれはチャクラムですね。指で回しながら投げるそうで」


「あっ。あれはなんでしょうか? 十字形の……。あれも投擲武器でしょうか?」


「あっ! あれはかのニンジャが使うというシュリケンですよ! 私も初めて見ました!」


「あれはなんでしょう? まるで鞭のような剣が……」


「……ふふふ。楽しんでますねシルティさん」


「あ、失礼。……いやはや、あまり見慣れぬものが多くて」


「意外な一面を見れてこちらも楽しいですよ。篭手探しもいいですが、少し二人で見て廻りませんか?」


「ああ、いえ。気を使わせました。早く捜索を……」


「冒険は楽しむことも大事! ですよねシルティさん?」


「……。少しは寄り道を楽しみますか」


「ええ!」



 珍妙な武器防具はもとより、怪しい薬物、変装グッズにピッキングツール、拷問器具らしき何か。

 普通の店では見ないものばかり。褒められた所ではないのだろうが、だからこそ面白い。

 あれこれ興味を惹かれ、子供のようにリリデスに問いかけてしまう。



 それにしてもリリデス、武具に関して博識である。

 名前や使い方等、詳しい解説を逐一加えてくれる。

 知らなかった一面が垣間見れた。



「驚きましたリリデス。あなた武器に詳しいのですね」


「え? ああ、その。以前色々ありまして……。一通りは学んだといいますか」


「その『色々』、是非お聞かせ頂きたいものですが」


「う、うーん……面白い話でもありませんし……。隠すことでもないんですが、まあ、追々……」


「楽しみですね、追々。あなたの過去話、かなり興味があります」


「いやいや、そんな大したものでは……。あ、シルティさん。あそこに篭手がずらっと」


「おや。あなたのはありますかね?」


「あればいいんですけどもねえ……そう簡単にはいきませんでしょう」


「あ、ちょうどあんな篭手でしたね。ほら、あそこの。黒くて、少し錆びていて」


「あ、確かに似てますね! そうそう、ちょうど小指あたりに傷が……あんな風に」


「……。イニシャルも入っていますね.」


「……? …………」


「…………」


「…………」








「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」








「ッ!? な、なんだッ!?」



 リリデス絶叫。震える店内。

 私とて声をあげそうになった。そりゃそうだ。

 店主が驚愕して駆け付ける。



「お、おいおいお客さん……!? いきなりの大声は困……」


「あ、あ、ありましたッ! ありました、ありましたよッ! ()()()()のッ!!」


「…………!」




 似た篭手じゃなかった。

 間違いない、リリデスの篭手だ。正真正銘、盗まれた篭手。

 まさかいきなり見つかるとは。これもお導きのおかげだろうか。




「……流石に驚きましたね、これは」


「て、店主さん店主さん! あの、是非ともお聞きしたいことが……!」


「…………」


「!」



 「盗まれた」で察したのか。

 店主の両脇に二人、剣を携えた男。

 まだ抜いてはいない。しかし臨戦態勢。

 楽しい時間は終わり、一転緊迫した状況へ。



「……買い物すんなら歓迎しますがね。詮索するなら退店願いますよお客さん」


「! ……どうします?」


「ふむ」



 少し考える。

 強行突破は容易だろうが、下策。

 裏社会の人間、屈服させて情報が得られるとも限らない。

 何より、この地域で活動が難しくなるのは避けたい。

 篭手もそうだが、我々が求めているのは金庫の金と犯人の情報だ。



 だが正直、駆け引きには自信がない。

 どう交渉しようか迷っていると、リリデスが口を開く。



「……店主さん、私達は事を荒立てるつもりはありません。ただひとつお聞きしたいことが」


「詮索は断ると言った。退店願おう」


「あの篭手は盗まれた品です。無料で返せとは言いませんが……せめて犯人の情報をお聞かせ頂きたく……」


「問答するつもりはない。出ていけお前ら」




 問答したい所だが無用ときた。

 なれば下策に頼らざるを得まい。

 柄に手をかける。相手も同様。一触即発。



 ……即発寸前で、脇の男が何か気付く。




「兄さん、篭手って……。もしかして()()()持ち込みのアレでは?」


「ん? ……もしかしてアレか? ……おい、あんたら。探してるのって、アレか? あの黒いの」


「? ええ、そうですが」


「あー……? なんだ、アレなら別に……でもな……うーん……」


「い、いや兄貴。どう見たって外部の人間っすよ? 追い出すべきっすよ……」


「しかし荒事は好ましくないですよ兄さん、可能であれば穏便に……」


「うーん……」


「……?」



 急に態度が軟化。三人であれこれ方針を考えている。

 その間も顎髭をいじりながら、こちらを伺う店主。

 すると、気付いた。



「……ちょっと待て、デカい修道女……お前、まさかあのリリデスか?」


「はい。そう申しますが」


「え!? 兄貴、リリデスってあの……!」


「分かってるよ、例の化物だろ。うーん……」



 暴力のお導きがここで効いてきた。

 盗賊団討伐の一件が大きいのだろうか。

 アウトローらに恐れられるのも分かるが。



「するとこっちの銀髪の嬢ちゃんは……シルティか」


「え!? 何故シルティさんまで知って……」


「そりゃそっちも有名人だしな。そうか、リリデスとシルティが……」


「兄さん、ここはやはり……」


「……そうだな。……よし分かった。ほら、この篭手返すよ嬢ちゃん」


「……え? あの……普通に返していただけるんですか? 」


「いいよ、サービスだ。二束三文で買い叩いたもんだしな」


「……随分と態度が変わりましたね。どういう意図です?」


「そりゃアンタら相手に荒事なんざ起こせんだろ……。……第一その篭手盗んだ奴、別に無理して守る義理ねえんだ。そんならアンタらと縁でも作って穏便にいった方がいいだろ」


「……。では犯人の情報もお話ししていただけると?」


「情報は売るモンだが……。まあ、そうだなあ……。うん、初回サービスだ。今回だけ無料で教えてやるか」


「シ、シルティさん。なんだか話が美味しすぎる気が……」


「私もそう思います」


「いやいや。情報の売買は信頼関係が大事だろ? 俺の情報が確実だってこと、まずは信用してくれりゃあいいさ。次からはきっちり金取るがね」


「リピーターになるつもりはありませんよ」


「そりゃどうかな? 割とすぐに『次』がくるかもよ、ははは」


「……?」


「まあ座りなよ、茶でも飲みながらじっくり話そうや。いや、毒なんか入ってねえからさ。はっははは」


「……」



 こうもトントン拍子では調子の狂う思いがする。

 とはいえ、乗らない訳にもいかない。


 店主の言った「信頼関係」。

 裏の世界では縁遠い言葉と思ったが……。


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