2.盗人は誰?
「……まず状況を整理しましょう。盗まれたのは篭手と金庫のお金。これだけで間違いありませんね?」
「お、恐らく……」
「金庫に関しては分かりませんが、篭手は確かに昨晩ありました。で、二人で一緒に戸締まりをして帰りましたね」
「ええ……。それに清掃活動時も施錠はしました。窓も裏口も鍵はかかっておりましたし……」
「これではどこから侵入したかさえも不明ですね。手がかり一つありません」
「これでは自警団を呼んだところで……」
「解決してくれるとは考え難いでしょうね」
「そうでしょうねえ、はあ……」
基本、彼らが行うのは現行犯への対応と防犯だ。
現場を調べ、窃盗犯を追跡するなどはしてくれまい。
というか、しようがないだろう。追う手立てがない。
手がかりがあるとすれば、リリデスの篭手。
あれは一品物のはずだ。イニシャルも入っている。そいつを発見すれば、辿る術はある。
が、熱心に捜査してくれることも期待できまい。
「それにこの状況……。正直、問題を大きくしたくない、という気持ちもあります」
「……もしかして、シルティさんも同じ疑念を?」
「ええ。恐らくこの犯人……」
「……。はあぁ……」
同じ疑念。
つまるところ、元仲間の誰かが犯人という線。
仮にそうなら、穏便に済ませたいというのが人情である。
元々、前ギルドの蓄えなのだから尚更そうだ。
私欲に使うのはいただけないが。
「この金庫の鍵、常に私が身につけて管理しています。ですから合鍵も作れない、と言いたい所なんですが……」
「確か、以前はクレインさんが管理……」
「そこが大問題です、しょっちゅう机に放置しておりましたから。作ろうと思えば誰でも合鍵は作れたでしょう」
「クレインさんらしいですね……」
「そして何より、出入り口全てが施錠されていた、ということが問題ですね。犯行を終え出ていく際、わざわざ鍵を閉めたということですから」
「鍵を持っていなければ普通はしませんよね……」
「出入り口の鍵は幹部メンバー全員が所持していました。管理もそれぞれでしたから、やはり合鍵は簡単に作れたでしょう」
「はあ……。なんだか犯人探しも嫌ですね……」
「私とて同じ気持ちですが、泣き寝入りというのも癪です。内々に済ませるにしても、犯人ははっきりさせたいですね」
「そうですね……。また盗まれる可能性だってありますし……。……はあ」
「……」
悲しい顔をして落ち込むリリデスが、とかく不憫だ。
盗まれたことより、犯人のことを想っている。そして境遇を悲しんでいるのだろう。
優しい彼女のことだ、それぐらいは私にも分かる。
――同時に去来する懸念。
犯人を見つけたら、どうする気だろう。
何らかの「救済」を与えるのだろうか。それは非常にまずい。
カルラン流救済は洒落にならない。
「リリデス、一応聞いておきたいんですが……。あなたの教義では……こういう罪には、どういった罰が妥当となるんですかね」
「……ッ!!? シ、シシシルティさん!? と、と、とうとう信仰にご興味が……!? ああ、あああ……!? ああ……っ!! あああぁあぁ……っ!?」
「違います。断じて。断じて。……仮に犯人が見つかったら、ちょっと大変な事になったりしないかという心配が」
「……あ、ああ。そ、そういうことですか……。……カルランにおいては罪と罰の観念自体がありませんので……。倫理の逸脱は『生』が齎す悲しき災いといいますか……。あまりに度し難き所業ならまだしも、このぐらいでは別に何もしませんよ……」
「ではエクストリームな救済を施したりはしないんですね? 市中引き回しとか、水攻めとか、火炙りとか、車裂きとか……」
「しないですよ!? 社会規範に則って普通に『罰』を与えるべきかと……!」
「それはよかった。もしやと思いまして」
「シ、シルティさん、やはりカルランを誤解してませんか……!? 暴力や殺戮を旨とする教義じゃないんですからね!? 一度じっくりお話しを……!」
「結構です」
「うう、信仰に関しては冷たすぎます……」
「さて。不安要素は消えましたので、ひとつ彼に頼んでみましょうか。専門ではないでしょうが」
「……え。どなたか頼れる方がいるんですか?」
「追跡や痕跡探しにはうってつけの人物がおります」
「そんなお知り合いが? 流石シルティさんですね」
「あなたの知り合いでもありますよ、リリデス」
「え?」
「空いていればいいんですが……少し掛け合ってきましょう。お留守番頼みましたよ」
「は、はい。え?」
餅は餅屋。
逃げる者には追跡する者だ。
我々に足りない人材、ここは力を借りる他あるまい。




