5.盗人を探す
リリデスと二人、スラムに到着。
貧困層だけではない。盗賊、ギャング、非公認の冒険者等々、ならず者が集う地区。
聞くのと見るのとでは印象も違う。張り詰めた空気が漂っているような、そんな感覚。
「ここには初めて来ました。随分と妙な匂いが……」
「実は私、この地区はそれなりに知っておりまして。ある程度はご案内できるかと」
「ほう、意外ですね。どういった縁で?」
「それこそ布教活動の一環として通っていたんです。ギルド加入前はしょっちゅう」
「……。首尾はどうでしたか?」
「それがさっぱりで……。こういった所でこそ、虚無のお導きが皆さんの力になるかと思ったのですが……はあ……」
「それは良かった」
「な、なんてこと言うんですかシルティさん……!」
「本心です」
「うう……。まあ、布教は大失敗でしたが……その代わり多少の土地鑑はできました。この近くですとよろず屋があったはずです。盗品を扱っているという噂も聞いたことが……」
「心強いですね。私にはここの歩き方がよく分かりませんので。任せましたよリリデス」
「お任せください! 何があろうと、シルティさんを全身全霊でお守りする所存……!」
結果、リリデスは本当に心強かった。
スラムを歩くということにトラブルはつきもの。あれこれ想定はしていた。
が、何も起こらない。彼女の先導の下、順調に目的地へと進んでいく。
……というか、リリデスを認識した住民の三割程が目を背けていく。
途中、往来にたむろするギャングの一団に出くわしたが、無言で道を譲られた。
明らかに避けられている。
「……リリデス、あなた本当に普通の布教活動だけを……?」
「え? もちろんですが……」
「……暴力行為などは」
「…………。し、してません。あんまり」
「…………」
「い、いやいや! ここ、しょっちゅう物盗りに襲われましてね……!? そういう場合、ちょっと小突いて大人しくさせると言いますかね……?」
「『大人しくさせる』というのは……つまりそういう意味で……?」
「いや一般的意味! 一般的な意味です! ちゃんと介抱してあげて、そこから説法を……」
「殴って宗教勧誘は最悪のコンボでは……」
「不可抗力! 不可抗力ですから!」
「……まあ不可抗力に感謝しましょう。無事に歩けるというのは良いことです」
「そ、そうです。この状況こそ虚無のお導き……!」
暴力のお導きにより、何事もなくよろず屋へ。
無秩序な店構えが中々興味深い。
よく分からない隠語の張り紙がたくさんある。
薬物か何かだろうか。
「さてリリデス。調査前に一応言っておきますが……。恐らく、篭手も犯人も見つからないと、そう思います」
「……ええ、分かっております」
「シーフには独自の流通経路があると聞きます。足が付くような所に売るなど、まずしないでしょう」
「とはいえ、やれるべきことはやっておく。ですよね?」
「その通り。可能性は低くとも、ベストを尽くしましょう」
「……ここに来てから、なんだかちょっと楽しそうですよねシルティさん」
「おや、そうでしょうか」
「これも冒険ということですかね、ふふ」
「……見透かされてますねえ」
「『理解』ですよ、シルティさん」
彼女を理解せんと行動を共にしていたが。
先に私の方が理解されているようだ。
案外、悪い気はしない。いや、むしろ。
……彼女の篭手、なんとか見つけてやりたい。
そう願いながら、怪しき店内へ――。




