3.盗人と狩人
「――お久しぶりですリリデスさん。いや、そんなに久しぶりでもないですかね?」
「……!」
「昼のランプ」が幹部、ミナト。
直近の記憶だと笑いをこらえ悶絶していたイメージしかないが、ハンターとしての実力は随一。
彼がいなければ成し得なかった仕事は数多い。
「あ……。その……」
「大丈夫ですよリリデスさん。今日は僕から会いに来たんですから。是非ともご協力させてください」
「……そうですか。ありがとうございますミナトさん……。あの節は本当に申し訳なく……まさかお力になってくれるとは……」
「事情は聞きました。僕らの誰かが犯人の可能性が高いと……。であれば、尚更協力しない訳にもいきませんよ」
「本当に、本当にありがたいことです……! ああ、これも虚無のお導き……」
「積もる話はありますが、とりあえず現場を見ていただきましょうか」
「ええ、もちろん。では微力を尽くしましょう」
「よろしくお願いします!」
狩人の調査が始まる。
流石というか、やはり我々とは見る箇所が違う。
随分と床を気にし、入念に観察している。
「……ミナトさんって、魔物を追跡する時はどういった点を観察してらっしゃるんですか?」
「やっぱり足跡が一番ですかねえ。どんな生き物なのか、いつ通ったのか、何故ここを歩いたのか、どこへ向かったのか、どんな精神状態なのか……いろんな情報が含まれているんです。そこを分析するのが腕の見せ所でして」
「ははあ……。そこまで読まれるんですか、凄いですね……」
「あとは各種マーキングや匂い、食べ跡……。糞からも様々なことが分かりますね」
「なるほど……。泥棒さんも糞とか残してくだされば……」
「最低最悪の泥棒じゃないですかリリデス……。盗んだ上に排泄していくとか完全に精神破綻してますよ……」
「ふ、ふふ……っ。さ、さすがリリデスさん……っ。す、素晴らしい発想…………っぐう……っ」
「ミナト、集中してください」
「は、はい……、す、すみませ……ぐひ……っ」
「ご、ごめんなさい……」
心を乱されながらも、鍵穴、ノブ、窓のサッシ等、細かい所も検証していく。
特に問題の金庫では随分時間を使った。どうも悩んでいる。
そしてしきりに鼻を鳴らしている。
「すみません、最近この事務所、お二人以外に誰か来訪者はいました?」
「いませんね。分裂以降、私とリリデスしか出入りしていません」
「もっと出入りが増えればいいんですけれどもねえ……」
「分かりました。では外も見ていきましょう。事務所の周りをぐるっと」
出入り口、窓のある周辺、床下を見て回る。
顔を地面すれすれに近づけ、匍匐する形でゆっくりと進んでいく。
「……」
「……何してるんですかリリデス」
「あ、いや。私も同じ目線で、と……」
匍匐する狩人の後ろを、這いつくばった化物がズリズリついて回る。
絵面が面白い。獲物を狙う巨大爬虫類にしか見えない。
これを言ったらミナトがまた笑い出しそうなのでやめた。
「……? んん……?」
リリデスオオトカゲを引き連れたミナトが、裏口でぴたりと止まった。じっと地面を見つめる。
爬虫類もじっと地面を見ている。爬虫類には何も分からないらしい、困った顔をしている。
私も見てみるが、分からない。爬虫類と一緒に困った顔をする。
「す、すみません。ちょっとここから動かないでくださいね。極力静かに……風をたてないよう」
「え? わ、わかりました」
周囲を熱心に調査。10分近くに渡り調べ続ける狩人。
念を押されたオオトカゲは立てず、地面にべったり磔に。
相変わらず絵面が面白い。絵心があればスケッチしていた。
「裏口は最近、使ってませんね?」
「ええ。使う必要もありませんから」
「なるほど。……恐らくですけど、ここから侵入したようですね」
「ここからですか? どこで分かったんですかミナトさん?」
「非常に微かなんですが、ここ。歩いたような跡があります。ほら」
「ん?」
爬虫類がずりずりと地面を確認する。
分からないらしい。また困った顔をした。
私も爬虫類と化し確認してみる。
さっぱり分からない。
「え、どこですか……?」
「ここの石段のところ。僅かですが、塵に跡があるんです。本当にわずかですが……。ほら、ここにも。あとここにも」
「……? す、すみませんミナトさん、わかりません……」
「こっちなら分かりやすいですかね? ここの雑草、微妙ながら踏まれたような形跡があります。獣にしては間隔がおかしいですし、やはり人の足跡です」
「……? いや……ううん……?」
「我々には判別が難しいですが……。とにかくここに、歩いた跡があるのですね?」
「はい。ええと、鍵は確かにかかっていたんですね?」
「ええ。やはり合鍵を使ったのかと……」
「……一旦事務所に入りましょうか。見るべき所は見ましたので、僕の考えをお話します」
「わかりました。ではお願……リリデス、いつまで這ってるんですか」
「あ、もう立っていいですか?」
「あはは、もう少しそのままで」
「そうですね。やはりもう少しそのままで」
「……え? え?」
三人、事務所へ戻る。リリデスは這って戻る。
コーヒーを淹れる。ミナトと二人で飲む。
リリデスは飲めない。這っているから。
「あ、あの……!? もう立ってもいいですよね……!?」
「も、もう少し……ふ、ふ……そ、そのままで……ふぐ……っ」
「ええ。もう少しそのままで」
「な、何故……!?」
「あ。動かないでくださいリリデス」
「え……?」
「スケッチしますから」
「だから何故……っ!?」
初めてのスケッチ。
出来はよくなかったが、最初にしてはうまく描けた。リリデスに見せる。
彼女はちょっと怒る素振りを見せながらも、嬉しそうに絵を懐にしまった。
盗品がひとつ増えた。




