4.クレインの謁見①
「――ではボディチェックを行います。決まり事ゆえ、ご了承願います」
「はあいはい、どうぞどうぞ」
「異常なしですね。では身体強化魔法等は解除していただいて……」
「はあいはいはいやってるやってる」
「それでは魔封じの腕輪をつけさせて頂きます。無理に外そうとすると警告音が……」
「はあいはいはいはいはいはいしってるしってる」
「失礼。では……」
――ようやく通された小さな部屋で十五分ほど待機。
人を呼んでおいて待たせるとは随分なご身分だよ。
実際髄分なご身分なんだけど。
……足音が聞こえてきた。
ようやく来た、扉が開く。
面倒と思いながらも、入ってきた爺さんにご挨拶。
ひざまずきながら。
「……お久しぶりにございます、陛下」
「おお、おお、久しぶりだなクレイン。よいよい、余とお主の仲だ、面倒な儀礼はやめい」
「は、そう仰いますが」
「いいから面を上げんか。お主にそういうことされるとこそばゆくてかなわんわ」
「では失礼して……」
老齢ながら、胸板厚い大柄の陛下。
いまだ筋肉質な身体に衰えは見られない。
まだ当分死ななそう。隠居もしなさそう。困る。
「ところで、今日はどういった用件で……」
「いや、ちょっと世間話したいなと思ってな。ほれ、環境が環境だからな……世間のナマな情報を知りたいというかな?」
絶対嘘に決まってるよもおおん。
世間話で庶民呼ぶなんざあるわけない。なんか別の目的あるよこの爺さん。
こういう腹のさぐりあいが嫌なんだよ本当に。
「なんじゃ、ものすんごい面倒くさそうな顔しおって」
「まさかそんな、あっはっはっはあ」
「いや、半分は本当に世間話したいと思ってだな……。噂に聞いたぞお主、ギルド分裂したとかなんとか」
「ウッ……!」
「数ヶ月前までは覇権ギルドとして名を馳せておったに……。なんでも妙な奴のせいで人が離れおったとか」
「まあ、それはそうなんですが、和解したといいますかね……」
「そこを詳しく教えんかい! ホレホレ!」
いきなり言いたくない話に触れられる。
「邪教徒の布教行為のせいで」なんて正直に言える訳がない。大変なことになる。
しかし完全な嘘もそれはそれで整合性つけるの難しそうだし。
どうすっかなあ。
「……つまりですね。まあ、ちょっと新興宗教にハマった子がおりまして。ギルド内での勧誘行為が目に余りましてな……」
「知っとる知っとる。リリデスとかいう奴じゃろ? 例の盗賊共を一人で殲滅した化物だとかなんとか」
知ってんなら聞いてんじゃねえぞボケがああああ。
なに試してんだクソジジイがよおおおおお危ねえくっそおおお。
ボケえええええええええええええ死ねえええあああああああああああ。
「ま、まあその子がちょっとですな……なかなか言ってもわからない子だったので……逆に我々が脱けて、こう……分かってもらう的な?」
「随分回りくどいのう……。そんなに厄介な奴なのか、そのリリデスとかいうのは?」
「いやいや! もうしっかり改心したようでハイ! 謝罪の手紙なんかも受け取りましてね? もうきれいさっぱりな感じなんですよハイ」
「信仰の自由は建前として認めとるが……目に余る団体は教会と協力して『処分』できるぞ? なんなら協力するが大丈夫かの?」
あの化物を処分できる訳ねえだろうがボケナスボケボケボジェボケボケ。
分かってねえんだよ実際に見てねえからこのロートルは。
てめえらが逆処分されるわされろアホアホアホアホアアホアホホホンホホ。
「いやいやいやいやいや本当に! 本当に大丈夫……大丈夫ですのでね!? 」
「本当か……? 気軽に相談するのだぞ? 自分だけで解決しようとするなよ?」
「いやあ全くもって頼りになるお言葉にございます……」
