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「宗教勧誘しただけなのに追放されそうです……」  作者: 頭いたお
12章 キミエラ、王都へ行く
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5.キミエラ、警戒される

 ――グスタフ殿は奇声を発して倒れ、そのまま運び出されていった。

 騒然とするかと思いきや、普通に笑って見送るカタリナ殿。

 執事長殿も案外暢気な様子。いいのだろうか。



「誠に申し訳ない……! エーリス! チンコパンチは駄目だとあれほど……!」


「でも結果的に勝った訳だし、今後は私が当主だから問題ないよ」


「恐らくそういうシステムではない……」


「すごいよ~エリちゃん、一日にして当主の座を奪うなんて!」


「この老体、新たな当主様に忠誠を尽くす所存で御座います」


「そういうシステムだった……」



 貴族制とは案外単純な制度なのかもしれぬ。

 かくして新当主を中心に、お茶をいただきながら歓談。



「まずは改めて。……エーリスを受け入れてくださるとの由、友人として感謝に堪えない。彼女の現養母、ミューゼ殿に代わり厚く礼を申し上げる」


「全然いいんですよぉ~。形としては養子ですけど、友人として迎え入れるつもりなので~」


「……。部外者ながら。貴殿らは本当に問題ないのだろうか? 形式上とはいえ、子なのだろう?」


「問題ねえぜキミちゃん」


「ほら、当主ちゃんもそう言ってる~」


「当主が言うならいいか……」


「――ええい、勝手に当主を自称するな……! 妙な下剋上制度を捏造するんじゃない……!」


「あ。グスタフちゃんおかえり~」



 脂汗を流しながら舞い戻るグスタフ殿。素晴らしいガッツである。

 それに対し、ファイティングポーズをとり防衛戦へ参じる気満々のエーリス。

 ひとまず現当主を押さえつけながら、先の質問を旧当主へ投げかける。



「いや、こちらとしては問題ない。姉上が決めたのならそれで構わないさ。……若干後悔気味だが」


「ならばいいのだが。……少々意外だった。貴族とはもっと不可侵なものかと」


「我が家は代々、社会奉仕の一環として孤児らを養子にとってきた慣例がある。さほどおかしな話ではないよ。……ただ、ゴルディウムを名乗れる訳ではないし、純粋な『貴族』となれる訳でもない。少々特殊な立場になるのだが……」


