1.盗人の侵入
週に一度の清掃ボランティア。
当初は戸惑っていたが――今でも戸惑っているが、多少は板についてきた。
最近はよく住民に挨拶されるようになった。リリデス程の愛想はないが、なんとか私も応える。
わざと笑顔を作るのは難しい。リリデスは褒めてくれるが、どうだろう。
同業者からの揶揄は勿論、ある。それは無視する。
リリデスはそれに対しても、笑顔で手を振る。私には到底出来ない。
その笑顔で、大抵の嘲笑は一度で終わる。次には相手も手を振ってくる。
手を振り合いながら、リリデスは歌うように叫ぶ。
「シルティさんを! ひいてはシルティ同胞団を皆様、どうぞよろしくお願いします! シルティ同胞団です! 導きの光~シルティ同胞団~をなにとぞ!」
これだけは本当にやめてほしい。
なのに何度お願いしてもやめてくれない。
いかがなものかと思う。
「ギルド名を覚えてもらうことは大切なことですよシルティさん! それがお仕事につながるはずです!」
一理あるので言い返せない。
正論とはこうも厄介なものなのだと思い知る。
ギルド改名を個人的目標としつつ、なんとかやっている。
ギルドの評判――リリデスの評判も、少しずつ改善されている、気がしないでもない。
信仰を抜きにすれば、良い子なのだ。その信仰が最大の問題なのだが。
興奮さえしなければそれを語ることも少なくなってきた。
素晴らしい進歩だと思う。
「お疲れ様でしたシルティさん。今日も善き活動が出来ました」
「お疲れ様でしたリリデス。この後は私に付き合っていただけませんか。狩ってみたい魔物がいまして」
「勿論です! シルティさんの赴く所であれば、どこへでも……!」
振り回されっぱなしだが、こういった生活も悪くはない。
今後も変わらず、彼女を支えていこう。
リリデスの笑顔に触れ、改めて思っていた矢先。
事件は起きた。
「……あれ? すみませんシルティさん。私の篭手、知りませんか?」
「篭手?」
擦り切れた修道服、巨大な槌、そして篭手。
この三つが、リリデスの基本武装である。
修道服は日常着だ。槌は勿論武器である。唯一の防具が、篭手である。
その唯一な防具が、無い。
「昨日、たしかにそこの棚で見た気がしますが」
「そうですよねぇ……おかしいですね、どこにいったんでしょう……」
二人で探すが、見当たらない。
確かに昨晩はあった。備品の確認中に見た、間違いない。
今朝は分からないが、どうだったか。
「あ、あれぇ? 本当にありませんね……。大切な貰い物なんですが……」
「もう少し探してみましょうか」
「は、はい」
……が、やはり無い。
なくても別段、リリデスの戦闘力は変わらない。
必殺リリデスパンチの威力は減るだろう。減ったところで必殺に変わりはない。
魔物はもれなく爆散し即死する。問題はない。
が、そういう問題ではない。無くなるのはおかしい。
「やっぱりありませんねぇ……」
「……。今日の清掃中、鍵はかけましたよね?」
「はい、それは間違いないです」
「今朝も鍵は閉まっていましたよね?」
「ええ。それももちろん」
「……ちょっと金庫も確認してみましょうか」
「え?」
金庫。
クレインが餞別として残してくれた資産が、多少はある。
現状、この資産で事務所の家賃を捻出している。
最後に確認したのは二週間前。それから手はつけていない。
「思い過ごしならいいんですが」
鍵を持ち出し、金庫を開ける。
心配し過ぎだとは思ったが。
杞憂、とはならなかった。
「……あれ!?」
「……」
やられた。
金が、ない。
「参りましたね、本当に……」
「え!? なんで……えぇ!? いつ……!?」
間違いない。盗まれた。
次から次へと問題が湧いてくる。
「お、お金が……!? どうしましょう、どうしましょう……!」
うろたえるリリデスをなだめつつ、どうするか考える。
ひとまず自警団に連絡しなければならない所ではある。
が……。