「……ところで、そいつがあのシルティ――ギーゼル家の令嬢と一緒にギルド続けてるとかで、心配の声があがっとるんじゃが……」
なんでも知ってやがるなこの痴呆老人はよおおおおおおお。
どっからそんな噂聞いてんだあああ糞大臣どもかあああ糞大臣どもはどっから聞いてんだあああ糞貴族どもかああああ。
ああああああああああおおおおおおあああしねええええええええええああああああ。
「い、いや、ですからね。シルティくん、どうも放っておけないようで……それで面倒を見るため一時的にこういう形をとった訳なんですよハイ。いずれはまたギルド統一予定ですよはははは」
「洗脳されたとかじゃないのか? 本当に大丈夫なのか? もしそうなら大問題じゃぞ? もしそうならやっぱりこちらでも協力……」
「本当! 本当に大丈夫ですんでハイ! むしろリリデスくんの目が覚めたというか! 流石はシルティくんと言いますか! 人格矯正がうまいんですよシルティくんはははハハハハハ」
「ふーん……。しかしなクレイン、お主のギルドだからこそ、ギーゼル家も万歩、いや億歩譲って、断腸の思いで渋々に冒険活動を黙認しとったんじゃぞ? 今後どうなるか……」
「か、彼女も頑固ですから……面倒を見ると言い出したらもう一直線! って感じでハイ……」
「ふうん……。ま、いずれはそのシルティとも会ってお話してみたいもんだのう。いずれ日を改めて使者でも出してみるかの」
クソジジイいいいいい口裏合わせなくいけなくなったじゃねえかあああ。
いらねえ仕事増やしてんじゃねええええジジイのくせによおおおおおおおおおおお。
だからジジイは嫌いんだよおおおおジジイイイくたばれジジジジジジジジあああああんあん。
「そうだそうだ、ギーゼルの爺さんともたまには会ってみるか! 随分と孫娘の心配をしておったようだしの。彼女と縁の深いあの若造も……」
「いやあ本当にお話がだいすきですねジジイはよおおおおあぁぁぁぁぁ」
「!? いきなり本音漏らすなびっくりするわ!」
「!!? し、失敬! あまりにジジイがクソジジイで……!」
「少しは取り繕う姿勢みせろよ!?」
やっちまったああああああああジジイイイイイ死ねえええええ。
でもジジイにジジイと言って悪いかよお実際ジジイじゃねええかよお。
悪いんだよなああああこいつ陛下だもんなあああああんあんああんあんあん。
「……まあよい。そういうところが好きじゃぞクレイン。そうじゃ、昔は不遜が過ぎる程のクソガキだったものな、フフフ……。普通なら処刑されとるわい」
「む、昔の話です。ご容赦を……」
「しかしそんな態度なぞどうでもよくなる程、お主の剣技は冴えておった……。余は痺れたものだ、今でもあの剣術大会の数々を思い出す……。お主の絶技の数々を……」
「過去の栄光というものです、んふっ。んっふっ」
「すがりまくってない……?」
「――ま、ギルドの件はさておき本題はもう一件。実はこっちの方が重要なんじゃが……」
「えええええまだあるんですかもおおおおおお帰らせてくださいよおおおおおおおおお」
「さっきから本性迸らせすぎだろ!? なに早々に飽きてきとんじゃ! 集中せんかい集中ッ!」
「勘弁してくださいよおおおお最近めっちゃ疲れてんですからあああああんんあああはんあんあん」
「いいから聞け! お主とも関係ある話なのだ……。血統の方だがな」
「はああああん?(Vib.)」
「ビブラート奏でてんじゃねえ。……クレイン。お主、ここ最近の終末論については知っておるな」
「はあ。そりゃまあ、誰でも……」
「……」
「? 陛下……?」
一層雲行きが怪しくなってきた謁見。
帰りたい。帰ったらまた会議だ。やっぱ帰りたくもない。
ひたすら眠っていたい……。