「……え、そうなん? なーんだ、みんなと一緒に平民共を嬲りものにしようと思ってたのに……」


「我々をなんだと思ってるんだ……」


「だけど立派な家族の一員だよ~! これからはエリちゃんと一緒にぃ、奉仕活動したいと思ってるんだ~」


「奉仕? 失礼だが、カタリナ殿は何をなされているのだ?」


「姉上の活動は幅広い。教育支援に環境保全、社会的弱者らへの援助等々……。自ら先頭に立ち、日夜その身を粉にしていらっしゃる」



 言うは易し、やるは難し。

 私とて修道院時代の経験があるから分かる。

 一時の無償奉仕は容易い。それを常時の活動とするには多くの困難が付き纏う。

 エーリスは、良き人に引き取られたようだ。



「他にもプロレスのチャリティー興行したり~、謎の覆面レスラーとしてリングにあがったり~」


「何してんですか姉上」


「道理であんな凶悪な空中殺法使えたんだね……。あの時の傷が疼くよリナちゃん……」


「今度はその『心』にも傷を作ってあげるよエリちゃん……」


「君達ほんとに仲良しなん?」







「――さて。よければ屋敷でも案内しよう。ミハエル頼めるか」


「当主様、わたくしが案内係でよろしいで御座いましょうか?」


「グスタフの奴めに案内させぃ」


「よろしくお願い致します若様」


「おのれら」



 なんだかんだで案内役を務めてくれるグスタフ殿。

 チンコパンチも咎めぬあたり、度量の大きさは中々の物とお見受けした。

 先程から恐縮するばかりの私である。エーリスにも多少は恐縮してほしい。



「……あ! あれっすよあれ! カタリナ様の養子ちゃん! かわい~!」



 途中、使用人の方々が三人ほど近づいてきた。

 赤毛の小柄なメイド殿。少々気だるげなメイド殿。筋骨隆々ダンディな執事殿。

 新たなご当主様を囲みながら、俄にわいわいと活気付く。

 …………。



「出たな三馬鹿。持ち場へ戻れ」


「ちょっとぐらい良いじゃねッスか! あたしケイト! よろしくッス!」


「うむ! 私が新たなる当主代理のエーリスである。よきにはからえぃ」


「新当主様ばんざーい! 旧当主代理はくたばれー!!」




 楽しそうにはしゃぎながら、屋敷を巡る彼らを他所に。

 私の緊張はまた高まっていた。



 この三名の使用人。異常だ。

 ……いや、彼らだけではない。屋敷にいる使用人全てが、普通ではない。

 無邪気に笑い合っている一方で、警戒を――そうだ、私を警戒している。


 笑顔は本物だ。楽しく騒いでいるのも確かだ。嘘ではない。

 それでもほんの微か、無意識レベルの警戒を、こちらに傾けている。

 余程の訓練を受けていなければ出来ぬ、そういう注意の払い方だ。


 殊、ミハエル殿に至っては尋常ではない。

 隠しきれぬ、私に向けられる刺々しい気。

 万が一を想定し、常に主人を守らんとしている。

 「異物」としての私――「武力」を持つ私に対しての、警戒。



 全員、私兵か。

 封建時代ならともかく、今では貴族とて所有は禁じられているはずだが。

 ……何事にも抜け穴とはあるものだ。



「――あくまで我らは『使用人』で御座います。ただ単に、各々が主人をお守りする『力』を持っている、ただそれだけの事で御座います」


「む? ……声に出ていただろうか」


「御推察したまでで」


「……。私は王室に忠誠を誓う者ではない。法の番人ではなく、神が掟の番人。安心してくれミハエル殿、私は常に友好を重んずる。警戒を解いて下されば有り難い」


「なんとも慈悲深き御心。安心した次第で御座います」


「……あ! また心を読んでるッスね! めんどくせえジジイッス~」


「ふむ。ミハエル殿は心が読めるのか?」


「そういうふりッスよ。からかうのが上手なんスから全く」


「老いのなせる技で御座いますれば」



 読心術とは凄い。

 ならば私が常日頃考えているオリジナルモンスターも読み取ってくれるだろうか。



「むーん」



 先日考案したオリモン「暗黒大怪蟲ヒルコエビス」を心に念じてみる。

 全長30mの巨体を誇る虫類最強モンスターである。

 攻撃力は7000、防御力に至っては12000超。竜をも屠るすごい奴だ。



「……。…………? ………………っ?」


「どうしたんスかミハ爺」


「…………っ? ? ?」



 通じなかった。



「図にしよう。こういうモンスターなのだが」


「…………? …………っ??」



 無念。



「!? 超かっこいい!!!!!!」


「やったあ!!!」



 カタリナ殿は大いに喜んでくれた。

 飛び上がりたい程うれしかった。実際飛び上がった。

 なんと額に入れてギャラリーに飾ってくれた。

 三回ほど飛び上がった。







「――そろそろ日も暮れるな。少し早いが、是非とも夕食を共にしてくれ。キャミー、彼女たちにも……」


「あ、ごめんなさい! あたし達、他に約束があって。今日はもうお暇しなきゃ!」


「え~!? ご飯いっしょに食べないのエリちゃん?」


「これから毎日一緒に食べるんだからいいっしょ! 実は友達がパーティーの準備してくれててさ!」


「うむ。誠に申し訳ないのだが……」


「そうか。キミエラ氏からはもっと話を聞きたかったのだが……残念だな」


「こちらもだ。……よろしければ、エーリスへ会いに今後も伺っていいだろうか? いや、不躾な願いだとは思うが」


「それはありがたいことだ! 是非とも来てくれキミエラ氏、歓迎しよう!」


「それじゃーまたねリナちゃん! みんなも今日はありがとう! グスタフ君はもう少し使用人としての自覚に目覚めてね!」


「この老体めが責任をもって一から教育致しますれば」


「致すな」




 夕暮れの中、手を振り合いながら別れた。

 結果的に、第一の任は大成功といった所。

 彼らの器の大きさに感服である。


 私兵だらけの空間には懸念も抱いたが、今ではそれも安心に繋がっている。

 ただただ主人を守らんとする、その一点のみに注がれた警戒心。

 彼らの存在は、エーリスを危険から遠ざけてくれる事だろう。


 とかく彼らの深き度量に救われた形になった。

 この巡り合わせも、きっと神のお導きであろう。



「良き人達だったなエーリス。私の不安も消えたよ」


「みんな面白くって優しい人達だったね! あそこで暮らすの楽しみ!」


「ああ。……この出会いをもたらしてくれた神に、感謝しよう」


「うん!」



 共に立ち止まって、感謝の祈り。

 この時ばかりは、エーリスも顔も穏やかになる。

 万物への感謝。これさえ忘れなければ、彼女はきっと大丈夫だ。



 祈りを終え、晴れやかな気持ちで。

 再度スティキュラ殿の下へ――。


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