6.クレインの憂鬱②
馬車に揺られての帰り道。
流れる景色をぼんやり眺めてみる。
特に何の感情も湧いてこない。一切が流れていく。
「……」
眉唾に過ぎない終末。
そいつを信じ不安に揺れる大衆。
まだ居もしない魔王。
そいつを倒す算段をしている権力。
馬鹿げている。どちらも幻想じゃないか。
その馬鹿げたまぼろしに巻き込まれる髭。
一層馬鹿げている。
いや、しかし。
そんな馬鹿計画に国を託さなきゃならん程、国が乱心しているとも思えない。
ジジイの発言から、何かを掴んでいるようではあるけれども。
……。
「お疲れのようですね、クレイン殿」
「ああ、んん……。疲れたねえ。どうも」
「いやはや、意外というかなんというか」
「ん? 何が?」
「いや、大変失礼な発言になりますが……。あの勇名轟くクレイン殿も、こうして我々同様、人並みに疲弊するのだな、と」
「そりゃそうだよお。僕なんかくたびれてばっかりだよ」
「ははあ。お強くともそうなのですね」
「強くなれば強くなる程、くたびれることも多くなってきたねえ。不思議なことに」
「そういうものなんでしょうかねえ」
「そういうもんなんだよねえ」
昔は、力を手に入れれば自由になれる気がしたんだけど。
気づけば、どんどん枷がついてまわっている。
まるで、自分から鎖に繋がれに行っているような。
「……」
「お疲れの所恐縮ですが。実は上の者からリストを預かっておりまして」
「……リスト? なにそれ」
「ええ。例の件に関して、報告必須のものを表にしたようでして」
「ええええマジぃ? そんなもんまで用意してんのおおおもおおおん」
「よろしければ読み上げますが」
「いいよいいよ。僕の特技は字を読むことなんだ」
「それはそれは」
表に目を通す。
「魔物の不自然な分布変動の発見、それに類する情報」
「悟性を有する魔物、その一団の発見、それに類する情報」
「統率的意志の元に組織された魔物一団の発見、それに類する情報」
「集積魔力不均衡の発見、それに類する情報」
目が滑ってもう何がなんだかわからん。
「駄目だ、字読めない……」
「え。い、いかがされましたかクレイン殿」
「強くなればなる程に文章が読めなくなるんだアンスくん……」
「それはいささかわかりかねますが……。なんとか覚えていただきたく」
「はあいはいはい……。ん…………」
滑りゆく先の、最後の一行。
気になる一文を、見つけた。
「……」
「教会関係者一団の目撃、遭遇、それに類する情報」
「ははあ。ふうん……」
国家と教会。権力と権力。
「魔王討伐レース」って所かなあ。
それとも……。
「……全て覚えていただきましたら、その表はこちらで処分いたします。また本日の謁見内容、その他に関しまして、現状他言は一切無用で……」
「はいはい……」
いよいよきな臭くなってきた。
いい香りだけを嗅いでいたいもんだ。
焼き立てのパンケーキみたいな……。




